お寿司を食べに
新しい年を迎えました! 皆さん、今年はどんな1年にされたいですか? 私はそうですね。何か一つ形を持った物をと考えていますよぅ! 多方面の方々にもご協力頂き、随分現実的になってきましたねぇ!
さて、新年からホラー作品。浮かれていると足元をすくわれると昔有名な高僧の方が言われていたそうですね^^ それでは始まります^^
神様はポチ袋から出したお金を数えているのでセシャトはそんな神様を注意する。
「神様、行儀が悪いですよっ! 全部使ってしまってはいけませんの半分貯金しておきます!」
そう言ってお金を半分強制的に取り上げると、豚の形をした貯金箱の中に入れた。
「あーん! 貴様、大体子供からお年玉を取りあげた親はその懐に入ると聞いたぞっ! セシャト貴様もまさか……」
セシャトは苦笑する。神様がとことん俗に染まっているという事。子が親のお年玉を貯金しているのだが、神様は必至に無駄な抵抗をしようとする。
正月は久々にトトと、ヘカと神様の四人でまったり楽しく過ごした。
「しかし、一年のはじまりからホラーとは……なんと縁起でもない話だろうの?」
「皆さんの投票結果ですからねぇ!」
そんな二人はお昼ご飯を食べに行くか、食料を買いに行くかと並んで歩いていると、一件のお寿司屋さんを見つける。こんな三が日から開いているお店があるんだなと思って、神様は半分減ったポチ袋を覗くとこう言った。
「よし、セシャト色んな奴からもらったお年玉もある事だしの、今日は私が奢ってやろう!」
「えっ? ホントですかぁ! 私、回っていないお寿司って初めてかもしれません」
一体いくらかかるのかも分からないのに神様はガラガラと扉を開ける。
「えらっしゃい」
なんとも頑固そうな大将が出迎えるいかにもな店だった。それに物怖じする事もなく神様は大将のど真ん前の席に座る。
「何にしましょうか?」
「ぎょく、あとひらめ」
ギロりと神様を見る大将。セシャトは神様が何か粗相をしたのではないかと思っていたが、大将はセシャトに視線を移すとこう言った。
「そちらのお嬢さんもお席に」
「は、はい!」
神様の隣に座るとギロりと見つめる。
「何にしましょうか?」
「ま、マグロを……」
「へぇ」
それにバンと神様はテーブルを叩く。
「セシャト。せめて白身魚から選べ、何でも好きな物からというのも悪くはないが、こういう店では大将の最高の腕を楽しむのもまた興だ。という事で、大将マグロはあとだ、太刀魚でも握ってやってくれ」
神様にそう言われると大将は頷く。
「ちっこい旦那様はよくご存じで」
「まぁの。昔、一緒におった奴が煩くての……で、セシャトよ。今月の紹介小説は決まったんであろ? なんだ?」
ピクりと大将は反応する。
「おまちどう、玉子にひらめと太刀魚です。それに、こちらのサヨリはサービスいたしやす」
神様は手を伸ばしてべちょりと醤油をつけるとぽいと口の中に放り込む。そしてむしゃむしゃと食べて「おぉ!」と感嘆する。
「うまい! これは美味すぎるぞ大将! 三千世界の神々も食べにくるぐらいの美味さだの!」
「……そりゃ褒めすぎですぜちっこい旦那様」
意思疎通がなぜか出来る二人の中で、セシャトは寿司ネタを外してそれを醤油につけ、再びシャリに戻す。
「いただきまーす」
「まてぇい!」
セシャトが食べようとした時、神様が怒鳴り、大将は少し機嫌が悪そう。それにセシャトは次はなんだろうと思って二人を見つめる。
「セシャト貴様、寿司を分解して食べるとは寿司に対する冒とく。大将のこの残念な顔を見てみよ! 大将からすれば寿司は我が子もどうぜん。それを解体されるなどあってはならん事だと思わんか? 全く私は恥ずかしいぞ」
セシャトは無言でお寿司を食べて思った。
(いるんですよね。こう突然、作法に厳しくなられる方……神様はどこでこんな風になってしまったのか、いずれ調査しましょう)
無言で出されたお茶を一口飲むセシャトに神様はハァとため息をつく。そんな神様はガリを食べてからお茶を一口含んでいた。
「一つ寿司を喰ったらガリを食べて味をリセットする。当然の礼儀だの。まぁいいわ。セシャト、今月の紹介小説についてここで聞いてやろう」
やっと話が前進したかと思うとセシャトはスマホを取り出した。そして、神様にそれを見せる。
「今回のホラーは本格的なホラー作品を選びました。『蛭子神 著・三上米人』になります」
それを聞いた神様は頷く。
「あー、あの作品の。蛭子、あれは『えびす』あるいは『ひるこ』と読むんだがの、恵比寿信仰と蛭の子とがいつのまにやら同義になっておるのだ。福の神たる恵比寿。あるいは子干しされた足のない蛭の子。だが、実際には一体何なのか分からない物なんぞ」
神様は名前の通り神様。あらゆる神様に関しても顔見知りだったりするし、さらには書物に関しての理解も当然深い。
