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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
最終章 『セシャトのWeb小説文庫2019』
110/111

第十話『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』

本日は二話更新となります。

セシャトのweb小説文庫2019。最終回をお楽しみに!

 坂本龍馬を追う一方で総司が盛大に腹の音を鳴らすので、セシャトはバックから海外のチョコレートバーを取り出してそれを土方と総司に配った。



「美味しいですよぅ!」



 それをパクりと食べて総司が「おぉ!」と感嘆する。甘いチョコレートが嫌いな人は極めて少ないだろうとセシャトはそう思う。



「さて、このチョコレートを題材にした物語があります」

「セシャトさん、聞きたいけど、そんな流暢な事をしていては……」



 周囲の人に聞いてまわったところ、坂本龍馬らしき人物は京都タワーに向かっていると言う。そこで何をするのかは分からないが、タクシーに乗って先回りしようと言うのが、セシャトの考え、そしてその間に二人に教えようと思った作品。


『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』


 この作品を幕末の志士はどう考えるのか……

 そして当然食いついたのは総司だった。彼は自らの病に抗おうとしている。それ故にセシャトに質問。



「のぉ、私がこの時代で適切な治療を受けても私は死ぬのか? そんな事は信じとうないが……この娘を助ける手立てだってあると思うのだが……」



 未来を知っていてやり直しても結局ルートが変わらないという事に総司はナンセンスであると言う。それには土方も答えを持ち合わせてはいないので難しい顔をしていた。



「物語には並行世界理論と並列世界理論という物があります。並行世界線上においては同じことが繰り返されると言われていますね。そして並列世界という物は……例えばチョコレートを食べている総司さんや土方さん、そして食べていない総司さんや土方さんという可能性のお話になります」



 それを聞いて総司は目を輝かせる。それは労咳で死なない自分という可能性のお話。



「それはどうやって見分けるのだ? セシャト、私は死にとうないのだ!」

「これは希望的観測のお話になってしまうのですが……私の、いえ私達の知る新選組の土方さんは今私の目の前にいる土方さんではありません。そして近藤さんもです」



 総司は自分だけ名前が呼ばれない事に機嫌が悪くなる。そして頬がだんだんと大きくなっていく。



「なぜ私の名前だけ呼ばん!」

「沖田さんは写真が残っていないんですよ! ですから、今私の目の前にいる沖田さんが、並行世界の方か、並列世界の方か、判断がつきません」



 それを聞いて土方は思い出す。



「ハルという少女ですね? セシャトさん!」

「おや、お気づきですね! そうです。最初に出てくるハルさんは恐らく並行世界の住人と考えてよいでしょう!」

「それはあれか? 花蓮を助けた事でか?」

「はい、タイムパラドクスと呼ばれる現象です。駆さんとハルさんの味の趣味嗜好がそっくりであるという事が少し面白いです」



 総司は再びセシャトからチョコレートバーを強請り、それを齧ると当然だろうという顔で総司は話した。



「子供は親が嫌いな物を食べる機会が少なかろう? それもこんなに食い物が溢れておる世界だ。だから駆という男とハルが関係者であるとすぐに分かるわ」



 バリバリと海外製チョコレートバーを食べる総司。先ほどやや凹んでいたが、自分が並列世界の存在ではないかと考えすぐに立ち直っている。

 この立ち直りの速さは今の日本男子には中々ないなとセシャトは思う。そして二人ならどんな感想を述べるのだろうと思ったその時、タクシーの運転手が声をかけてきた。



「面白いお客さん達、京都タワーに到着したでぇ」



 京都タワー、それを見上げて土方と総司が大きく口をあけて黙る。普段、東京タワー、そしてスカイツリーを見飽きているセシャトからすればなんという事もないそれだったが……



「京にこんな天守閣が……」

「凄いものだのう……土方さん」



 土方は京都タワーを見つめて、動悸が早くなる。そして汗が吹き出しながら、口元のみ笑っていた。筆を取り出すとメモを取っていた。



「これが、いつか来るのか……」



 なんという事はない金属の建物にある種の信仰でも感じているような二人。セシャトは二人に声をかける。



「きっと、ハルさんが駆さんと花蓮さんと過ごした時間も同じように不思議な感覚なのかもしれませんねぇ。それでは上りませんか? 坂本龍馬さんがお待ちだと思いますよぅ!」



 坂本龍馬という名前を聞いて、心底嫌そうな顔をする二人だが、京都タワーに上るのは少しだけテンションを上げていた。



「なんという高さだ……山に登ったようだ」

「ふふふのふ! 東京。ええっと、江戸にはもっと高い建物がいっぱいありますよぅ!」

「誠か? セシャト!」

「はい!」



 展望台へと昇りながら、どうやってこのタワーが立っているのか、工期は? 等と質問されながらセシャトは分からない事は分からないので笑ってごまかした。



「駆さんは絶望し続けます……ただ、その絶望はもしかすると……」



 総司が自分の刀に手を添えてからセシャトが言おうとしている事を変わりに答える。



「あれだの。独りよがりだの……誰が一人で落ち込んでくれと願った? 花蓮か? ハルか? それとも嫁か? うじうじしよって、私が目の前におったら介錯してやるのにの、そこで茶をしばいとるうつけのようにの」



