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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
19/111

作品を逆立ちして読む魔女

3月です! 私は大丈夫ですが、当方の中でも深刻な花粉症に悩まされている方がぽつぽついらっしゃるみたいですね^^ 花粉症対策に3日間断食を行っている当方のメンバーがいますがわりと良いみたいですよ! もし花粉症に悩まれている方はお休み等を使って行ってみてはいかがでしょうか!

また、本日当方の神様のお誕生日となります^^ ケーキを二つ所望されています。何を仰っているんでしょうね!

「寒すぎてお客さんなんて来ないん」



 ガムを噛みながら店番をするのは、自称人気Web作家のヘカ。セシャトが用事でお店を空ける事になったので、その留守番を任されている。

 本来持ち込み禁止のストーブを自分の真横においてヘカはノートパソコンを開くと執筆を開始する。

 カウンターにはよく分からないしゃくれた顎の動物や、何故が合掌している動物達の小さなフィギュア。



「セシャトさんの趣味疑うん。なんなんこれ?」



 少女趣味の服を着たヘカはエナジードリンクを飲みながら作品のネタを探そうとした時、カラガランと入店する音が聞こえる。



「あぁ、もう来なくていいん!」



 店内に入ってきたのは小学生くらいの少年と、女子高生か、あるいは女子中学生くらいの少女。少年より頭一個分は大きいが、少年にデレデレしているところからしてアレな感じなんだろう。



「いらっしゃいませなん」



 客とヘカがご対面。



「秋文君、これがセシャトさんって人なの? ちょっと趣味悪いよ。メイクもできてないし、こんなフリフリの服普通着ないし」

「は? 喧嘩売ってるん?」



 ヘカが立ち上がって女子を睨みつける。腕を組んで立ち上がるがその身長や、秋文と呼ばれた男の子とあまり変わらない。



「ヘカはセシャトさんじゃないん! 留守番してるだけなん! その子供はセシャトさんの話でよく聞く男の子なんな? 確か、倉田秋文君なん?」



 秋文は名前を言われてうんうんと頷く。手にはセシャトが出しだであろう疑似小説文庫。そのタイトルを見てヘカは虚ろな瞳を大きくする。



白雪月光(しらゆきげっこう)なんな」



 秋文の持つ疑似小説文庫のタイトル。『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』ダーク系現代ファンタジーに位置する作品。それを見てヘカは秋文に言う。



「また面倒な作品をセシャトさんに紹介されたんな。それ面白いん?」



 ヘカにそう言われて秋文は頷く。但し返事はしない。それにヘカが何か言おうとすると少女が秋文を守るように前に出る。



「秋文君が好きで読んでるからアンタには関係ないし」

「なんなん? ショタ好きのイカれた女なん?」

「あんたの見た目にだけは言われたくないわ! 私は小倉夏南、秋文君の従姉よ」



 聞いてない情報にヘカはレッドブルを飲みながら聞き流す。



「どうでもいいん! 邪魔しに来たなら帰るん」

「セシャトさんに感想を言いに来ました」



 ハァとヘカはため息をつく、カウンターにレッドブルを二つ取り出すとそのプルトップを開けて二人の前に置く。



「ヘカの奢りなん。ありがたーく飲むん! セシャトさんの代わりに聞いてやるからさっさと言うん」



 秋文は最初のページを指さして言う。



「この”ポタリ。床に、赤い雫が落ちる。着地した球が潰れる、その一瞬だけできる王冠を被せたら、紗雪は喜ぶだろうか”ってところよく意味が分からないんです」

「ただの頭がおかしい文章なん」



 ヘカの適当な返しに夏南が怒る。



「違うでしょ! 文学的に場面を表現してるのよ! 秋文君、いこ。この店員ロクな人間じゃないわ」



 そう怒る夏南にヘカは再びハァとため息をつく。



「清浄に行き届いた店内、その高すぎる天井が視界に入るや羽が生えたかのように、自分が重力に逆らう感覚に酔う。独特な古書の香りは宗教的で高揚を促すと、その奥で座る黒づくめの人ならずは斜めに世界を閲覧す。軽く咳込んだようなやりとりの後、夏南は店を出ようと告げた……みたいな感じなんな。無駄が多いん」



