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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
22/111

表の読者と裏の毒者

5月作品の選考に入りました。何とも名作ばかりで異世界物の層の厚さを思い知らされていますよぅ!

まだ内緒ですが、11月作品は全ジャンルから募集をかけます。是非、こちらを読まれている方もいらっしゃいましたら参加してくださいねぇ!

 時間は十五時より少し前、ヘカが定食を四人前ペロりと食べて今に至る。今まで警戒していた秋文もヘカと欄と打ち解けて楽しそうに談話をしている。



「秋文さん、お時間はまだ大丈夫っすか?」



 秋文は腕時計を見る。腕時計をつけている小学生、それだけで彼からは品を感じるのだが、太陽みたいな笑顔を向けてこう言った。



「六時に家に帰ればいいので、まだ大丈夫です」



 お姉さんを殺す微笑みを受けて、欄とヘカは頷く。セシャトさんのお気に入りになるわけだと……



「じゃあ喫茶店で続きのお話しましょうっす!」



 ゴスロリのヘカ、カジュアルなジャケットを着る欄。そして秋文、異色のパーティーはてくてくと喫茶店に向かう。

 その時、「まてぇい!」と声が聞こえる。



「なんすか?」



 欄が振り返るとそこには学校を終えた女子高生。その人物を見て秋文は名前を呼ぶ。



「夏南お姉ちゃん」

「秋文君何してるの? ヘカに……」

「欄っす。ヘカ先生の助手っす」

「小倉夏南です」



 お互いに頭を上げて自己紹介。話を聞けば今から喫茶店で『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』について語る事を話すと夏南は大反対。



「秋文君、だめっ!」

「まぁ、いいじゃねーすか」

「よくありません! 暴力的な経験が後でどれだけ精神に異常をきたすか分かってるんですか?」



 さてどうしたものかと思っていてた。何故なら今から話し合う部分は、紗雪の食事の為の殺人ではなく、オヤツ。

 実験的殺人、必要のない殺人を行うといういかにもな部分。夏南が承認するとは思えない中ヘカが口を出す。



「さぼうるのフレッシュジュースはうまいん。ヘカは行くんよ。秋文君は来るん?」

「い、いきます」



 ヘカの口元が嗤う。この強引さ、欄は感動すら覚える。秋文はヘカの後ろをついてお店に入店。欄もそれに続き、癇癪を起しそうな夏南も怒りながら入った。



「生イチゴジュース、四つなん!」

「ちょっとヘカ、なんで秋文君といるのよ」

「偶然道端で会ったん」



 何かを言おうとした時、欄がジャケットを脱ぐとその下は露出の多いキャミソール。それに夏南は秋文と席を変わる。



「しょ、小学生の男の子を連れまわしていいと思ってるんですか?」



 欄はスマホを見せるとこういった。



「一応、秋文君のママさんに承諾取ってるっす」



 釈然としない中、神保町でも有名なフレッシュジュースが運ばれてくる。そのグラスをコツンとつけて乾杯。

 舌鼓を打ちながら欄が話し出した。



「秋文君が言っていたように、ついに絶対にしてはいけない殺しを始めるっす。でもさすが中学生っす。スタンガンで人の身体能力を奪う事も気絶させる事もできねーんすよね。それに大学生の男子は力もつえーっす。殺るなら、一人で住んでる老人っすよ。外国人物盗りの犯行に見せればそれで終わりっす」



 上品にグラスに唇をつける欄がそう言うので、夏南はやや引きながら言う。



「なんだか、経験済みみたいな言い方じゃん」

「かもしれねーすっね」



 その時の欄の目は嫌な目をしていた。ヘカと秋文は気づかない。全身の毛が逆立つような危なさを欄から感じる。



「どうしても電気使いたかったら、もう販売中止になってる家庭用電気針治療機をヤフオクで手に入れて使えば一発で気絶っすよ。あとはカテーテルで純度の高いアルコールを一瓶入れたら終わりっす」



 何気にえらく危ない事を言う欄。ならどうしても夏南は聞いてみたい事があった。もし不意打ちでこのイカれた双子に欄が襲われたらどうなるか?



「ねぇ、欄さんはもし突然何の理由もなく襲われたらどうするの? どう思うの?」



 ヘカは二杯目のジュースをお替りしながら興味なさそうにして、秋文は欄の回答をじっと待っていた。



「そうすっね。殺されるかもしれねーっす。それは今この瞬間でもありえると思うんすよ。理由のない殺人なんて今はバーゲンセールっす。でも、もしかすると地面の下に埋まるのは襲ってくる方かもしれねーっすね。だから、自分は何とも思わねーっすよ。弱い方の時間が止まるんすよ」



 だが今回の殺人は理由以外にもう一つ不可解な事がある。ターゲットとなった智一は捕食され、身体を切り裂かれ、命の炎が消える瞬間、

 陽葵は彼にお礼を言う。

 それに対して、智一もまたお礼を返した。



「ここで、陽葵はまだ人間の心が残っている事を再確認してるんな」



 ヘカの言葉に秋文はうんと頷く。



「陽葵さんは、家でも学校でもひどい扱いを受けていたのに、どうして自分を認めてくれた智一さんを選んだんでしょう?」



 それにはまさかの夏南が答えた。



「多分、自分より弱い人間だから……かな? 陽葵は自分より強い立場に負い目を感じているんだと思う。よくイジメや職場のストレスで無差別殺人を起こす人っているでしょ? あれって世界共通で本来復讐すべき相手じゃなくて全然関係ない人を殺すの、それって心の何処かで恐ろしい者に立ち向かえないからなんじゃないかな」



