機械人形のオヤツ作り
さてさて、ブログの準備もいい感じで進んでいます^^
実は新しい表示も作成中なんですよぅ! 二月は逃げるかもしれませんが、出来る事は何でも進めていきたいですねぇ! まだまだお善哉が美味しい時期ですよぅ! 本日はそんなお話です。
花柄のエプロンを渡されたメジェドはそれを着るとセシャトの隣に立つ。セシャトは小豆の缶詰を二缶。
そしてお正月に買いだめしていた真空パック入りのお餅を取り出す。
「本来であれば小豆を砂糖水で煮ていくのが製法なんでしょうが、数日かかってしまうので、今回は小豆の缶詰を使いますよぅ!」
メジェドはこくこくと頷く。
セシャトはふと気づいた事があった。このメジェドは作品紹介に関係ない事に関しては一寸の興味も示さない、が今現在善哉作りに興味を示しているのは彼女というべきか、そのマスターへのオヤツの為。
彼女にはマスターへ尽くすという心のようなものをセシャトは感じ取っていた。
「アダムさんは大変、色々な知識をお持ちですよね? ダンスも軽やかなにニノンさんをマスカレードカーニバルの気分を味わってもらいます。そんな中でニノンさんは淡い恋心を感じますよね! なんともこそばゆいです」
セシャトはそう言いながら小豆をミルクパンに入れて水で味を調整していく。そんなセシャトの語りを聞きながらメジェドは口の端をきつく結んで何やら考えていた。
「修復師をされているルカさんですが、やはり他の方よりも芸術に関して大変明るいですから、工芸品としての芸術。ヴェネチアンマスクを見物していきたいと思われる気持ちは実に理解できますね」
セシャトが作る物を見て見様見真似でメジェドは善哉を作る。セシャトの問いかけに関して話を聞いていないように善哉づくりに集中。
「あらあら^^ ルカさん達はお祭りまでの一週間。ニコラスさんが見つけて来たお家にご依頼を受けに行かれます。物語を上手く繋げ次へ、と思いますが突然場面が変わりますよぅ!」
セシャトに出して貰った疑似文庫を読みながら、珍しくメジェドの方から話しかける。
「自らの主をこのように足止めするなど、言語道断であります」
ジルベールと魚屋の店主のコンビネーション。
中々力技でドロシーが止められるシーン。メジェドも仕える身としてこのシーンに物申した。
「ふふふのふ、クリスさんがこんな我儘を言われる事はないのでしょう? これで案外ドロシーさんも楽しんでいるんですよ。ここはコミカルさを楽しんでみてください」
メジェドは一人頭の中で我儘を言うクリスを想像して、少しだけ愉しそうな顔を見せた。セシャトは最初に来た時より感情豊かになっているメジェドを見て、重工棚田の技術もさることながら段々嬉しくなってきた。
「信じられない事にアメリカからフランスに世界の中心が変わりました」
「ありえません」
「……ですから、そういう物語なんですよぅ!」
メジェドは如何にAEP発電の100分の1であったとしても大型原発が百基程あれば電気エネルギーは事足りる。現在の科学技術水準から考えてもフランスがその程度の技術で世界の覇権を取れる確率は限りなく0に近いとそう算出した。
現在社会としては武器商国家としてのフランスはそもそも世界の中心になるメリットがあまりにも低く、EUとして最大エネルギー輸出国になるのではないかと堅い考えをメジェドは結論づける。
「あらあら、またメジェドさんは変な方向のループに入ってしまっていますね! では、ドロシーさんの可愛らしい気持ちについて考えましょう。一度はなくなったお祭りを再び復活させました。それは想い人の方に出会いたいというお気持ちです。非常に素敵はお話ですね! お祭りに出会いは付き物ですからね」
むっ! とメジェドはその話に食いついた。ドロシーは溺れかけた自分を助けてくれた仮面の君に再び出会うロケーションの為にマスカレードカーニバルの復活を望む。
