読者を殺すタイトルと続きを考えない勇気
さて、二月の最終週に入りましたね^^ そろそろ花粉症等が始まった方も多いんじゃないでしょうか?
我慢せずに早めに病院に行ってくださいね! 早ければ早いほど、症状が悪化しませんからね!
当方ではブログ担当の方が大変花粉症に悩まれておられます!
「これはたまりませんねぇ!」
はふはふと、セシャトは善哉を食べる。
時折しお昆布を食べては目を瞑る。ペロリと一杯食べ終えると、次はセシャトの作り方を見てメジェドが作った善哉を食べはじめるセシャト。その姿をガン見するメジェド、セシャトが善哉をすすり、中の餅をむにーっと伸ばして食べる。
そして……
「はっひゃああ!」
思わずメジェドは目が点になる。セシャトは足をバタバタさせながら、それはそれは美味そうに食べ終わる。そして頭を切り替えたかのように話し出した。
「ニノンさんが街中の仮面在庫を御調べされていますね。本当にエネルギーに変わるかはまだ定かではないですが、全部買い占めをされようと考えているクロードさん達に与えられた仕事を一生懸命こなすニノンさん、実にキャラクターを無駄遣いしないところがにくいです」
メジェドは自分の目の前にある手つかずの善哉。それを見てメジェドはまさかの冗談を言ってのけた。
「まさに小豆相場(先物取引)で、あります」
「あら、それは実に興味深い考察ですねぇ! さて、場面は変わりますがニノンさんのクレヨンは水色がすぐになくなってしまう。何だか可愛らしいですねぇ! 私はピンクのクレヨンやクレパスがすぐなくなっちゃいます」
メジェドが店内をスキャンした時、セシャトが手書きしているポップやポスターは確かにピンク比率が高い。
その理由は不明だが、水色が減りやすい事についてメジェドは語る。
「青、特に水や空の色は人間の心を落ち着かせるという統計があります」
ここ最近、テスト勉強に青のペンを使う事が流行っていたりするのも集中できるかららしい。ニノンが空を画く理由はさだかではないが、何か空への憧れか、心に大きな影響があったのかもしれない。ニノンの夢想に浸る中、物語が再びつながる。
ドロシーと再開し、ニノンは読者に少し遅れてジルとクロエの関係性を理解した。
「言わば、私も古書店『ふしぎのくに』という鳥籠にいますが、Web小説と甘いお菓子があれば私はこの鳥籠で満足ですけどねぇ。ジルさんは中々厳しい事を仰います」
合理的考えを持つメジェドはジルの考えに賛同するかと思いきや、少し長考し、電子の頭脳はジルの考えを否定した。
「お祭りを中止する事は遺憾であります」
その心は? とセシャトは聞きたかったがふと思い出す。お祭りは色恋沙汰が進展するのだ。それを思い出したのだろう。
そしてしばしメジェドは機能が停止したかのように疑似小説を見る目を離さない。
クロエ達の父親とニノンの会話シーン。
何となく、終わりが近いクロエの父親の気持ちをニノンは理解し、そしてクロエの父親もまた大人としてニノンの話をしっかりと聞いてくれる。
「この作品の特筆すべき点は大人の描写ですね。どの章でも大人が大人として責任を持ち、在り方に不自然を感じさせません。だからこそ、まだ大人ではないルカさん達がより輝くんでしょうね。どんな些細な人物にも生を感じませんか?」
メジェドは止まった。そして小さく口を開ける。この作品にはあってメジェドにはないものがある。
”命”
「だから、ロクスは仮面を……作るのでありますね?」
メジェドは湿った和紙で紙すきでもすればいいんじゃないかと計算していたが、人間の心は合理性を越えた効率性を叩きだす。
あともう一押しかなとセシャトは考えたが、押しすぎるだけでなく、メジェドの考えや考察も楽しみたいと素直に思っていた。
何せ、目の前のメジェドは国立図書館すら上回る無限に近い知識を持った電子のテラーになる卵だ。
