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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 『コルシカの修復家 著・さかな』
18/111

最終話 Art song

逃げ月は逃げる。もう終わっちゃいましたね!

明日からは三月は去るの三月が始まります。皆さんはどんな二月をお過ごしされましたか?

そして明日からはどんな目標を持って三月をお過ごしされるでしょうか? また教えてくださいね!

本日、二月作品、最終話です! どうぞお楽しみください!

 セシャトは以前、絵本絵画の個展に呼んでくれた知り合いが、ホテルの宴会場を借りての懇親会を開くとの事で、またまたお呼ばれしたセシャトは少しお洒落をして指定のホテルに向かった時……



「貴女は!」



 ホテルのガードマンの男。

 よく見ると、あの絵本絵画の個展で立てこもり事件の未遂を働いた男性。



「あら、貴方は」

「あれから、まっとうな仕事をしてるんです。その……コルシカ島に行ってみたくて」



 そう言う男性は少し恥ずかしそうにしていたが、セシャトは嬉しくなった。人の心を動かすにたる『コルシカの修復家 著・さかな』の作品の凄さ……未来を男性に選択させる程の力を持っていた事。



「あらあら、それは素敵ですねぇ! 本作では絵画は何も語らないと書かれていますが、私は月日がそれを語るのではないかとそう信じています」



 セシャトは当たり前のように語る。男性が『コルシカの修復家 著・さかな』を読んでいる事を前提に……それに男性は苦笑する。



「ルーブル美術館を芸術の要塞と表現する様には脱帽しますね」



 ルーブル美術館を閲覧しようと思うと、ホテルを予約し、一週間程滞在しなければ隅から隅までは堪能できないだろう。

 あまり知られてはいないが、日本の半日あれば見て回れる美術館や博物館のスタイルがここ最近世界では流行っている。

 そんな場所も『コルシカの修復家 著・さかな』の世界では全てAEPの発電所、あるいはそれに準ずる施設になっているとすればそれは何とも物悲しい。

 今現在の世界は芸術なくしては人は生きていけない。

 芸術集団バンクシーが一たび落書きをすればそれを大絶賛し、世界的な画家のオリジナル作品が来日すれば芸術に興味のない人間ですら長蛇の列を待つくらいには……



「セシャトさん……でしたよね?」

「はい!」

「芸術作品がエネルギーになる世界。もし……もしですよ? 未完性故に芸術作品として評価される物はAEPとしてはどうなるんでしょうね?」



 さて……これはどう答えるべきなのか、正直な話は分からないというべきなのだが……確かにこの世界には未完成、或いは不完全だからこそ芸術的価値が魅入られている物がある。例えば、有名な作品としてミロのヴィーナス。あれは腕がないからこそ芸術として神域に到達している。



「そうですねぇ! きっと芸術という物に完成は存在しないんじゃないでしょうか?」



 恐らくセシャトのこの返しは、百点の回答だったに違いない。それはAEPのエネルギー変換量に何等かの法則性がないかと調べた者がいた。

 されどそれは分からなかった。

 但し、修復をする事でエネルギー変換量は増幅する。



「私もお一つお聞きして宜しいでしょうか?」



 セシャトがそう言うので男性は少し驚くが、どうぞと返す。仕事中だと言うのに、男性はセシャトとの会話に夢中になっていた。



「貴方は何故、コルシカ島に行きたいのでしょうか?」



 男性は、その質問をあらかじめされる事を知っていたかのようにセシャトに堂々とはっきりとした声で答えた。



「分かりませんね。コルシカ島なんて、今まで興味の欠片もなかった。なのに、どうしてこれが気になって仕方がない。セシャトさんに会ってから話を聞いて、ずっとこの作品を追いかけて来た。この『コルシカの修復家 著・さかな』が随分前から公開されていた事も、直近では更新がゆっくりとしている事も、気になって仕方がない。たかだか、作られた物語にですよ? 自分でも馬鹿げていると思います」