付き人のジルは呆れるが、セシャトの話を聞いているメジェドは乙女の心を持つ機械だった。
「お祭りに出会いは付き物でありますか?」
「ふふふのふ! そうですよぅ! 本作で語られてるように、身分の違う方や、初めて出会った方々、さらには日本の学生さんだってお祭りは距離が一気に縮まるんですよぅ!」
「セシャト女史、記録しました」
むん! と真面目な顔を見せるメジェドに物語を説明していくには恋バナを絡めていくのがどうやら一番だとセシャトは理解してからほほ笑む。
「ではルカさん達の視点に戻りましょうか?」
こくんと頷くとメジェドは尋ねる。
「無駄な物とは、今作っているオヤツもそうです」
おや? とセシャトは反応する。子供は食べる量が少ないからやつ時に軽食を取る必要があると言われていたが、今や飽食の時代。確かにオヤツは不要と言えるかもしれない。
「無駄な物こそが、人間を人間たらしめるに必要なアイテムなんじゃないでしょうか? 人間を動物とした時、あらゆることが無駄になります。それは仕事や勉強であっても」
さすがに少し難しすぎたかなとセシャトは思った。ルカは自分の感覚や、考えや、そもそもの環境のそれが自分の生きる世界とは合わない事を気づいていた。
それらを無駄であると一言で言われれば、思うところの一つくらいはあるだろう。そこで話を続ける。
「アダムさんが自分の事みたいにルカさんの態度を喜ぶシーン。ここは胸が熱くなりますね。何の利害関係もない友情、いえ愛と言った方がいいかもしれません」
千の言葉で飾られた文章より、伝わりやすい表現。それをメジェドには理解できないでいるので、セシャトは指を鼻に当ててからメジェドの頭を撫でた。
「セシャト女史?」
「メジェドさんは可愛いですねぇ、分からない事でも分かろうと頑張っています。ですので私はメジェドさんを評価しますよぅ」
やはりまだ分からないという顔をする。子供を褒める時、言葉より抱きしめる。頭を撫でる等を繰り返し評価した方が子供の成長率に差があったという統計をアメリカが持っている。分かり易いものの影響は強いという事なのだろう。
「ルカさんは空いた時間で絵画のピースを修復しはじめますね。これらは信じられない程のエネルギー価値があるのでしょうか? 二人の人物が画かれているようです。どんな絵なんでしょうね」
セシャトの語りに対してメジェドは答えを持たない。何故ならあまりにもヒントが少なすぎるのだ。それなのに、メジェドは言の葉に乗せた。
「ラッカムの、ブリュンヒルデあたりが推測されます」
ラッカムは挿絵作家。ニーベルンゲンの指輪のブリュンヒルデは中々に見る者を圧倒させる。
それ以外にも有名な本の挿絵を次々書かれているので名前は知らずとも見た事がある者は多いかもしれない。メジェドは本作『コルシカの修復家 著・さかな』の世界感を挿絵の世界と重ねて解読したのかもしれない。
そこでセシャトはくすりと笑う。
「成程、確かに本作をラッカムさんの挿絵で読むとまた違った表情が見えるかもしれないですねぇ。ですが、私は同じ英雄でもどうもニノンさんに関係のある英雄が画かれていたりするんじゃないかなと夢想してしまいますね」
セシャトは遠い目をしながら、七輪を持って来る。そしてその上で丸に四角に切り餅をのせる。それを見てメジェドがきょろきょろと換気するところを探してからセシャトに注意する。
「このキッチンで練炭の使用は危険であります」
セシャトは頭をかくとオーブントースターで餅を焼き始めた。
「ニノンさんとクロエさんのパジャマパーティーで、ついに一つの物語が繋がりましたね」
こういうところは人間の読者ではないメジェドの理解は異常に速かった。そうドロシーの使用人ジルとクロエの関係性について。それにメジェドはうっとりしているようにも見えた。
(おや?)
