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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 『コルシカの修復家 著・さかな』
11/111

とある絵本個展にて

2月がはじまりましたね^^ 古書店『ふしぎのくに』大型アップデート中です。4月頃に公開できるでしょうか? セカンドシーズン2月はその為、当方から作者さんにアポイントを取らせて頂き、まずハズさない作品をご紹介させて頂きます! 

「手を上げて一か所に集まれ!」



 知人の絵本絵画の個展を楽しみに来たセシャトだったが、閲覧しに来ている顧客も少ないこの個展にまさかの強盗が立てこもった。スマホが没収され、通報が出来ない。

 シャッターを閉めて、目出し帽の男は大きな刃物を持っている。それを見て親子連れの子供が泣き出した。

 それにストレスを感じた強盗は刃物を向ける。



「今すぐ黙らさないか!」

「ひぃ、ごめんなさい。お願いだから泣き止んで」



 泣き止まない子供、一体どんな仕打ちをされるのか、母親も恐怖でうまく子供があやせないでいる中、セシャトはよしと立ち上がった。



「なんだお前!」

「古書店『ふしぎのくに』店主のセシャトです。一瞬だけスマホを触らせてくれませんか?お子様達にお聞かせする本を取り出したいのですが」

「何言ってやがるんだ! ふざけた事を言っていたら……」

「大丈夫ですよ。どう見ても私は腕力では勝てないでしょう?」

「……俺が操作する、どれだ? お前のスマホ」



 男は何を思ったのか、セシャトの指示通りセシャトのスマホを取り出すとブラウザを開く。



「ではこう御調べください!『コルシカの修復家 著・さかな』です」



 もたもたと強盗はそれを調べて「これか?」なんて言いながらセシャトに見せる。そしてもう片方の手でセシャトに刃物を向ける。



「あっ、それですそれです! ではそのまま持っててくださいね。хуxотоxунихуxакутоxуноберу(Web小説疑似書籍化)!」



 強盗もそこに監禁させられている人達も一瞬何が起きたのか分からない。セシャトは金色の鍵を取り出すとスマートフォンから本を取り出した。



「お前何をしたんだ!」

「えっと、これは疑似小説文庫と言いまして、インターネットに公開されている小説を質量のある本として抜き出したんです」



 言っている意味が一ミリも理解できないでいる中、セシャトは怖がり、泣いている子供達の前でしばらくその本を朗読してみせた。

 コルシカ島での修復家ルカの物語、それに子供達どころか、その親も感心して聞いていた。母親に子供が「原子力発電の百倍ってどのくらい?」なんて聞くものだからセシャトは少し困っているとまさかの強盗が話しだした。



「そうだな。大体東京ディズニーランド40万個くらいを動かせる電気の量だ。だから絵画のエネルギーで得られる物がその数百倍、夢のある話だな」



 強盗に対して今まで怖がっていた子供達が東京ディズニーランドなんて言ってしまうので今までの恐怖から興味に変わる。



「ありがとうございます。強盗さん! そうなんです。このお話は、まさに魔法の理論化に成功した世界の物語となります」



 ふふふのふと、セシャトはてくてく個展会場内を歩く、それに「オイ!」と強盗は声をかけるが、セシャトが一枚の絵の前で止まって見せる。



「皆さん、強盗さんもこちらへどうぞ」



 それはこの個展の中にある唯一の油絵、セシャトは少しその絵に鼻を近づけて嗅ぐ。そしてこういった。



「皆さん、触れずに香りを嗅いでみてください」



 テレビン油の匂いに少し臭いと思った者もいる。それは強盗も同じだった。そしてセシャトはこう言った。



「これが絵画の命の匂いです。油絵は比較的修復しやすい部類に入ります。ではここで豆知識を! ルカさんは日本人との混血です。油絵という絵画に関してはヨーロッパに劣るものの、事修復というお仕事に関しては日本は群を抜いています。修復師の国と言われたフィレンツェにおいてもその指導員の多くは日本人なんですよぅ! そしてこのシーン素敵じゃないですか?」



