表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
23/111

それをお風呂回と言う

三月は去ると言いますがもう半ばを過ぎましたね! もう今年が三か月も経ってしまったという事で実に時間の過ぎ去るスピードについていくのが大変です! 三月と四月は出会いと別れの時期です。この時期の読書は少し切ない作品がオススメですねぇ!

 秋文を家に帰してから三人はミスタードーナッツを購入して、ヘカのマンションに夏南を招いた。これからは女子会なのである。

 インスタントの紅茶を淹れるとヘカと夏南、そして欄は自分のカップをテーブルに置き、帰りに購入したミスタードーナッツを真ん中に配置。

 夏南は自分のスマホを見ながら、うっとりとこう言った。



「紗雪が涙を浮かべてほほ笑むシーン、とっても綺麗な表現じゃない?」



 ”銀の雫を瞳に浮かべたまま、紗雪が微笑む。いつものように、神々しく清浄な微笑”というくだりについて、確かに言わんとしている事は分かるし、素敵な表現だろう。

 だが、アウトロー組の二人はドーナッツを頬張りながらこう返した。



「そうっすか?」

「なんか盛りすぎなんな。前半の表現と後半の表現で地味にかみ合ってないん。だから、これを良いと思うのはド素人の読み手なんよ」



 夏南の気持ちを余裕でズタズタにするヘカ、それに夏南は頬を膨らませドーナッツにかぶりつく。何か反撃の言葉を考えていた夏南にヘカは先に話し出す。



「陽葵が言うとおり、何故か紗雪はまともな行動をここで取ってるんな? それの方が気になるん」



 雨合羽を捨てるかどうか問題。それに関して夏南が凄く雑な事を言ってのけた。



「これって燃やしちゃう方が早くない? あっ……」



 またヘカと欄に突っ込まれるかと思った夏南だったが、それに関しては欄は手をポンと叩く。



「それ正解っすね。家の外で燃やしてしまえばいいんすよ」



 バレるのではないか? そう思うかもしれないが、時代背景的に何処でも野焼きがされていた。問題になるのは本作の時代から五、六年後となる。



「そうっすね。家の他のゴミと一緒に燃やしてしまえばそれで終わりっすよ。むしろ何処かに捨てに行く方が怪しいっすね。埋めるなんてありえねーっす。夏南さん、中々見どころあるっすよ!」



 まさか褒めらるとは思わなかった夏南。何処までも現実的に話を進める欄、そんな中ヘカが思い立ったように言う。



「風呂に入りたいん」

「自動押してるっすから、あと2、30分で沸くっすよ。ヘカ先生はインフルンザでも熱い風呂に入るっすから、化け物すよね」

「あれは、欄ちゃんがヘカにわざわざ感染させたん!」



 去年、欄は初対面のヘカにインフルエンザウィルスを感染させ、即売会に参加できないように工作した。それをまだ根に持っているヘカ。



「あれは悪かったっすよ! そんな事より、アリスってスーパーのマークが麒麟なんすかねー! 不思議っすねぇ!」



 話を逸らす欄にヘカが即答する。



「麒麟は麒が雄、麟が雌なん。アリスは女の子でも男の子でも使える名前だからなん。話をそらしても無駄なんよ?」



 果たしてそんな意味が作中で考えられているかは不明だが、ヘカは詰将棋のようにしつこい。


(なんでこういう時の思考はクリアなんすかねぇ)


 すみませんっすと謝る欄と中々機嫌を直さないヘカ。悉く夏南が素敵だと思う文章をディスる二人だが、激しく評価している部分について語りだした。



「風呂の描写良い感じなんな。風呂の温度、触れる湯舟の感覚、そして魂が天に帰る瞬間と評するところなんて面白ん」



『お風呂が沸きました』


 ヘカのマンションのお風呂がそう告知するので、ヘカがタオルを持ってこう言った。



「風呂で考察するん。今日は夏南ちゃんは泊っていくといいんよ」

「えっ……いいの? って、お風呂でって一緒に?」



 夏南が理解できないでいる中、よいっしょっと欄も立ち上がる。入るつもりなんだろう。動けないでいる夏南に大声でヘカが呼ぶ。仕方がないのでバスルームに向かうと、そこはリフォームしたのだろう。明らかに大きなバスルームが夏南を出迎えた。



「広くない?」

「となりの部屋を自分が買って、壁くりぬいてバスルームにしてるんすよ」



 ちょっとした銭湯くらいの風呂が広がる。小さいながらサウナまであるヘカのマンション。バスルームの方が生活や作業を行うスペースよりも広い。

 欄にタオルを渡されるのでそれを巻いて夏南は浴室に入った。

 ヘカはもう既に風呂に浸かり、ジョッキでコーラなんかを飲んでいる。欄は身体に塩を塗り込み、大理石のプレートの上でまったりしていた。



「なにここ……」



 ドン引きしている夏南に突然ヘカが話しかける。



「陽葵の一つ、褒めてあげたいところは、何でも一生懸命すぎるところなんな? 自分が思った事は絶対にやらないといけない。それで無理がたたるんよ」



 珍しく普通の事をやはり言うヘカに、ストレッチなんかをしている欄は独り言のように言う。



「ヘカ先生は三徹、四徹平気でするんすからヘカ先生が言えた事じゃねーっすよね」



 この二人は仲が良いのか悪いのか不思議な関係である。欄は色っぽく、美しい女性だ。明らかに男を知っている感じがする。自分の身体のメンテナンスを念入りにするところから女という武器をよく分かっているのだろう。