セシャトはロボット工学もAIの知識も一切ない故気にしないが、果たして今現在のアンドロイドがこんな反応をするのか……脊髄反応や感情に関係する分泌反応をどのようにプログラムされたのか、ざっと現在科学の水準を越えている事を小説紹介者のセシャトが知る事は百年後でも気づかないだろう。それは本作『コルシカの修復家 著・さかな』におけるAEP技術を人類が開発するくらい途方もないお話である。
「今度、当方でお泊り会でもしましょうか? クロエさんとニノンさんみたいに、眠たくなるまで色々なお話をして、夜更けにオヤツなんて食べちゃって、楽しいですよぅ」
機械であるメジェドに眠たくなる事があるかは定かではないが、それにメジェドはコクコクと頭を縦に振る。
「さてさて、天の岩戸の開け方ですが、さすがはアダムさん。信じられない方法で失敗されましたね」
引きこもっているクロエの弟の部屋をピッキングで開けて侵入。そして見事に散った。彼は失敗を恐れない。ダメで元々しっかりとした大一番を用意しての強行だった。
「芸術品としてのマスクの修復。絵画の修復よりははるかにレベルは落ちると思われます」
実際そうだろう。修復する際の材料費に関しては不明だが、そこまで時間が経っていない上に、実際作り直しが効くマスクにおいては、修復難易度は大きく上がるだろうし、分野違いとはいえ精密作業を生業にしているルカからすれば不可能な仕事ではない。
彼の思惑通り、その道の職人がついてくれているなら尚の事。
「ふふふ、仮面の焼き直しが出来るとなると、お祭り時の不要物も減りますし、それで開催が通年化すれば仕事としても続きますし、非常に最善手ですよね。ですが、弟さん意外にも厄介者を彼らは呼んでしまいます」
ルカの血筋と善哉家の日本での生業と、そこから生じた善哉家もとい佳那子の怨恨について、ルカからすれば知った事ではないのだろうが、このお家間の問題は少々ややこしい。これは今だに日本の伝統芸能でも度々話題に上がるわけで、しっくりとくる。
セシャトとしては善哉家の攻めと道野家の守りの技法に関して……それがどういった物かは分からないが、一流であれば他流の技能もある程度は駆使できるものではないだろうかと思ったが、セシャトの思考を読んだようにメジェドが言う。
「それが出来なかったから、顧客満足を得られなかったと認識します」
(メジェドさん厳しいですねぇ)
善哉も出来上がったところで、鍋の火をとめて塩で少々味を調整しなおして出来上がり。クリスが来た頃に温めなおし出してあげればいい。
「私はロクスさんのお気持ちが痛い程よく分かりますよぅ! 私もはじめて珈琲を淹れた時、それはそれはお世辞にも美味しいと呼べるものではありませんでした。何度も苦悶し、なんとか皆さんに美味しいと言っていただけれるレベルの達したものです」
そう言って自分で淹れた珈琲を美味そうに飲むセシャト、メジェドは珈琲を飲めないのかそれを断り、セシャトに尋ねる。
「ニコラスはロクスの踊りの才を見出していますが、分かるものなのでしょうか?」
これは素人でも分かる。それに向いているのかどうか、さらに言えばニコラスはその筋のプロフェッショナルである。何が凄く、何処が弱点なのか、匠のレベルに達していればおのずと見えてくる。
「そうですね。自分の才と出会える可能性は実は低そうです。ですが、ロクスさんは丁度自分の才を伸ばしていたところ、その才を見つけてくれるニコラスさんがお部屋にやってきてくれる事になったんですね。そしてもう一方で面白い事になりました」
セシャトが指を天井に向けてそれはそれは楽しそうに語る。ヴェネチアンマスクがAEPの薪替わりになる可能性がある。
当然読者は思うだろう。それら以外の芸術品もまた同じくAEPの発電材料になるのではないか……
マスクは全て買い取り、売り手側に非常に有益な条件まで提出されるがクロエはそれを断った。話が混戦しそうなところでルカは、和紙の製法をちゃんと教えてくれとクロードに言う。それはセシャトは物語として楽しんでいたが、重工棚田のオーバーテクノロジーはそうじゃなかった。
「和紙の耐久性。それは現在流通している物、さらには海外で精製された紙と比べて、精度が全く違います。和紙の技術を取り入れたマスクであれば、その耐久精度に経年劣化対策と今まで使われていた物とはくらべものにならない品が出来るでしょう」
目をぱちぱちさせながらメジェドは語る。実際に和紙は劣化しにくい。江戸時代に侍が海外留学をしていた際、鼻を噛んだ和紙のちり紙を現地の人々は拾って歩いていたという。陶器輸出の際に包んだ和紙をランチョンマットにしたなんて話もヨーロッパでは聞く話であり、彼らはそれを精製する技術を持っていなかった。
「道野家に善哉家、さらにはクロードさんと戦力的には申し分ありませんよね! さてさてマスクの修復も気になりますが、一度善哉を頂いて休憩しませんか?」
セシャトは今しがた作ったぜんざいに餅を淹れると、セシャトが作った物とメジェドが作った物を二杯ずつ盆にのせるて、塩昆布を付け合わせに用意した。
『コルシカの修復家 著・さかな』本作の知名度は相当高いと思いますので、ご存知かもしれませんが、現在公開されている最新話の章もまたブレずに展開されてますよぅ! まだ途中までという方は二月を追いかけるように作品を追いかけてみてはいかがでしょうか?
次回は新キャラメジェドさんと私の読み込みの最後になります^^ クリスさんは喜んでくれるんでしょうか!