 セシャトは読んだ。

 昔、コルシカ島はラピスラズリの産地だったと、掘りつくして見つからなくなったが、そのラピスラズリと同じ瞳をしたルカは失われた宝を受け継いでいるのだとガールフレンドのマリーは語る。



「この世界では悲しいかな、そのエネルギーを得る為に絵画を使います。絵画を修復し質の良い薪に変えるわけですね。その為、ルカさんは着色用の虫を探して森に入るのですが……そこでこの物語は始まるんですよぅ!」



 コルシカ島の朝日と同じ色の髪をした少女、ニノン。



「彼女はニノンさん。可愛い子、綺麗な子という意味があるようですね! フランス語ですよぅ! コルシカ島は現在フランス領ですが、私達や皆さんがよく知る地中海料理の殆どはこのコルシカ島のお料理だったりするんですよぅ!」



 へぇと皆が話に夢中になっている中、さらにセシャトは物語を進める。ニノンには記憶がない、そんなニノンに対してもルカは中々ドライである。セシャトが少しアレンジをして読むものだから、先ほどまで泣いていた子供はクスクスと笑いだす。



「ルカの野郎、少し酷い男だな」



 今まさに人質を取った立てこもりをしている男が言うにはやや苦笑してしまうセリフを吐くがセシャトはそれにふふふのふと笑う。



「強盗さんも皆さんも『コルシカの修復家 著・さかな』にハマり始めていますねぇ! 本作は絵本のようで、芸術的で心が温かくなりますからね! 一つこの世界で悲しい事はアートとしての絵画が認められない事ですね。そんな中でルカさんのお食事中にお父さんから重大な発表があります」



 ルカの父親は修復師でありながら、芸術を理解する心を持っている。そこで語られる業務引き継ぎ……ここでテンションを上げたのはセシャトだった。



「みなさん! これ見てください! 完璧なタイミングでの表紙UPですょう!」

「うるせぇ!」



 強盗は刃物を向けるが、セシャトのあまりの笑顔に引いて、刃物を降ろした。自分より、おかしな人物を見た時、人は冷静になれるのだ。

 再びセシャトの話を聞いていると、子供が「グリルって何?」と言い出すので、それに母親は「焼き物のお料理よ」なんて答えるのでセシャトは頷く。



「イタリアみたいな名称の癖に、食い物はフランスなんだな」

「おや、分かりますか強盗さん」

「あぁ、ヨーロッパは何処もかしこも料理の味付けを塩しか知らない」



 イタリアは比較的調味料と料理方法に関しては単純だが、味付けにはバリエーションを持たせている。片や他の地域はとにもかくにも塩味が多い。本作のコルシカ島はどちらかといえばフランス文化圏の雑な料理の描写されている。

 この作品の味として、こう言ったところだろう。何気ない洗濯物の風景、人々の営みのような物を文章から香って来る。

 セシャトは小さな鞄からボンボンチョコレートを取り出すと、少し惜しんだ顔をしつつ強盗と、そこにいた母子達に配る。



「作品の中で珈琲とベルギーのチョコレートを楽しまれていますので、私達もオヤツにしましょうか! 読書は意外とお腹が空くんですよぅ! 作品ではベルギーチョコレートですが、これはフランスのエヴァンですよぅ!」



 そう言って一粒ずつ皆に配るとそこにいた子供達が「ベルギーのチョコたべたーい!」とうのでセシャトはウィンクする。



「当店、古書店『ふしぎのくに』に来ていただければ、ピエール・マルコリーニを用意しておりますので、是非遊びにきてくださいね!」



 セシャトが渡したエヴァンのチョコレートに舌鼓を打ちながら強盗がセシャトに質問した。



「なぁ、チョコレートなんてどこでも同じじゃ」

「同じじゃありません! ベルギーのチョコレートは大きな型にはめてそれはそれは、食べ応えのある仕様なんです。ベルギーのボンボンチョコは美食という意味を持っています。作品でコルマンさんもこれを食べたら他が食べられないと仰っているでしょう?」