 作品にハマりすぎると同化を通り過ぎて生活そのものに影響する事がある。作品中に出てくる食事が無性に食べたくなると言ったアレに近い。



「ウィルオーウィプス、消える事なき青き炎。あらゆる作品において使い古されてきたこのネタを本作でも現在の最新章で扱われておりますよね? そのありきたりなネタを無駄なく、ありきたりに使いこなしています。本作を読まれてお気づきかと思いますが、4年以上の月日を得ても本作の雰囲気、筆の運び方と変わる事はありません。但し、作品の世界は進んでいる事をお気づきでしょうか?」



 男性はあたりまえのように頷く。文章表現と世界感の空気を全く変えずに長期連載するアマチュア作家は殆どいない。

 されど、小説作品の世界は確実に一定の時間が流れている事はうかがえる。各自キャラクターの心の成長と葛藤、取捨選択を迫られる事が増える。彼らは綺麗な事だけじゃない。色んな事を経験し大人になっていく。

 例えばニノンは淡い恋心に浸るだけでなく、自分の想いと向き合い始める。その時間の流れが至って自然で読む者を飽きさせない。



「そうですね。セシャトさんの言う通りだ。ただ単に影響された。それだけは間違いないですね。なんだか若かりし頃の青春を取り戻せるような気がしたんです。昔、私は少しだけ歌で生活する人間だったんです」

「あらあら、それは凄いですね!」



 インディーズからデビューしたものの、全然ぱっとせず、その後引退し地元の原発関連の仕事をしていたが、今の原発反対運動で仕事を失う事になった。

 自暴自棄になったところ、あの監禁未遂でセシャトと出会い。『コルシカの修復家 著・さかな』を知り、作品もさることながらコルシカ島に興味を持った。



「いつになるか分かりませんけど、必ず行ってみたいです。仕事中ですので、それでは」



 セシャトは男性が少年のような笑顔を見せるので、セシャトはその夢のお手伝いをと考えた。



「ちょっと待ってください!」

「はい?」



 セシャトは首にかけている金の鍵を取り出すと、それを持ってスマートフォンを取り出した。スマートフォンの画面はもちろん『コルシカの修復家 著・さかな』。



「хуxоториxтупунобеннсённзу(Web小説世界疑似転生)」



 セシャトと男性が目を開けると、そこは少し潮の香る綺麗な場所だった。それに男性は当然のように驚く。



「ここは一体……いや、ここはコルシカ島なのか?」



 日本とは違うからっとした風に、潮の香だけじゃない。なんだか甘い、ハチミツのような香り。男性が困惑する中でセシャトは「ふふふのふ」と笑う。



「すみません。私は、本当のコルシカ島は分かりません。ですが、『コルシカの修復家 著・さかな』の世界のコルシカ島は私は細部にわたるまで再現できます」



 もしかすると、本当のコルシカ島より美しいのかもしれない。セシャトの瞳と同じ色のビーチ。景観を崩さない、昔ながらの建物。



「凄いな! 貴女はあの時もそうだけど、魔法使いか何かなのですか?」



 セシャトは首を横に振ると、嬉しそうに微笑む。



「私はWeb小説を紹介する為に生まれて来たテラーです。貴方が『コルシカの修復家 著・さかな』を愛してくれているから、少しだけ夢の前借です」



 今起きている事がなんなのか、男性は分からないでいるが、深呼吸をして嬉しそうにセシャトに並んで歩く。



「AEP装置、見に行ってみましょうか?」

「見れるのですか?」



 二人は、歴史的建造物を目指して歩く。

 時折、挨拶をしてくれる人々にそれとなく挨拶を返しながら歩くと、そこにたどり着いた。



「ここは元フィッシュ美術館です! ではこの中にある巨大投影機のような機械を……おや、待ってください!」



 中に入ろうとしている男性をセシャトは制止する。

 誰かがいるのだ。

 Web小説の世界において、その世界の主要人物に関わってはいけないというルールがある。それ故、セシャトは男性に説明するとすんなり男性はその理由に従ってくれた。


(今まで、だいたい皆さん聞いてくれなかったんですが助かりますねぇ)