 京都タワーの三階展望台カフェにてコーヒーに舌鼓をうつ男性の姿があった。手遊びをするように何かをポーンポーンと投げて……



「まさか……あれが、坂本……」



 セシャトがドキドキとあの幕末で何をしたのか実はあんまり分からないけれども、とーっても有名なあの坂本龍馬がいる……



「総司、抜くなぁああああ!」



 周囲の客が怒号する土方に注目する。コーヒーカップをコトンと置いて、店員の女の子を呼んだ坂本龍馬。



「お嬢さん、これ”ちっぷ”じゃきに」

「えっ? はぁ……」



 福沢諭吉を渡した坂本龍馬は「釣りはとっときぃ」と言ってセシャト達に振り向き向かってくる。ジーパンにブーツ、そして羽織という前衛的なスタイルの男性。髪型も今風、耳にはピアスなんて開けている。

 そしてセシャトは気づいた。



「坂本さんは、私達より先に京都タワーにたどり着いてますよぅ!」

「なんだあいつ……もしかしてハルみたいな存在なのか? 坂本ならありえるぞ土方さん、斬っていいならすぐに斬るぞぉ!」



 一触即発の状態で、尚坂本は近づいてくる。「やめちょき! そないな田舎の剣は当たらんて」と総司を煽りながら……



「土方に沖田、そないにかっかせんと、これでも食わんか?」



 ぽいと坂本が投げた物を土方と総司、そしてセシャトも受け取る。それはチョコレート。土方と総司は今だ噛み付きそうな勢いだったが……セシャトは驚く。



「お二人とも、これは三重奏ですよぅ! このお菓子は物語の中。『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』にしか存在していないお菓子です……坂本さん、貴方は何者ですか?」



 セシャトがそう言ってはじめて土方は気づいた。この坂本龍馬はセシャトが語る話を何故か知っているという事……



「いやぁのぉ。『おべりすく』らっちゅー親切な連中にこじゃんとしちぇもらったきに、おんもしろい話も聞いてのぉ……わしゃ、国の戦は好かん。血を見るのも好かん。じゃけん、ここに残ろうと思ったんじゃ。けんど『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』の話を聞いて気ぃが変わった。駆と花蓮はまた出会えたんじゃ」



 何を言っているんだこの坂本龍馬という男は? とセシャトは思う。ただし、彼はセシャトの知るというか、イメージ通りの快活な男。坂本龍馬のそれだった。



「いやぁ、この『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』で飲みよるコーヒー、一度飲んでみたかったんじゃ! まぁ不味いのぉ! がっはっはぁ!」



 それにセシャトはいてもたってもいられなくなった。



「珈琲は美味しいですよぅ!」

「なんじゃおはんは? あぁ……あの『おべりすく』の仲間かのぉ! 異人さんか? めんこぃのぉ!」



 セシャトの前に土方と総司が立つ。その二人を見て、坂本龍馬は手の中に持っている物を見せた。



「きさんらも共に帰るかの? そろそろ向こうの匂いが懐かしくなってきたじゃが? 源内のカラクリでかえりっしょい」



 土方は刀に手をやったまま……総司に聞いた。



「総司君はそれでいいの?」

「そうだのぉ……坂本の首を刎ねたいがのぉ……駆と違う道を私達は歩むのおもしろかろう? 今回は坂本。貴様のサイコロに乗ってやる」

「えぇのぉ! この時代じゃと、血なまぐさいきさん等が可愛く見えちょる。舟が欲しいのぉ、過去と今と明日を渡れる大きな黒船が欲しいのぉ」



 あっさりと、帰るという事になった。なんという拍子抜け……今だ総司は刀に手を当てて坂本を睨みつけてはいるが……

 セシャトはふと一つ提案をした。坂本はコーヒーが不味いと言った。



「皆さん、最後に美味しいコーヒーを飲みませんか? 御馳走しますよ! さて、皆さんには令和元年の最後のお客様です。どうか、ごゆっくりとお楽しみください! 私、古書店『ふしぎのくに』店主のセシャトがご紹介いたしますよぅ!」



 金の鍵を取り出したセシャトは少しだけ髪の毛を逆立たせる。神々のワードを呟きながら、金の鍵に口づけした。



「фотувебксте(疑似古書店召喚)」



 幕末志士達にセシャトが選んだ最高のコーヒーと、最高の餡子菓子、たい焼きにて三人をもてなす準備をしてセシャトはお辞儀した。

今年の紹介小説の最後を締めくくるのは『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』となります。1日で読み終えれる分量となる本作を令和最後に楽しみませんか?

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