 にんまりと猫みたいな口をして欄は笑う。



「自己愛と現実や理想とのギャップに対するトラウマっすね。陽葵さんははっきり言ってうじうじと自分の犯罪を美談としてるだけなんすよ。悲劇のヒロイン型サイコパスっね」



 欄のディスりかたに夏南は一つ指摘する。



「でもそれって、人間らしいって言ってるじゃん。サイコパスだって言ってるのに」

「サイコパスとシリアルキラーは似て非なる物っすよ。サイコパスは基本的に憶病なんすよ。バレる事への恐怖で平気で嘘に嘘を重ねるっす。かたやシリアルキラーは正直っすよ。本当の人間の皮を被った化物は息を吸って吐くように人を殺し、その皮や骨を身に付けて隣人と談笑するくらい狂ってるっすからね。だから、こういう一節があるっすよね? 大切な人が作れない、作れても殺してまう。それを呪いと言わずになんと言おうか、簡単っすよ。ただの理由付けっす。これもサイコパスならではの責任の転嫁っす」



 欄は完全に犯行動機も文章の説明すらも全否定する。そしてそれにやや夏南も秋文も不快感を覚えていたところ、ヘカが話に割って入った。



「どうかは分からないん。作者は、サイコな双子を描きたいん。文章を読んでうっとりしてる程度では二流なん。この二人がどう異常なのか、文脈から解析する欄ちゃんくらい頭のネジが飛んだ読者じゃないと読み取れないものがあるんって事なんよ」



 珍しくヘカがフォローというかまともな事を説明する。そこで夏南は、そういう事かと驚く。残念ながら秋文は分からない。



「秋文君、じゃあ、陽葵が物凄い嘘つきだと仮定してこの文章読み直してみるん。すると、絵も知れぬ恐怖を感じるん」



 そういう事なのだ。陽葵がサイコパスであろうという事は読者の殆どが周知の理解をしているだろう。だが、実のところ、彼女の語る言葉に騙されているとそう仮定してみて欲しい。実に興味深くないだろうか? これは当然作者の意識外の認識である。

 が、真のサイコパスの顔が浮かび上がってくるのだ。



「いくらなんでもそれは飛躍しすぎでしょ?」



 各々、二杯目のフレッシュジュース。ヘカに至ってはもう五杯目。夏南の言わんとしている事は最もでもある。

 高熱で倒れた陽葵は殺した者達への罪の意識で謝罪を繰り返す。それですらサイコパスだからという一意見で返してしまいそうな欄。トロフィー型のシリアルキラーは殺した被害者を夢で見ると喜ぶと言うが、ここで陽葵は自分の弱さを露呈する。



「智一さんを好きだったのに、劣等感で紗雪を取ったって語ってるじゃん」



 欄はこの夏南が実に可愛い女の子だなと思えてきた。これは作者の思い通りに内容を読み楽しむまさに表の読者だ。陽葵に同情し、そうだったんだと共感する。

 だが、少しひねくれている欄からすればそれこそサイコパスの術中なのだと読むわけである。

 何故なら。



「まぁ、欄ちゃんはややサイコパスっぽいところがあるん」

「ヘカ先生にだけは言われたくねーっすよ!」



 だなんて、冗談を言い合うので、夏南と秋文は笑う。あの欄が見せた嫌な目の事なんて忘れてしまったように……

 陽葵は生まれて初めての恋をした。化物の恋は化物らしく自分で可能性を壊し、そして深みに落ちる事になる。



「秋文君はセシャトさんの事が好きとして、夏南さんは誰か好きな人はいるんすか?」



 物語に合わせて欄がそう言うが、夏南は秋文をちらちら見ながら顔を赤らめて、「そうだな、気になる人はいるかな~」とか分かり易い反応を示す。ヘカは実につまらなさそうに、欄は面白そうにこう言った。



「恋はいいっすよ。あれも一つの麻薬っすね」



 遠い目でそう言う欄、夏南は少しばかりこの恋多そうな素敵な女性に話を聞いてみたくなる。しかし一体何歳なのか? 日本人のように思えるが、よくよく見れば人種も不明だ。十代にも見えるし、二十代にも見える。



「あの、欄さんって何歳なんですか?」



 欄は眼鏡の位置を直しながら、猫みたいな口で穏やかに笑う。



「秘密っすよ」



 ヘカは七杯目のフレッシュジュースを頼み、グラスをコトンと置く。少しばかり髪の毛の艶が増しているようでヘカの目の隈もなくなっていた。



「愛しいから殺したいという事もあるんよ」



 フレッシュジュースのおかげで、穢れが取れたような美少女になったヘカのその言葉にはなぜか重みを感じ、欄だけが噴出した。

『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』真っ白な狂気。読者さんによって描かれるキャンパスが違います。臆病で、そして凶暴な作品、これを乗りこなせるのは当方でもヘカさんくらいでしょうね。皆さんは表の読者さんですか? それとも裏の毒者さんでしょうか? 真直ぐに読まれている方は一度逆立ちして、逆に深読みしている方は文章そのままを楽しんでみてはいかがでしょうか?

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