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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
24/111

少女等のプロファイリング

本日は休日なんですね^^ 全国的に天気は曇りや雨のようですが、そろそろ桜の開花が始まりそうで嬉しい気持ちになりますねぇ! 当方も桜の名所でお花見の予定がありますよぅ! 花より団子というように沢山のオヤツを持って楽しみたいですねぇ!

「夏南さん、身体洗ってあげるっすよ!」



 スポンジに高級なボディーソープをつけて欄は泡立てる。欄の表情はなまめかしく、女であるハズなのに夏南は身の危険を感じて断る。



「いいわよ。身体くらい自分で洗えるから」



 そう言って顔を背けるとざばぁという音と共にヘカが湯舟から上がると欄の前に座る。それは殿様が家臣に身体を洗わせるように。



「ヘカ先生、いい加減自分で洗ってくださいっす」

「夏南ちゃんはよくてヘカはダメなん?」

「めんどくせー先生っすね」



 そう言ってシャンプーハットをヘカに被せるとわしゃわしゃと髪の毛を洗い始める。そんな様子を見ている夏南に欄は目を合わせて話し出す。



「こんだけ人が死んでいて、犯人のめどがつかないっておかしくねーすか? 数学でわりと簡単に犯人の行動範囲は絞れるんすよ。陽葵は髪の毛とかそういう物的証拠ばかり気にしてるっすけど」



 事実、数学学者が2004年に起こした痛ましい事件の犯人を去年割り出した話は意外にも有名である。事件が起きた場所と犯行方法から犯人の行動範囲は大きく絞れる。

 そして殺し方で大体ある程度どういう殺しなのかすらもプロファインリングしてしまう連中が事実日本にも、世界にも存在するのだ。



「欄さんは何がいいたいの?」

「そうっすね。警察が泳がしているって事っすかね」



 警察は正義の味方ではない、法の番人なのだ。確実性を得る為に、行動に出ない事がある。それ故、時すでに遅しで亡くなるストーカー被害者が数多くいる事。それと同意で陽葵と紗雪に既に狙いを定めているのかもしれない。

 いくら犠牲者が出ても確実に彼女達を捕まえる一手をと警察は思っているんじゃないというのが欄の意見。

 それは、何度となく警察にお世話になった欄だからこそ言える一言。

 そしてここでもう一つ欄が語る。



「智一さんのお礼に関してはよくできてるっすね。自殺だと保険金は入ってこねーっすから、丁度殺してもらえて悩みのタネが減ったっす。もし、智一さんが殺されるような事がなければ、智一さんは弟の命を奪ったかもしれないっすね。ある意味紗雪への陽葵と同じ気持ちっすよ」



 欄の言葉の意味が分からず夏南は聞き返す。



「それって?」

「弟を楽にしてあげる方法、手術ができねーならあと一つしかねーじゃねーすか」



 湯舟に入っているハズなのに、ゾクっと夏南の根筋が冷たくなる。欄はシャワーを使わずにケロリンとかかれた洗面器でヘカの頭をすすぐ。



「紗雪さん、両親殺しちまいましたね。まぁ、もとより殺されるべき両親ではあったかもしれねーすけど」



 突然の発作だったのか、陽葵が気が付いた時には両親は物言わぬ躯と化していた。そこで陽葵の意気地は折れ、死を考える。



「夏南ちゃんが陽葵だったらどうするん? もうあきらめるん?」



 さて、自分ならどうすべきだろうか? 共に終わりに身を委ねるか、それとも陽葵が下したようにさらに深みにはまっていこうとするのか……

 夏南ははじめて入ったワイン風呂のせいか、あるいは本当にのぼせたのか、もしかすると自分も陽葵、彼女のように修羅の道を歩む夢想をしかけたが、夏南はその考えを振りほどき凛とした顔で言う。



「私なら、紗雪を連れて警察に出頭する。今までの殺人も、全部告白した上で助けを求めると思う」



 ヘカと欄のゆさぶりを夏南は回避した。小さくヘカはチッっと舌打ちするので夏南は我に返る。彼女等は自分を落とし込もうとしていたのだ。自分がこの作品を認めてしまえばあの純真無垢な秋文に『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を読む事を承諾してしまう。



「二人とも、私を騙したのね!」

「騙そうとはしてねーっすよ」



 猫みたいな口をして笑う欄、そして髪をぬぐい終えたヘカは椅子から立ち上がる。ヘカは恥じらいというものを感じていない。先ほどから欄ばかり意識が向かっていたが、ヘカのやや成長が遅いその身体を見て夏南が思った事。

 陶器のような肌とはこういう物を言うのか? 生白い肌に傷一つない、小ぶりな胸は熟れる前の果実のようで、鎖骨、首とユニセックスな雰囲気を漂うヘカの髪の色。不自然に染めた黒のように真っ黒、漆黒、それらに反し目の隈の不健康な事。


(怖い)


 ヘカはあまりにも作り物じみている。当然、人間であるのだが、愛玩用に作られた人形のようで、手足が球体関節である方がしっくりきそうだとそう思う。

 そんなヘカは「とう! なん」と言って湯舟にダイブする。

 湯の柱が上がる。それは夏南にどしゃぶりの雨が襲うように頭上からお湯の雫が降り注いだ。



「きゃああ!」



 先ほどまで一瞬怖いと思ったヘカのその行動。小学生でもこんな事はしない。だんだんと夏南に冷静さを取り戻させてくれる。女の子なら誰しもが憧れるような肌のキメも髪の艶もヘカは興味がないように自分の快楽を優先する。