「ニノンさんは、名前の通りキューピットみたいですねぇ! 人々の縁をどんどん繋げていきます。メジェドさんはどうお読みになりますか?」
メジェドは何処かと通信、そしてそれを読み取ると何かの答えを出した。
「ロクス・ロダン。ダンサーの才能と仮面作りの才能を持つ彼は……二人の人物の名前からできているであります。それは……」
「それは?」
一体、メジェドはどんな考察をするのか、セシャトの心音が高鳴る事を自身気づいていた。だが、メジェドはその答えを言葉にしなかった。
「その答えよりも、ロクス・ロダンは愛の力を信じ。そして力を見せたであります。メジェドの回答はこの章には不要と認識しました」
それはセシャトがしてやったりとした時に見せるウィンクをそのまま真似て見せた。
「あらあら、期待させるのがお上手ですねぇ」
ロクスの気持ちとそしてニノンの淡い恋心、それを読者としてただただ楽しむという事がこの項の最高の楽しみ方であると、メジェドは結論付た。
本来セシャトが言うべき発言。
それをメジェドは呟く。
「いよいよ。章タイトルを冠する話であります」
この手法に名前はないが、より印象を持たせる時に度々見かける。通称”読者を殺す”タイトルである。最終回タイトルが作品名だったりするアレ、人によっては鳥肌が立つ程の興奮を齎す。
「皆さんでマスカレードカーニバルまで作業を繰り返す描写は、きっと学園祭前の学生さん達のような気分なんでしょうね」
「学園祭でありますか? くわしく!」
当然機械であるメジェドは学園祭なんて経験しな事はない。そんなメジェドにセシャトは鼻の先に指をあてて笑う。
「ふふふのふ、私は学校という組織に属した事がありませんので、実は分かりません!」
先ほどの仕返しにメジェドは口元が緩む。
女子高生くらいの見た目である二人は、共に人に似て非ざる存在。二人はしばし、ルカ達の作業風景を夢想し羨んでいた。
そして、メジェドは……機械であるハズの彼女は虚ろな瞳で作品との同化を始めていた。クロードはルカを自分の組織に誘う。ルカの本質を見抜いていた。ルカは根っからの職人であるのだと……メジェドはゆっくりと呟く。
「セシャト女史……その理解不能な力を重工棚田で存分に奮いませんか? どんな要望でもマスターがお応えするであります」
メジェドの提案、それにセシャトは少しだけ困ったような顔をする。そして、同じく同化。クロードの言葉に迷っていたルカ。
そんな彼に修復した仮面をロクスに渡した時、ロクスに言われた言葉をセシャトは借りる。
「メジェドさんにとっての小説紹介はなんでしょう?」
メジェドにはその答えを持ち合わせてはいない。否、それはマスターである棚田クリスの命令であるから……
なのに、それを答えようとするとプログラムされた心が痛む。
「理解不能……であります」
マスカレードカーニバル、豪邸のダンスホールにて女性陣の仲の良い情景を羨みながら二人はしばし、カーニバルに意識を飛ばす。セシャトは仮面をつけたアダムにリードされる情景を夢想し、メジェドも誰かと踊っている自分を想像した。
そして、アダムの孤児院時代に共に育った少年の登場と共に意識を現実に戻す。
「ついに、ここでアダムさんの物語も動き始めましたね。黙っていればイケメン、顔の良い三枚目。実に物語らしいキャラクターです」
昔は必ずいたハズなんだが、今は絶滅危惧種のように見なくなったこの立ち位置のキャラクター。アダムは前項でも述べた通り、主役を上回る人気を持つ可能性を秘めている。現実に戻ってきたセシャトは水を一口含んで話す。
「さて、マスカレードカーニバル最終話は、今まででも最大のボリュームを誇ります」
話の回収をする為に、省略するのではなく全て書き込んである。かと言って話数を分けるわけでない事も拘りを強く感じはしないだろうか?