「あ、あぁ」



 フランスのボンボンは中に入れる物にコーティングしていくので大きさという面では型抜きチョコにどうしても劣る。



「話をチョコレートから戻しますが、この第二章が逸品なのは、足りない三十ユーロという物を上手く物語に繋げている事です。ムーランルージュの踊り子がやっと出てきますよね!」



 これは比喩でも揶揄でもなく、有名なムーランルージュ、キャバレーの話である事に強盗も、子供達の親も喰いつきがよくなる。映画にもなった赤い風車が屋根についた実在したキャバレー。こういう情報に関しては子供は少しばかりつまらなさそうにするので、セシャトはメモ帳にポップな絵を描いて子供達を飽きさせない。

 代わりに大人はどうでもいい事に食いつく。



「セシャトさん、先ほどの指輪のくだりはどうしたんでしょうか?」



 ルカのお父さんが話す守らなければならない人物について、もちろん読者は薄々感じているんだろうが、伏線であり頭の片隅においておけばいい事。案外、伏線という物に大人は気づかない、が……セシャトはウィンクをして鼻に指をあてる。それで大体分かってくれるのも大人の良いところだった。



「ボードレールって画家知らないわね」



 腐っても絵本絵画を見に来たご婦人の一人が自分の知識を追うが思い当たらないのでそう呟いた。



「そうですねぇ、作者さんが非常に美術に造詣が深い方ですので、私達には知らない方かオリジナルかどちらかでしょうね。同名で私が知っているのでエドガー・ポーを翻訳されたり、近年では『悪の華』で再度知名度が上がった、シャルル・ボードレールさんがいらっしゃいますが、恐らく違いますね。さてさてルカさんの修復方法ですが、日本は古来から使われているんですよ! 時代劇なんかに出てくる昔の本。あれも製作段階で裏紙に糊をつけます。それがこの『ふのり』です。ちなみに、布とかいて布糊ふのりとも言われており、実用的だったんでしょうね!」



 セシャトの手取り足取りの説明では分かりにくすぎるので、強盗にも手伝ってもらい画像検索して母子に見せる。

 ここまで落ち着かせる事が出来るのは、本作『コルシカの修復家 著・さかな』が実に作品としても内容としても出来上がりすぎているが故。



「さて、ブドウの皮なんか使って絵画のドレスを染めてしまうなんてすごいですよね! では、これにて突発。絵画のお勉強&Web小説紹介第一回を終了します! 皆さんびっくりしましたか? こちらの強盗さんは実は皆さんに楽しんでもらう為に私共々演技をさせていただきました! またのご来店お待ちしておりますよぅ!」



 とセシャトが演技をすると、母子は華が咲くように笑顔になり、スマートフォンを強盗から返してもらうと、子供も強盗に手を振る。

 それに強盗も手を振り返し、セシャトに聞いた。



「なんでこんな事を?」

「どうも貴方が悪い人には思えなかったからです。ですが、この後。どうすべきかは貴方にお任せしますね」

「俺は……いいや、なんだかアンタに教えてもらった話を聞いて、自暴自棄になるのが馬鹿中しくなった。警察に行ってくるよ」

「沢山お灸をすえてもらってきてください!」



 深々と頭を下げて強盗の男は個展を後にした。

『コルシカの修復家 著・さかな』

恐らくはご存知の方も大勢いらっしゃるでしょうね! そうです。今月は一か月間、本作を御紹介していこうと思いますよぅ! さてさて、私も趣味で油絵を美術館に見に行くのが好きなんですが、本作の内容密度の高さは一つのキャンパスのようですね^^

ではではまだ読まれていない方はじっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか?

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