「ヘカは自由だね」



 女子高生ははたから見ればのびのびと我を通して生きているように見えるかもしれない。だが実際は友人と現実、家庭環境と残り時間に振り回され、ヘカのように完全な自由人にはなりえない。それは陽葵が感じている日々の毎日。あれは意外と多くの学生が感じている事。

 さらに言えばリア充と呼ばれた連中だって腹の底では未来への不安を抱えているものだ。それがこのヘカはどうだろう。顔を半分湯舟に沈めてぶくぶくと行儀の悪い事この上ない。

 そして顔を湯舟から出すと呟くように言う。



「二人は、両親の死体を燃やす事にしたんな」



 浴室で反響するヘカの声の中毒性の高い事。夏南は考える。凶器によって殺害された両親、正確には母親はまだ息があるのだが、そこに火をつけ全焼させようというのだ。

 それはあまりにも……



「いくらなんでも証拠隠滅に思われるんじゃないかな?」

「そうなんな」



 ヘカが何かを言おうとした時、プーンと甘い香りが漂う。まさかとは思ったが、夏南が振り向いた先、欄が当然のように楽な姿勢でリトルシガーをふかしていた。それはバニラエッセンスのようだと夏南は思う。



「こんな、甘い香りの中で灰になるならあそこまで曲がったご両親も浄化されっすかね? にしても本当に陽葵さんは優しいっすね。自分なら母親が息絶えるまでの時間を時計を見ながら確認するっすけどね」



 どういう事か? 陽葵は瀕死の母親に一つ悪態をついて家を出る。それに対して欄は死の瞬間まで待つという。親の死に目を看取る方が優しいような気が夏南はしていた。



「子守唄を歌ってあげるんすよ。今までの仕打ちについて、死にゆくその瞬間を祈りの時間にしてもらうんす。そして、当然ゆるさねーっすよね」



 まただ。

 欄は嫌な笑みを見せる。何を見てきたらそんな目が出来るのか、多分夏南は生涯その本質を理解する境地には届かないだろう。

 甘くそしてなんだか重い煙を欄は吐くと、普段通り人懐っこい表情に戻る。



「今回、家を放火するなら、宗教を絡めた物取り殺人の犯行あたりに偽装するのがベストかもしれねーっすね。公安からのストップが入りいくらか捜査を混乱させれるかもしれねーっす」



 名前を出せば記憶に新しいとある事件、それが犯人まで特定されているのにも関わらず、突然の捜査打ち切りとなった。まさにそれと同じ環境を欄は言わんとしている。



「でもそんな小細工じゃ……」

「世の中には無意味な小細工と、警察組織すら制止できる小細工ってのがあるんすよ。だからここでは陽葵さんは、惨状をそのままロケーションにしてしまうのが一番なんすよ」



 作中の陽葵は表面証拠を消して、特定されない鑑識方法が選ばれる事に望みをかける。中学生の子供にしては少々、頑張った方だろう。そして、それ故に中学生らしい思考回路ともいえる。



「陽葵さんの考えは正しいっすよ。どんだけ工作を講じても、修羅場をくぐってきた鑑識の前ではあらゆる証拠が見つかるっす。某義父殺しの犯人。あれも現場刑事は騙せてもベテラン刑事、所謂鑑識を騙すには至らなかったんすよ……おっと、この情報は内密にお願いするっすよ。公表されてねーんすから」



 欄の言葉を聞いて、いよいよこの欄が何者か分からなくなってきた。自分の隣で気持ちよさそうに口を開けているヘカといい。この二人はよく考えると不気味だ。



「紗雪たんは両親の命というメインディッシュを食べたんな? でもまた小腹がすくのでスイーツを食べに行くん。実に滑稽なん」



 両親の肝は喰らったので、その両親を今は薪にして、甘い甘いお菓子を食べに行く。そこには一抹の不安もなく、ただ陽葵と共に向かう事への楽しみを膨らませ、やはり陽葵を少し困らせる。

 いつもの紗雪。

 それにやはりおかしいと気づくのは夏南。



「両親を殺して、おかしくない? 両親は紗雪の事をとっても大事にしてたんでしょ?」



 寵愛し溺愛していたであろう描写が文章から読み取れる。それに対して読み取れるヒントはいくらか隠れている。

 それをヘカは話し出した。



「動物と人間って心を通わせられると思うん?」



 夏南は答えられない。犬猫はわりと人間の躾けをきくが、あれは心を通わせた結果ではなく訓練の結果の賜物でしかない。



「夏南ちゃん、顔に書いてあるん。そう、できないんよ。どれだけじゃれてても猛獣は突然牙を剥くもんなんな? 陽葵タンが母親に最後に話をした時、母親はようやく気付いたん。自分達が何処に出しても恥ずかしくないとんでもない化物を育てていたという事をなん」



 死を前にしてようやく母親は知る。

 虎や熊のような猛獣と人は領分を侵さずに生活する事は不可能。食い殺されるか、射殺するか……そして今回は紗雪という猛獣の牙に倒れる事となった。



「知ってるん? 動物はたまに鏡に映った自分を攻撃しようとするん。案外欄ちゃんが言ってたみたいに、陽葵たんが紗雪たんを救う方法は一つなのかもしれないんな?」



 そう言うとヘカはざばぁと風呂から上がり、それに続くように欄も出た。一人取り残された夏南は二人を追いかけるように浴室が上がる。



「ちょっと、待ちなさいよ!」

『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』本作を読むと後天性のサイコパスと先天性のサイコパスがいるのではないかなと感じますよぅ! まさにそれは性善説と性悪説みたいなものかもしれませんね! 実は段々とメイン主人公の陽葵さんが壊れていく様子が描写されていくのですが、実のところ陽葵さんは非常に賢い方です。壊れながらもたった一つの事を成し遂げられるのか実に見どころではありますね!

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