星を見ながら、作品に酔う
なんだか、最近雨が少ないらしいですね^^2月は一番寒い気候のハズなんですけどね^^
当方、旗艦としてブログの準備に入りましたよぅ!
イベント等に活用していければいいですねぇ!
さてさて、冬の星座もそろそろ見納めでしょうか?
「というお話があったんですよ!」
セシャトは絵本作家の個展に行ったら軟禁されていた話を母屋でお菓子に舌鼓を打っている高校生の三人組に話した。
彼らは一欄台学園文芸部の三人。
眼鏡をかけた部長がセシャトに尋ねる。
「『コルシカの修復家 著・さかな』は俺達も今月の課題図書にさせてもらってます。本作はどちらかと言えばビジュアルノベルのような雰囲気を放っていますよね?」
文芸部部長の満月さじがセシャトにそう言うので、セシャトは指を鼻の先に当てるとそれはそれは嬉しそうな顔をした。
「そうですね。各章毎に物語は違いますが、一貫した大筋の物語がありますから、一概には言えませんが、これは完全にライトノベルです。但し、大変芸術の国イタリアと、芸術面の知識が豊富ですので、それらを惜しみなく注がれている事で文章作品としての質も内容レベルも極めて高いと言えるでしょうね」
セシャトの返答にぴくりと反応したのは先ほどからケーキをドカ食いしている少女。口元のクリームをぬぐうと質問をした。
「セシャトさん、ベニスの仮面って何?」
あらあらとセシャトは、完全に取れていないクリームを少女から取ってあげる。少女は文芸部の紅一点。茜ヶ埼理穂子。
「むぅ……」
「ベニスの仮面という物はありませんが、恐らくベニス。ベネチアのマスカレードパレードに使われる目の部分だけ隠すような仮面の事ではないかと思いますよ。この章では大変衝撃的な事が起きますよね?」
ルカの父親が襲われ大けがを負い、マリーの誘拐。物語が唐突に動き始める。マリーを誘拐した仮面の男、恐らくは絵画怪盗集団の一人。
彼とルカの緊迫した状況で茜は言う。
「こんな奴ぶん殴っちまえばいいのに」
「あらあら、理穂子さんは、怪人二十面相をやっつけちゃいましたもんね?」
事実は小説より奇なり、彼ら文芸部を狙う犯罪者を茜はぐーパンで倒した。それ故、笑えない一言でもあった。
「だって友達誘拐してぞんざいに扱う奴じゃん。酷い事をしていいのは、酷い事をされる覚悟がある奴だろ?」
「ふふふのふ、ここでルカさんがぐーパンでやっつけてしまってもそれはそれで面白いのかもしれませんが、ここはルカさん達の家が何をかくまっているのか……が見え隠れする大変貴重なシーンです」
今まで、あるいはここまでが序章として考えてもいいのかもしれない。役者がそろい、イベントが始まった。盗賊団と奪われた絵画、言わば作品における敵。
そしてルカの家とニノンの関係、そして謎。二人が運命に導かれたのか翻弄されるのか、それがここから始まる。
セシャトは珈琲を一口飲むと、ピエールエルメのマカロンをパクリと齧るとそのおいしさに目を瞑る。
「はひゃあああ! いつ食べてもたまりませんねぇ。さて、ルカさんの瞳ですが瑠璃色の瞳です。私やミーシャさんとはちょっと違いますよね?」
文芸部の最後の一人。自ら発言をする事はないハーフの少年。大熊ミハイル。そしてセシャトは日本人にはほぼありえない色の瞳を持つ。エメラルドグリーンと曇りなき灰色の瞳。
「瞳の色というものは実は全く同じ色という物はありません。一見同じように見えるさじさんも理穂子さんの黒い瞳も実は違うんです。そして、ミーシャさんのようにハーフ、あるいは沢山の血が混ざっている人々は時として遺伝子の悪戯みたいな瞳の色を持つ方がいらっしゃいます」
一番有名な瞳はアースアイだろう。地球や虹色の輝きを持つ瞳。人間の、生物といういつか朽ちる生きた宝石とでも言えるかもしれない。
本作の主人公であるルカ、彼はラピスラズリ、瑠璃色の瞳を持つ日本人。村文化では異端者は魔女。この場合の魔女は女性を指すものではない。
として扱われる事が多い。
「でもこれ、さすがはド田舎。団結力こわっ!」
茜がやや田舎をディスるような発言をするが、この村社会が故にルカ達は一難を回避する事に至った。そして壁を作っていた自分に気づく。彼が少し成長したシーンに少しばかり心が温かくなるのではないだろうか。
「本作の上手いところは、メリハリがしっかりしている事ですね。盛りすぎない、ですがしっかりと夢中にしてくれる展開を用意してくれています。皆さん、次の章がもう読みたいんじゃないですか?」
セシャトの質問に対して、三人は少しばかり含んだような表情をして、スマホやタブレットをセシャトに見せる。
「「「もう読んでます」」」
セシャトは目を瞑ると呟く。
「あらあら、あわてんぼさんですねぇ」
そんな中、好奇心旺盛な文芸部の部長は手を上げる。
「修復は魔法ではない。対極のところにある。確かに、ルカは科学を持って修復を行ってるけど、それは理論化された魔法。絵画をエネルギーに変える事ってのが、なんとも言えませんね」
「おや、面白い事に気づかれましたね! スパコンが動くのも技師がいるから、大きな力を行使するには必ずメンテナンスをする人がいるという構図はずるいですよね!」
セシャトを含み、ここにいるメンバーは作品に同化し、ほのぼのとした会話を続ける。それはアダムの話に笑うニノン、そして夢を語り旅を始める三人のように……
「どうして絵画からエネルギーが生まれるんでしょうね」
ミーシャの質問にセシャトは少しだけイタズラな笑顔を見せる。
