第九話 『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』
今年も残すところあと数日です。皆さん、長いお正月休みになりますが、あんまりはしゃぎすぎて病気や怪我なんてしないでくださいねぇ! 少しだけ落ち着いて長いお休みを楽しみましょう^^
私もお餅の食べ過ぎで太らないようにしないといけませんねぇ^^
ようやく平賀源内の展示展に戻ってきたセシャト達。チケットを購入して、列に並ぶ。そんな中で総司が心底嫌そうな顔をしてからセシャトに聞いた。
「のぉ、セシャトよ。平賀源内は最後どうなるのだ?」
セシャトは神様にWeb小説の世界の人に深く関わってはいけないとそう言われてきたが、過去の人や未来の人に何かを教えてはいけないとは言われていない。そしてセシャト達、現在人からすれば、歴史上の話は実際事実かは分からないのだ。
「確か平賀源内さんは、誰かを殺して投獄されてしまうんです。そして獄中死だったのではないかと思います」
それを聞いて総司は実に嬉しそうにそうかそうかと笑う。
「あやつは、そんな死に方をしそうだの。頭の方はよう回るが、その分頭がどうもおかしかったらしいからの、あやつは色んな所に狙われておったから暗殺でもされたかと思ったわ」
ケケケと笑う。土方も苦笑しているので、平賀源内という人物は相当アレな感じだったんだなとセシャトは日本における発明王に関して大きく先入観を更新した。
「源内は、何度も命狙われていたと聞くよね。玄白と飲みに行っていた時とかもそうだったんじゃないかな? あの男、剣もそこそこ立つから殺しが難しかったみたいだけど」
そんな話をしながら行列を並んでいるので、セシャトも二人に面白い話をしようかと、一つの作品を選んだ。
「ふふふのふ! では、暗殺者とは少し違いますが、殺し屋さんのお話をさせていただこうかと思います!」
「待ってました! セシャトさんの新しいお話ですね」
聞く気満々の土方に対して総司はまたセシャトの話かと興味がなさそうにする。そんな総司もしっかり聞いているので、ゆっくりと列が進む中。セシャトはその作品のタイトルを話した。
『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』
「星空が綺麗な街ですか? 星空なんてどこでも同じでは?」
嗚呼、セシャトは時代だなぁとしみじみ思う。
「土方さんも総司さんも先日お気づきになられたかと思いますが、今の時代の日本は電気という人が作った光で満たされています。するとどうでしょう? もう夜に星が綺麗には見えなかったと思います。ですので、星空が綺麗な街は珍しいんですよ」
おぉ成程なと総司が理解する。セシャトはこの天稟、沖田総司と言われている彼は、単純に頭がよかったのだなとセシャトは新しい側面を知る。それ故にセシャトは分かってしまった。沖田総司は剣が強いのではない、上手かったのだろう。セシャトが与えたかっぱえびせんを美味しそうに食べている彼からは刀を振るっている姿は想像できないが……
「いじめられていた和子ちゃんは、殺しを生業にしている東雲さんと出会うんです。そして殺しの技を教わります。それを殺しに使わず護身と東雲さんの仕事のお手伝いにです」
それを聞いて土方が珍しく否定的な事を言った。
「護身であれば殺しの術より柳生の柔術でも教えてやればよいものを、殺しの技は刀と同じです」
「そうだのぉ、使いとうなる! ただ土方さん。柳生柔術も殺しの技には違いないぞ」
総司も同意見を述べる。和子を救うには他の方法があったんじゃないのか? という事を一応は警察の二人は言う。彼らからすれば女の子という者は完全に守るべく存在であり、戦わせる者ではないという確固たる信念が感じられた。
「この作品にでてくる銃。”てつはう”は坂本のうつけが持っている銃みたいなものかの?」
総司は自分の指で鉄砲の真似をしてみせる。坂本龍馬は懐に入る短銃を持っていた。それに新選組は心底驚かされるのだが……
「そうですね! それも弾も沢山、二十発から三十発は出たそうですよ!」
想像した二人はその危険性を十分に理解した。
「東雲という男を殺そうと思ったら、鎖帷子がいるのぉ……」
「う~ん、総司君。普通に火縄を持ってきた方がいいかもね。俺達じゃあ近づく前にやられちゃうかもしれない」
「はぁ? 私の突きが”てつはう”ごときに遅れを取ると思っているのか? 土方さんの目は節穴か?」
「いや、この東雲。強いよ……俺達は人を殺す事に関して何とも思っていないでしょ? でもこの東雲は人を殺す事があまり好きじゃない。なのに容赦がない。殺しに愛された男だろうね」
嫌そうな顔をする土方に対して、総司は好戦的な目をする。セシャトは考えてみた、今の時代に、効率よく確実な殺しを遂行するオオカミこと東雲咲と幕末の時代に剣戟煌めかせ数多の業の者と死合った沖田総司。
「むむむむむ! 物語としては非常に興味深いですが、私は東雲さんも総司さんも大好きですので共に戦ってほしいですねぇ!」