 いきなりヘカはディスった。作品を、そして夏南を……それに夏南は目を吊り上げると秋文に言う。



「秋文君、こんなところもう来ちゃダメだよ! こんな事言う奴がいるところなんて絶対よくないよ」



 でもと秋文が困る中、ヘカは虚ろな瞳で秋文と見つめ合うと、無理やり入り口に引きずられそうな秋文に向かって言った。



「この作品は、実のところ方向性を探している作品なんな。だから、秋文君がちょっと意味が分からないと感じてるんは正解なん。世の中には、意味不明な文章を楽しむ文学もあるん。でもこれはちゃんと筋の通ったストーリーがあるんよ。突然、詩的表現が一切ない地の分が続くん。読者としてはその未完性を楽しむというのも通かもしれないんな」



 ヘカは空になったレッドブルの空き缶をゴミ箱に捨てる。ヘカの言いたい事として、読者は作者にはなりえない、分からない事をあまり考えるなとそう言いたいのだ。

 特にこの類の詩的表現に関しては、どんな気持ちでどんな意味を持ち、どういうメッセージが隠れているのか? それが分かる物はすぐにエスパーになればいい。

 読者が思う事はどちらか二つ、なんだか分からないけど、凄い! 綺麗だ! 心に響く。それに対して、何を書いているんだこれは?



「ヘカはそんなところより、”家庭科室だから凶器は常に備え付けられている”この表現が好きなんな。分かり易く、そして深いん」



 秋文を連れて行こうとした夏南が立ち止まる。ドヤ顔のヘカに少しイラつきヘカに向かったこう言った。



「貶すだけかと思ったら、一応褒めるのね? 包丁があるし、でもそんな普通の事で感動までする? 深いの?」



 ヘカはカタカタとノートパソコンを片手でタイプしながら夏南を自分の視界にも入れずに返した。



「何処にも調理実習室とは書いてないん。総合家庭科教室なんかもしれないん。家庭科は人間の営み、衣食住を学ぶ教科なんよ? ヘカと違って学校行ってる二人なら分かるんな?」



 このヘカは一体何が言いたいんだと夏南は本気で怒鳴りたくなったが、ヘカは虚ろな瞳をより暗くさせて言う。



「もちろん、そこのショタ好きの言ってる事も正しい、アイロンやハサミに針に包丁に、油と火元、人を殺すには十分なん。それは物理的な話なんな? でもヘカはこう思うんな。人の営みの中に狂気が備わっているん。深いん」



 作者の意識外の話なのだが、詩的文章を多用するなら何か他の意味があるのかもしれないと夏南も押し黙る。



「まぁ、ヘカの勝手な読みなんけどな。こんな感じで文章にばかり目がいくと内容が入ってきにくいん。ストーリーが単純に面白いんよ。人が抗い死んでいく様を綺麗だと思う。頭のイカれた女の子達、彼女達がいかに狂おしく、愚かしく日々を生きているか、極論はここを楽しむん。読者は彼女等は良い死に方はしないんな! とか、二人はどうなるん? みたいな事を楽しんで読むもんなん。秋文君の質問はこんなところでいいん?」