 二人で見つからないように、その誰かを見ると、何処か東洋の面影のある少年と、綺麗な桃色の髪をした少女。

 誰が見ても彼らは恐らく、ルカとニノンなんだろう。どうやら修復した絵画を電気エネルギーに変換しにきているようだ。



「まさか、エネルギーになる瞬間が見れるとは思わなかったですね?」

「そうですねぇ! これは大変貴重な瞬間ですよぅ!」



 ドキドキしながら二人でそれを見ていたが、なにやら様子がおかしい。気づかれない距離まで二人で近づくと、ニノンがルカに話しかけていた。



「修復は上手くいったんだよね?」

「うん、でも思ったよりエネルギーに変換されない。多分これ……」



 ルカは何かに気づき、そしてそれを見ていた男性も気づいた。



「精巧な贋作(フェイク)か……多分、ベルトラッチあたりの作品だろう」



 ルカも、またセシャト達も変な空気になった時、男性は歌を歌い始めた。


 It’s so art song


 コルシカの何処にいても聞こえる

 ルカが命、込めなおした絵画なら


 It’s so love song


 君となら、世界の果てに取り残されても

 手と手を繋いで、歩いていけるから


 It’s so art song

 It’s so art song……


 それはニノンの気持ちを代弁した即興の詩だったのかもしれない。

 ルカが修復した贋作のエネルギー変換量が少し増える。それに怪訝な表情を浮かべるルカと、男性が歌ったフレーズを口ずさむニノン。

 作品では歌はAEPでの変換になるとは記載されていない。

 それは偶然だったのかもしれない。



「私の詩が芸術的価値があるとは思えませんが……私に夢をくれた彼らに少しでも足しになるなら、嬉しいものですね。セシャトさん、帰りましょう」

「はい!」



 目を開けると、二人は高級ホテルのロビーの前で立ち尽くしていた。お互い見つめ合い。少しだけ笑い合うと、男性は持ち場に、セシャトは知り合いの懇親会会場に……セシャトは男性の背中に向けて言った。



「もし、お時間があれば古書店『ふしぎのくに』へお越しください。『コルシカの修復家 著・さかな』の続きを一緒に読みませんか?」



 男性はセシャトに振り替える事もなく「是非」と答える。後にコルシカ島で郷土の歌を歌う日本人の事が話題になる事をセシャトも男性も知らない。それがweb上に公開されていた小説が元になっているとは誰が信じるだろうか?

 セシャトは、知人の懇親会が明らかにセシャトは場違いに感じる身分の人々が集まっている事を扉を開けて気づいた。



「あらあら……」



 男性が歌った歌。

『It’s so art song』

 それは、芸術の歌と……

 現実逃避をしながら、知人はセシャトを見つけて手を振る。それに注目する他のお呼ばれしたお客さん。セシャトはこのパーティーの楽しみ方を考える事にしながら、笑顔で知人に手を振り返した。

『コルシカの修復家 著・さかな』本作の魅力を少しでも皆さんにお伝えできたでしょうか? 皆さんの作品を紹介する際、手に負えないなという気持ちが実はあるんですが、本作は特に凄かったですねぇ! 美術の本を沢山用意して、担当じゃないライターさんや少し絵に明るい私達でよくミーティングをしましたよぅ!

この作品は、ニノンが絵画の声を聴けるように、私達は物語という名の詩を聞きました!

それが、芸術の詩。名もなき男性が歌われた物です。もっと、全ての章を紹介したかったですが、本日を持ちまして、一旦『コルシカの修復家 著・さかな』の紹介に幕を下ろさせて頂きます! 

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