「絵は昔から命を塗り込むといいますからねぇ。ふふふのふ」
今の画家はどうかは分からないが、世界中昔の画家は人生を全て作品に打ち込む隠者である事が多かった。それは何か神聖な、神々と対話でもしているように。
そんな作品であれば特異な力が宿っていてもおかしくはないのかもしれない。
セシャトの話を聞きながら、作品を読んでいて茜が叫ぶ。
「この作品、プトレマイオスまで出すのか!」
「なんですかそれ?」
質問するミーシャにニコニコと笑うセシャトもよくわかっていない。それに茜はハァとため息をついて「さじ坊」と部長に話を振る。
「古代ローマの自然学者。この時代に天文学にも意識を持って行く典型的な学者脳な人。こいつの書いた図形書が『アルマゲスト』。で、英語読みをするとトレミー。なんていうか、このキャラクターの遣い方がにくいな」
有名なアルマゲスト、この意味だが、高位の物や偉大な物のような意味合いがあり、うまくかかっているのである。作中のトレミーは、素晴らしい星空をアルマゲストとした。
「これは実のところ、クラウディオ・プトレマイオスの『アルマゲスト』より正しいと思いませんか?」
さじの発言にセシャトは聞き手にまわる。分からない事は素直に聞く、それが良い話し手なのだ。どういう事でしょうという顔をセシャトとミーシャがするので咳払いをすると満月は話す。
「天動説は偉大ではないという事です。日本人の学問なんて知らない。昔の農民が地上は丸くて回ってると直感的に知れたのに、コイツは天動説を疑わなかった。残念ながらその程度の頭だったってことです」
超有名人を思いっきりディスる満月に苦笑してセシャトとミーシャは話を聞いた。そしてころあいを見てセシャトが話の主導権を返してもらう。
「さて、この章は絵画に描かれた星空が空想か、事実なのか、ここに修復師であるルカさんを絡めてくる。果たしてどんな顔を見せるのか、なんという事はない流れなんですが、これが実に計算され真似できませんねぇ!」
本作には必要以上の派手さは必要ないのだろう。それを補うにたる展開性と筆力がある。三人が作品に没頭している中、セシャトは母屋の電気を消した。
「わっ!」
ミーシャが声を出すが、画面の光で文字は読める。セシャトが室内の電気を消した理由。それは室内で使えるプラネタリウムを起動させたかったからである。
「作品により同化する為に、私達も星を見ながらお話をしましょうか! ここでご質問です。宇宙人はいると思いますか?」
セシャトの質問に、三人は答える。満月と茜は即答でいると、ミーシャは、多分いないんじゃないかななんて曖昧な答え。
「これはですね。世界中の天文学者が口を揃えて言います。宇宙人はいると」
そんな馬鹿なと……宇宙人がいるなんて聞いた事がない。そうミーシャが思っていたらセシャトは補足する。
「さらに、世界中の天文学者さんはこちらも口を揃えていいます。今後千年以内に宇宙人に会えるかというと答えは限りなくノーであるらいしですよぅ!」
確実に生命体は存在するが、それに遭遇できる確率は限りなく0に近い。だが、0ではないのだ。
「アダムのセリフか」
「茜さん正解です。信じていれば願いが叶う可能性はあります。だから、学者も学生さんも勉強が大事なんですよぅ!」
成程、そんなウザい方向に繋げて来たかと三人は思うが、セシャトの顔を見ていると怒りではなくなんだか心が温かくなる。
そして間髪入れずにセシャトは語る。
「さて、私は学校という組織に属した事がありませんので、ここは茜さんや満月さんの方がご理解があるのではないでしょうか?」
「さすがに普通の高校生じゃ……」
天文数学について……
「年周視差って言って、地球の球体から光年を測る方法があんだけど、メートルとかヤードで変わってくるし、十二歳のガキが理解してるとか、すげぇ天才だよ」
優等生満月が答えられない事を茜が答えるので、パチパチと手を叩くセシャト、ミーシャに至っては何言ってんだコイツ状態で茜を見つめる。
「簡単に言えば、この作品がやろうとしている事、読んでほしい事、読ませたい事。どれもちょっとなろう作品離れしすぎてるって事。ひと昔前の電撃とかで取り扱われてる系。私は作中ではこの『星降る村』が一番好きかな」
茜をしてそう言わせる。
プラネタリウムと化した母屋内でセシャトがふふふと笑う。
「『星が降る村』と題されているので、恐らく大体の読者は流れ星なんだろうなと気づきますよね? 茜さんは何か少し含まれているようですが何かご感想がありますか?」
こういう時のセシャトの反応には困ったものであった。心を読まれたのではないかというようなそんな気分になる。茜は観念してこう言った。
「私は、トレミーが書いた『アルマゲスト』をこの部屋みたいに暗い場所で光に当てると、プラネタリウムみたいになるのかなってちょっと思っただけ、それが『星降る村』だったらな。みたいな?」
ちょっと乙女な事を言う茜にセシャトはうっとりし、満月とミーシャは死んだような目を見せるので当然この後、茜が二人を追いかけまわす事になる。
本作『コルシカの修復家 著・さかな』は章ごとに当方の紹介時の場面を変えさせていただいております^^
星降る村は、週間紹介の文芸部の皆さんと楽しませて頂きます^^
章毎に大変勉強になる『コルシカの修復家 著・さかな』ですが、皆さんはどの章が一番お好きですか?
まだ読まれていない? そんな方はどうでしょう当方と一緒に楽しみませんか?