 秋文は静かにヘカの話に聞きほれる。それにヘカは段々と調子にのってきた。



「この作品の一番の読みどころはもちろん紗雪が血を見ないと生きていけないという事なん。だから人を殺すん。理不尽な話なんな?」



 夏南は秋文が持つ、童話のような表紙からは想像もしないようなスプラッターな内容である事に秋文から本を取り上げて中をペラペラとめくる。



「なにこれ?」

「血液志向症の成れの果て……というより、それをモチーフにしたサイコホラーなんかもしれないんな」



 ヘカが少しだけ専門的な話をした為、秋文は分からないでいるので、夏南はヘカの事をじっと見てから言う。



「強迫性の病気じゃない。この紗雪って子、何があったの? お姉ちゃんの方も大概おかしいけど……」



 よくよく考えると血を見たい紗雪以上に陽葵の判断や思考回路は随分狂っている。息をする為に血を見る紗雪と違い、陽葵は至ってノーマルな思考で紗雪の幇助を行う。

 その不気味さや中々のものである。



「そうなんな。陽葵は我慢が出来ないわけでもなく、紗雪を本当の意味で救おうとはしなかったん。この時点でこの二人は対等ではないん」



 恐らく本作を読む読者達の一部も陽葵の行動や背景に関して疑問を覚えている方もいるかもしれない。



「それって何が言いたいの?」

「つがいの怪物なん。紗雪は陽葵に止めてもらえなかった事で怪物になって、自分の妹を怪物した事で、陽葵も人である正常な考えを辞めたん。この時点で陽葵も怪物なん。どう壊れ、どう救いがあるのか、それを読者は求めるんな?」



 ヘカの言葉を聞いてそれには夏南も納得する。そしてそれ故にこんな暴力的な物語をまだ小学生の秋文に読ませるわけにはいかないと同時に思う。



「こんな作品を秋文君にオススメするなんて、セシャトって人頭おかしいんじゃないの?」

「セシャトさんは頭おかしいん。サイコパス具合で言えば双龍姉妹が可愛いくらいなんな。事Web小説に関しては怪物になるん」



 夏南が何か言おうとした時、顔を真っ赤に染めた秋文が大きな声を上げた。



「二人ともセシャトさんの悪口言わないでください!」



 ヘカはそんな秋文を表情を変えずに見るが、夏南はなんとも悔しそうな顔で秋文に言う。



「秋文君、そんな変な人に会っちゃダメだからね!」

「なんでそんな事言うの? 夏南お姉ちゃんなんて嫌いです!」



 そう言って怒って秋文がお店を後にする。それに「待ってよぉ! 秋文君」と言いながら後を追う夏南。

 そんな二人がいなくなった後に、ヘカは母屋の冷蔵庫からトマトジュースを取り出すとそれを一口含む。



「そういえば、血液志向症の患者が吸血鬼と言われてたんな……それにしてもヘカにはショタ萌えの属性はないん。男はイケメンに限るん」



 そう言いながら『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』のページを開く。ヘカが好んで読むタイプの作品ではないが、その文字を目で追いかける。恐らくはこの作品に興味を持った幼い少年と、その少年に好意を寄せる少女がまた来るだろうと……そして少女はこの作品に憑りつかれるんだろうなとも。



「この作品は、狂気でも悲劇でもないんな。ただ、怪物が人間の世界で生き続ける日常の物語なん。人の世界で怪物が生きていけるわけなんてないんのにね……」



 久しぶりに飲むトマトジュースの塩気はあまりヘカの得意とする味ではなかった。あの舌触りと塩味が血を感じれるかと余興がてら飲んで見たが、思いのほか悪酔した。



「紗雪と陽葵は人なのに怪物になったんな? じゃあヘカは、何から人になったん?」

3月作品はここ最近更新が止まっていましたが、『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を紹介させて頂きます。ご存知の方もいらっしゃると思います。大変独特な世界観を持つ、現代ファンタジー小説となります。見どころは沢山ありますが、一貫して出てくる人が皆何処かオカシイです。主人公の陽葵さん及び紗雪さんに視点が行きがちですが、話に絡まない方ですら何処かオカシイです。そんな物語に当方のオカシイ魔女ヘカさんが絡んでいくんですね。1話目から大分飛ばしてますけど、また怒られるんじゃないでしょうか^^ 楽しみですね!

是非、一章まで一気読みをして一緒に考察をしていければと存じますよぅ!

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