メジェドは固まり読む手を止める。それはジルとクロエが仮面をつける意味を無視したダンスの間際……
殺し文句の一文をここで入れてくる。
「あら、お気づきになられましたか? 驚きの完結方法を持ってきますよね」
”そしてこの日、クロエは生まれて初めて主役になったのだ。”
否定の肯定。
本章の主人公は間違いなく、クロエとロダンなのだが、クロエは終わる事により始まる。今から彼女の時計の針は動き出すのだと、この一文で本章のクロエの物語をまとめてしまう。
感受性の強い読者であれば、クロエの今までが思い出される事だろう。メジェドは一瞬、自分の処理能力が追いつかなくなりフリーズした。フリージアのハンドクリーム、フリージアの花言葉からクロエの心情を考えようとしたが、フリージアに関するほぼ全ての花言葉がこのシーンに当てはまる。
これこそが、セシャトの言った読者によって感じる世界が違う読書。
「2番目にニノンさんとルカさんの結果を書かれるあたりが、やはり彼らをテラーとしてしっかり動かされているんでしょうね」
本来であればルカとニノンのシーンだけでご飯三杯くらい食べれそうな演出だが、当然この章の一番の主役は彼らではない……
続きを話そうと思った時、カラガランと店内に入店される音。もう閉店前故に入店された人物が誰だか把握がついた。
「おかえりなさい。クリスさん!」
セシャトが笑顔で出迎えるとクリスは人懐っこく笑う。
「ニコラス、彼は大人の鑑だね」
「おや……そうですねぇ!」
クリスは今まで店内にいたかのように、不自然に話に入って来る。一瞬セシャトはそこを気にしたが、作品を楽しんでいる人を優先する為、セシャトは先ほど二人で作った善哉、それもメジェドが作った物を持ってきた。
「お外は寒かったでしょう? これ、メジェドさんが作ったんですよぅ! 是非食べてください」
こう言っておいて、クリスのような上流の人間が口にするのかと思ったがクリスは喜んでお椀を取ると上品に善哉を食べてしまった。
「美味い! やっぱりセシャトさんに教えてもらいにきて良かったね! お菓子作りまで覚えてしまうんだ」
クリスが美味しそうにそう言う姿をメジェドは目を丸くして見つめている。今までセシャトと『コルシカの修復家 著・さかな』を読み楽しんでいたメジェドが停止したかのように立ち尽くしている。
クリスはセシャトとメジェドを前にして話し出す。
「この作品の素晴らしいところ、僕なりに考えてみたんだ。読了感の良さだけど、続きを書くつもりがないからこの出来が生めるんじゃないかな?」
あら? とセシャトはクリスの言わんとしている事が理解できない。本作、『コルシカの修復家 著・さかな』はまだまだ続く。
なんなら今だ連載中なのだ。それをして続きを書くつもりがないとはこれいかに?
セシャトは手をポンと叩く。
「嗚呼、そういう事ですか!」
章としての完結、後に各章の外伝的な物や以降で各章のキャラクターや場面がピックアップされる事もあるかもしれない。
が、現実今は各章は完結している。
小説の穴として、続きを考え書かれた作品は何処かその空気を感じてしまう。よくあるのが公募等のオリジナル小説において、二巻目を想定した上で作品を作り込んでしまう現象。
実はこれらのような保険をかけると作品がやや薄くなる。それらを本作『コルシカの修復家 著・さかな』は完全に排除してある為、この読了感の演出に成功しているとそうクリスは理解した。
「むむむむむ! さすがはクリスさんですねぇ! 一本取られてしまいましたよぅ!」
「あはは、本当に面白い方だ。では長いしすぎるのも失礼ですので、このあたりで帰りますね。いくよメジェド」
「はい! マスター」
セシャトが二人を見送った後、クリスは喉の奥に手を突っ込み、先ほど食べた善哉を全て戻した。
「メジェド、つまらない事はしなくていい。セシャトさんの力を全部奪う事だけを考えろ。いいな?」
メジェドは戻された元善哉だったそれを見て、クリスを真直ぐに見つめてから頷いた。
「……了解しました」
『コルシカの修復家 著・さかな』本作の怪物級のポテンシャルのお話を今回はさせて頂きました^^ プロの作家さんからしてあらゆる面が勉強になると言われております。やはり続きを見据えて書かない章というのは勇気がいるんでしょうね! 私の意見としては「大人の動かし方」ここに尽きます。少年少女の旅路には大人のサポート、感慨深いです!!