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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
21/111

欄お姉さんの双子考察

さてさて11月紹介作品はコンペで決める事に話が進んでおります^^ はじめて全ジャンルから募集をする事になりそうですね。今回は四部署で下読みをしていくので、大分マシになりそうですね。

どんな作品がくるか今から楽しみですよぅ!

 ヘカは古書店『ふしぎのくに』の鍵を締めるとスマホで何処かに電話をかける。

 その人物が電話に出るとこう言った。



「ジローは昨日行ったん! 今日はグランにするん。十二時に現地集合なんな?」



 神保町は神様のこよなく愛するカレーライス屋と定食屋が無数に存在する。食べる事が好きな古書店『ふしぎのくに』の面々はこと食べる事には困らない。グランもジローも神保町で昔ながらあるザ・定食屋である。



「なんなんなん♪ ん? 秋文君なん」



 古書店めぐりでもしていたのか、秋文は二冊古本をトートバックに入れているところヘカに声をかけられる。



「こんにちはなん」

「……あっ、こんにちは」



 ややヘカに警戒しながら挨拶を返す。そんな秋文にヘカは言う。



「お昼まだなん?」

「えっと、はい」

「一緒に食べるん!」

「でも……」

「夏南に『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を読むの止められてるん? 一緒に来れば読めるんよ」



 そう言ってスマホにタブレットを見せるヘカ。それを聞いて秋文は黙ってヘカについてきた。



「何処まで読んだん?」

「キャプチャー1までです」

「そうなんね。学校で行われた事件に対して、内部犯じゃないとしてるん。これは実は上手いんんよ。この物語の時間軸から二年後。学生によるとんでもない事件が発生するん。それまでは、学生が殺人なんて……とか思われてたん」



 もはや風化しつつある事件ではあるが、平成を代表する猟奇殺人事件。神戸児童連続殺人事件。酒鬼薔薇聖斗と名乗った当時中学生による事件が実際に起きた。

 あれが1997年に起き、それから子供による殺人事件が増加する事、あるいは表沙汰になる事となった。この時期以降となれば警察も、もっと詳しく校内に犯人がいないか調べたかもしれない。

 というのがヘカの意見。

 それを聞いて秋文は目をくりっとさせて聞き入る。



「へぇ、僕知らなった。ヘカさん凄いや!」

「えっへん! ヘカは凄いんよ! なん? ついたん。ここなん」



 ヘカを見つけると手を振る露出の多い服を着た女性。その女性は秋文を連れているヘカを見てこう言った。



「ヘカ先生、事案っす。誘拐はダメっす! さすがに容認できねーっすよ」

「欄ちゃん、違うん。お客さんの秋文君なん。まぁヘカというよりセシャトさん狙いなんけど」

「違いますよぅ!」



 秋文が顔を赤らめて言うので、欄は秋文の耳元で「お・ま・せ・さ・んっすね」と呟いた。二人に少し遊ばれて店内に入る。



「メンチカツ生姜焼き盛り合わせ三人分なん!」

「ヘカ先生、絶対秋文君食べ切れないんで、私と半分こでいいっすよ」



 メニューを頼むと、作品の話を始めた。



「陽葵は自分の事を両親は無償で雇える女中って蔑んでるん。この欄ちゃんは食費も出してくれるヘカのアシなん。陽葵の上位互換なんよ!」

「ヘカ先生、滅茶苦茶酷いっすね。そんな風に自分の事見てたんすか?」



 事実食費の全てを欄が出しているので、言い方は悪いがその通り、だが秋文にこの面白さは残念ながら理解できない。



「人を殺す事に何の躊躇もなくなってしまうのは怖いです。誰も殺さずに紗雪さんを救う方法ってないんでしょうか?」



 秋文は本作を面白いとは思っているが、殺人行為に関しては到底受け入れられない態度を見せる。それにお冷を飲みながら欄は答えた。



「そうっすね。秋文さんは実は確信を得ているんすよね。これは作り物、物語っす。とはいえ殺人はやはりダメっすよね? それは作中の陽葵も十分承知してるっす。実は一番怖いのは、自分やヘカ先生みたいな読者っすね。それを普通の事として受け入れてしまってるんすから。秋文さんはそういう事を考えながら読める貴重な読者さんなんすよ」



 作品に関してとやかく何かを言い過ぎるのは批判を通り越して作品叩きになりかねないが、考えを持って読む事は大事である。

 例えば本作の表現性や、双子の行為や言動を評価するあまり、倫理を犯しているというあたりまえの事に対して、何とも思わない事はよくよく考えれば恐ろしいとは思わないだろうか?

 それがより、作品を引き立てているのかもしれない。

 自分の意志を持っている秋文と作品に酔うあまりそう言った事に無関心になる欄やヘカ。それ故、秋文のような読者に出会うとフレッシュな気持ちになる。



「秋文さんを見てると、ミレーヌさんを思い出すっすね」



 その名前を聞いてヘカは遠くを見つめ、そして生姜焼きを大きな口を開けて咀嚼する。小さな身体の何処にそれが入るのか、というくらいヘカは大食漢。



「この表現おかしいんな。蛆虫は群がってるんじゃなくてそこに産みつけられてるん。浅ましいのではなく、生命力が強すぎるん」

「えらく、蛆虫をディスるっすね」



 リアリストな二人に対して、上品にナイフでメンチカツを切り分けて一口咀嚼する秋文は普通の意見を述べる。



「蛆虫って少し、気持ち悪いじゃないですか。気が付くと沢山わきますし、その比喩なんじゃないですか」



 その通なのだ。

 だが、ヘカと欄が言いたい事は、蛆虫が可哀そうだろという斜め上の意見なのだ。欄は付け合わせのナポリタンを少し食べるとこういった。



「蛆虫は医療でも使われるし、食糧危機にも一躍買ってくれる有能な虫なんすよ。よく作品で群れている無能な連中を蛆虫というのは、蛆虫に失礼っすよ。自分なんて、密入船に乗ってる時なんて蛆の湧いてるパン平気で喰ってたっすからね……おっと、これは今関係ねーっすね」