 片やヘカ、多分人形のように可愛らしいハズなのだが、髪の毛はボサボサ、目には隈、肌が恐ろしく白いので不健康さしか入って来ない。今やお湯でキューティクルが開いているのだが、この手入れもしないのだろう。



「二人は死した時に、天と地に分かれると言ってるけど、紗雪は本当に自分の翼を折ってでもついていきそうだよね?」



 紗雪の依存性はもはや病気である。それ故、道が別つのであればついてくるのは自然の摂理だろう。



「どうなんすかね? もし人の言う地獄があるのなら二人とも仲良く地獄行きじゃないんすかね? でそこで罪を償って極楽に、いや輪廻すかね?」



 地獄というところは、簡単に言えば魂の洗濯をするところであり、最も深い地獄と言われているところですら無限ではない。有限で、罪が終わる時が必ずやってくる。



「どういう事?」

「一番の罪は生まれ変わる事なんすよ? 極楽で魂を休息できねーんす。だから仲良く二人で輪廻転生(リンカーネイション)、生まれ変わり、二人からすればそれはそれで幸せなんじゃねーすかね」

「でも罪なら、二人は別々に生まれ変わるんじゃない?」



 夏南の意見を聞いて欄は起き上がると塩をかけ湯で流す。そして少し伸びをしたら湯舟にちゃぽんと入った。



「夏南さん、結構残酷っすね」



 口元を猫みたいにした欄は目を瞑って風呂を楽しむ。見せつけているのかという大人ボディから目を背けて夏南は、もう一人の変人。ヘカを見ると何やら珍妙な表情。



「ヘカどうしたの?」

「……昔、業火に焼かれていたような覚えがあるん」



 一体何を言っているのかと、夏南は思ったが、欄は寝ているのか微動だにしない。夏南はこの頭のイカれた女子二人と風呂に入っている理由。

『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を見極めにきたのだ。



「夏南さんはモクをやるんすか?」



 きたきた。唐突な意味の分からない質問。夏南は心底、ここに来た事を失敗したと思う。この二人は正真正銘本物の変人だ。

 しかし、やられっぱなしは段々腹が立ってきた。



「モクってなに?」

「煙草っすよ」

「吸うわけないでしょ?」

「そんな事ねーっすよ。紗雪もそうっすけど副流煙吸いまくりじゃねーすか、何処まで本当か知らねーすけど、フィルター通してない分身体に悪いとかなんとか」



 ほらきた。また揚げ足取りかと、だったらこの二人に礼儀はいらない。



「死の恐怖がない人ってどんなだと思う?」



 紗雪の感性に関して、答えのない質問を聞いてみた。ヘカは答えない。大体夏南は気づいた。ヘカと欄は回答の得意分野が違う。恐らくこれは欄だろうと夏南は思った。



「昔、ドキュメンタリーがあったんすよ。余命宣告された男性が死ぬまで追った研究映画っすね。最初、男性は死は怖くないと言うんす」



 この映画は観て頂くのが一番だろうが、最終的に男性は恐ろしく醜い命乞いにも似た発言を繰り返す。結果、死を恐れない人間はいない。それを証明した作品である。



「紗雪さんは、死という概念がどういったものか理解すれば、恐らく発狂するんじゃないすかね? 陽葵さんとの永劫の別れ、さらに言えば死は無に還るだけ、天国も地獄もねーんすよ。てな事を理解すればどうすかね?」



 そういう事なのだ。陽葵も何処かで語っていたが、意味を理解した時、紗雪は化け者でなくなる。殺した者への贖罪と、自分の存在の不安定さに恐怖し、絶望し、決壊したダムのように崩れ去るのではないかと。



「あとさ、二人の両親、異常すぎない? 私は紗雪と陽葵より彼女達の両親の異常性の方が気になるかな」



 そんな事を言っている夏南が気づいた事として、欄はワイングラスに真っ赤な液体を入れた何かをお風呂のお湯に流し込んだ。



「何それ?」

「処女の血っすよ……なんちゃって、アルコールを飛ばした赤ワインっす! 美容にはこれが最高っすよ!」



 薄い赤に染まるお湯。心なしかポカポカと身体が温まるような気がしていた。そこでついにヘカが話し出した。



「子供が化物になる大体の理由は親に問題があるん。親のルール付け、所謂躾けなんな? 親だって完全な人間じゃないん。そのネジが外れていたら、間違った育て方を正しいと思って進めた結果、怪物が育つん。そしてそれが手遅れな事に親が気づくとどうなるか分かるん?」



 もはや言わずもがだろう。

 連日、子殺しをするニュースが流れる昨今、運よくそれらが成長してしまった暁には不発弾のように突如、計画性のない事件を引き起こす。

 歩行者天国を地獄に変えるような、化け物予備軍がゴロゴロ控えているという事。ヘカの言葉を聞いて、アルコールがないハズのこの赤い風呂で夏南は酔ったようなそんな感覚を覚える。

ヘカさんの生活の全貌が見えてきましたが、実に紐ニートみたいな生活をしているんですねぇ。『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を抽象的に表現すると手ですくった水のような物でしょうか、絶対に零れていくそれを必死に維持しようとし、それで育てるのは徒花。それは新しいレ・ミゼラブルなのかもしれませんね^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