「そうなんですね。そういう意味では本作は意外と確信を得ているという事でしょうか? 本作の感じるそれはまさに、その……」
神様はセシャトの唇に指をあてる。
「セシャトとよ。貴様、離婚している子供と出会った事とかあるか?」
それはこの『蛭子神 著・三上米人』の主人公の少年の話をしたいのだろう。それに関してリアルな情報がないかどうか……。
「……似たような環境の子はありますね。あの文芸部の男の子がそうです」
よくセシャト達のところに作品を持ってきては批評をお願いしにくる高校生の子供達の中の一人。
「あー、あの小僧か、確か小熊とか言われておるな。で、どう見る? 他と何か違うか? というか違うであろ?」
神様が言いたい事。
「……違いますね。何かに飢えているというか、何か足りない物を埋めようと一生懸命さを感じます」
本作の主人公は、母子家庭の長男。それもわりと愛を感じずに育ってきてしまった子供である。そんな彼が修正不可能な環境と葛藤の中、物語は始まる。
それを肌で感じるに、古書店『ふしぎのくに』のメンバーは理解が追い付かない。
何故なら、母や父と呼べる存在は神様その人であり、良くも悪くも家族の営みという物に関しては行った事がない。
そんなセシャト達が人間の性について考えていくのは難しいと神様は説いたのだろう。その為のサンプルとしてそう言った人物を知らないのか? という結論。
片親だから不幸である。
という極論を述べるつもりはないが、高確率で飽いている場合が大きい。特に両親の不仲で離婚をした場合等は顕著だろう。
そう言った人物は大人になると、結婚願望がやや強く家族を欲する傾向にある事も知られている。
「人間心理とホラーを掛け合わせるのは小説としては常套手段だからの、そして大人になりきれない子供。これはモンスターと言われておるしな、そこには大人には見えない。子供にも見えない扉を開くんだろうて」
ずずっと音を立ててお茶を飲む神様。
それに大将が静かに言った。
「何か握りましょうか?」
神様は半目でこう言った。
「巻物と焼酎」
セシャトはこの時に気づくべきだったと思っていた。神様の成りはどう見ても小学生くらいなのに、お寿司屋さんの大将は神様に飲み方を聞いている。
「お湯割りだの」
そう言うと小瓶とポットが渡される。神様は耐熱グラスに焼酎を3割、お湯を7割入れて割る。そしてそれを混ぜてからこう言った。
「大将、梅干しはあるかの?」
「へい」
それは塩気が強そうな高級梅干し。それを一つ神様はお湯割りの焼酎にぼとんと落とす。セシャトは下戸な上に未成年という事でお酒をたしなんだ事がないが、この成りの神様が飲酒をしている姿を見るのは実は初めてだった。
「神様、何飲んでるんですか! ダメですよ」
「セシャトよ。酒とは本来、私達神様が飲む物なんであるぞ? それにこの作品を楽しむには少しばかり酔った方がよかろう? ほれ、大将も一杯どうだの?」
いただきますと言ってグラスを差し出すので神様は同じように焼酎三割にお湯七割のお湯割りを作ってグラスをコツンとぶつけた。
そのぱっと見は無色のお湯にしか見えない湯気の立つ飲み物を飲む神様、みるみる内に顔が赤くなっていくのでやはりお酒である。
「すみません、そろそろマグロを……」
ギロリと睨まれる。
マグロを頼んではいけないルールでもあるのかと思いながらセシャトはしかたがないのでメニューを見てこう言った。
「な、何か光り物をお願いします」
「鰯でいいですかい?」
「あっ、はい」
セシャトはそう言えばDVを受けるという事に関しては何度か見て来たなと思う。それはヘカと神様の攻防。
あれはじゃれ合いではなく本気で殴り合っている。それに涙を流す神様にヘカ。
だがしかし、本当の虐待というものはあんな笑える物ではないんだろうなとセシャトは理解する。
様々な作品を読みそれらの恐怖や、絶望というものは十二分に感じて来た。それはまさしくテリブルであり、ホラーなんだろう。
「あらあら、さわりしか紹介作品の話ができませんでしたね」
そう言ってセシャトは初めて食べる鰯の握りを食べて驚いた。
「甘くておいしいですねぇ!」
『蛭子神 著・三上米人』本作は最後のお正月休みで読み切れる分量かと思います。ホラー作品としていくつかの傾向があるのですが、所謂こちらはオカルト物の中では風土物+イデア論のようなよく邦画で実写映画等されている物に分類されると言えば分かり易いでしょうか?
こちらでお気づきかもしれませんが、内容が理解できない場合があります。何も考えずに1度、調べつつ2度、別方面からと……屈指の見えてくる世界が違います。
実は今回、一般人では閲覧できない資料を当方はお借り、考察する事ができましたので、深く『蛭子神』について皆さまと楽しみ、読み進めていければと存じますよぅ!