 凄いくだらないうんちくに秋文は「へぇ」と感心しているとヘカがガツンとフォークをメンチカツに突き刺して齧る。

 そして水で飲み干す。



「この作品は中二の描写が上手いん。アホ丸出しの妄想や、友人への独占欲。そして陽葵の幼稚な悪態なんな? 秋文君はまだ小学生なん。中学生はアホなんよ! 世界一アホな時期なん。気を付けないと、秋文君の左腕に住まう古書店の女神が目覚めるん」

「えっ? えっ?」



 全く理解できない秋文。

 中学二年生の時期は、心の形成が出来上がる時期、逆に言えば不安定な時期故、発症するのだ……厨二病という医者いらずの病に。



「ヘカさん。ら、欄お姉さん。あのぉ」



 秋文が少し恥ずかしそうに欄の名前を呼ぶので、欄は両手を握って喜ぶ。それに面白くないのはヘカ。



「ヘカの事もヘカお姉さんって言うん! ヘカは実際は……」



 ヘカが何かを言うとしたが、欄が制止する。



「まぁまぁヘカ先生。秋文さんが何か聞こうとしているのでそれを聞きましょう。しかし、欄お姉さん、良い響きっすね! じゃあ秋文さん、質問をどうぞっす」



 セシャトの真似をする欄に少し調子が狂ったが秋文は質問する。



「どうして、陽葵さんと紗雪さんは双子なのに、こんなにみんなの扱いが違うんですか?」



 ヘカがわざと食べものを沢山頬張って話をはぐらかそうとするので、ため息をついた欄は語りだす。



「そうっすね。ここで陽葵さんの言葉を思い出してみましょうか?”紗雪と私はいずれ、天地に分かたれる。そのときが訪れるまで。私達は、双子だから。”双子は似てるっすよね? 特に一卵性双生児に関しては同じ人みてーっす。少しオカルトな話があるんすよ。それは」



 双子が何故、シンクロするのか。これは真逆の存在であるから陰と陽。真逆のところにいるので同族嫌悪しない。目の前の自分は長所であり短所、美であり醜、それらは元々一つの存在であったという考え方。



「これを証明する事はできないっす。でも、紗雪さんの異常性は皆が惹かれ、陽葵さんの異常性は嫌悪されてますよね。比較対象として、どちらかがよく見えたらもう片方は悪く見えるんすよ。それが少し似ているさんなら尚更っす。人間の目と意識が、存在しえない魂の優劣。ようは差別を作ってるんじゃないすかね?」



 味噌汁で口いっぱいほうばった物をゴクンと飲み込んだヘカ。それを見ながら秋文は欄が言おうとしている事を聞いてみた。



「じゃあ、二人に差は本当はないって事なんですか?」



 作品を読む上では決定的に違う。言わば主人公及びテラーの目線である陽葵は限りなくそう語る。そして我らがヘカがばしっと言ってのける。



「ないん。双子なんてほぼ完コピなん。でもどれだけキャラ付けしたって陽葵は紗雪を完全に理解する事は出来なん。この作品の面白い事は、紗雪の心情に関してはあまり触れられない事なん。だけど、紗雪は実に人間らしいん。人に関心させてもらおうとする行動と言動を繰り返すん。それはわざとか本能かは不明なん。動物の幼体は可愛いんな? あれは自分を育てさせようとするからなん。あれに似てるんよ。それを考えてから、陽葵のセリフを読み返してみるん」



”人殺しに罪悪感を持たない紗雪が唯一殺せない人間、それが私ということだ。”陽葵は語る。自分は人間として認められていると……



「ヘカさん、それって?」

「ヘカお姉さんなんな? 自分で自分の事人間とか言ってる時点で分かってるんよ。自分が人間じゃないから陽葵は紗雪の捕食対象に入ってないんな。ゾンビはゾンビを喰わないのと一緒なん。あるいは本能が自分の遺伝子に近い化物と気づいているからなんな」



 ヘカは食べ終わると、お冷の中の氷をがりりと齧る。鉄分でも足りないのかと欄は呆れてその様子を見ていると秋文は口元を拭いた。



「この作品は三つの視点で見ると見え方が違うって事でしょうか?」



 ヘカと欄は顔を見合わせる。今までの話で双子は実はそこまで違ってはいない。また、彼女等は真逆の存在であるという二つの視点を示唆して見せた。

 しかし、三つ目とは?



「秋文さん、紗雪と陽葵が真逆の存在、また実は代わりのない存在。それ以外はなんすか?」

「陽葵さんが、自分の気持ちも紗雪の気持ちも語るじゃないですか? だから、二人で一人なのかなって、あまり喋らない紗雪さんの口や心が陽葵さん……とか思っちゃったんですけど……」



 たかがか小学生の男の子になんだか先を越された事を言われたヘカは、ごまかす為に店員にこういった。



「同じ定食三つ追加なん!」

『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』本作でも少し触れましたが、時代設定が非常に面白いです。各種学校に焼却炉があった時期に設定されていたり、児童事件報道が隠蔽されていた時代ですので、その時期あるいはその時期より数年後の凶悪事件を重ねると、少し考えてしまう部分が多いですね^^

そしてそれはスパイスです。メインデッシュは罪を重ねる度にコクが出るお二人ですね。彼女等が滅びの道を歩むのか、光をみつけるか、一緒に追いかけてみませんか?

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