二人が背中を守りながら何かと戦う姿は中々に興奮する。そうこうする内にあと少しで平賀源内展の入り口まであと少しだ。
「もう少しで見れますねぇ! 楽しみですねぇ! 私はエレキテルが見てみたいですぅ!」
土方はセシャトに出してもらっている『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』をまじまじと見つめる。ゆっくりと読みながらふとセシャトに聞いた。
「和子さんにとって東雲は師匠以上に想い人であるという書き込みはなんとも言えない気持ちになりますねぇ」
さすがは恋の歌を後世に残した剣の鬼、土方歳三は本作のアクションパートよりも和子の淡い気持ちについての方が興味を持っていた。女性のような感性を持っている土方は、あざみと和子の女の子の友情に関しても大きく評価した。
「俺は男ばかりの世界で生きてきましたから、女の子にも女の子の世界をこうして垣間見る事が新鮮ですね」
「土方さんはスケベだからの!」
「違うよ総司くぅ~ん! もう少し物語をしっかり楽しもうよ! 今まで傷ついていた和子さんだから、あざみさんの事を分かってあげられたんだよ? これは近藤さんが俺達の事を分かってくれている事に似てやしないかい?」
総司は腕を組んで考えるような仕草をする。それは本人はもうわかっているのだが、照れ隠しなんだろう。
「まったく、なんだその……まぁそんな事もあったかもしれんのぉ。ただ私は和子なんかと違って弱くない。私を馬鹿にする奴はみーんな斬ってきたんだ」
そこだけは総司は譲れないと言った風で語る。それなので、セシャトはふふふのふと笑いながら補足した。
「沖田さんにとって新選組という場所はなんですか?」
「家に決まっておろう! ついにボケたかセシャト! ボケたのかぁ!」
「いいえ、ですので和子さんにとって東雲さんやあざみさん、そんな裏稼業の人達との交流が新選組なんですよ。そういうとどうでしょうか?」
家。
それは何も自分の血のつながった家族がいる場所ではない。結婚相手であったり、恋人であったり、友人である可能性もある。
自分が帰るべき、また還るべき場所が家なのだ。それに総司は返す言葉が無くなる。頭の回転の速い総司は、いくつかセシャトに反論できる考えが浮かんだが、そのどれも自分がみじめになるという事を理解し……口つぐんだ。
「むぅうう!」
気に入らなくて激怒しそうな自分。それもまたみじめ故、我慢する。そんな総司を見て土方が総司の頭を撫でた。
「総司君、偉いよ! それでいいそれで」
「土方さん! 撫でるな! それが許されるのは赤子までだ! 恥を知れぃ!」
「ごめんごめん」
そんな光景にセシャトも和んでいると突如土方の表情が険しくなり、そして総司が叫んだ。
「セシャト伏せよ!」
「えっ?」
しのごの言わず総司がセシャトの頭を押さえ、腰の刀を抜いた。カン! と金属がこすれる音が聞こえる。
きゃあああ! や、うわぁああと言った声が広がる。どうやら白昼堂々窃盗団らしい。三人組の窃盗団は平賀源内展において一つの源内の作品を盗みに来た。強引にそれを盗んだ後、ピンポイントでセシャトにナイフを投げつけてきた。
「土方さん」
「うん、総司君。俺もどたまに来たよ。セシャトさんを殺そうとしたね。うん、斬り捨てよう」
人々が散り散りに逃げていく中、鬼の目をした土方と総司。そして窃盗団の二人が見合う。
「お二人ともダメですよぅ! この時代では斬り捨ては許されません」
セシャトの言う事を聞かずに飛び出す。総司。
「セシャト、これが和子、ネコが躊躇なく人を殺れる時の姿と知れ」
笑いながら飛び込んでいく総司、窃盗団の一人が手に持ったナイフを総司目掛けて投げつける。それを総司は顔をずらすだけで頬から血を流すが瞬き一つしない。そして抜刀。セシャトは目を瞑ったが、血の花を咲かす事はなかった。
峰内。
一人をあっさりと倒した総司。そしてもう一人の後ろに気づけば土方が……
「セシャトさんに免じて、骨五本で許してやる」
刀を逆向きにして全力で振り下ろした土方、声にならない声を上げて気絶する。斬ってないにしても死んだんじゃないかとセシャトは思ったが、新選組の二人は『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』に出てくる殺し屋達のように気を抜かない。
「三人目……土方さん、あれ」
「あぁ、うん。最悪だ。あいつも来ていたのか……」
三人目の窃盗団は着物を着て、ブーツを履いてへらへらと笑いながら、源内展の作品の一つを持って走り去っていく。
「セシャトさん、追いますよ!」
「あれはクソややこしい奴だのぉ!」
セシャトはあの人物が誰なのかある程度理解してしまった。この人は、ジョン万次郎の大親友。幕末の時代、何かをしたのか? よく分からないけど、この新選組の二人と同じくらい日本人にとって知らない人の方が少ない謎多き偉人。
「もしかしてあの方は!」
「坂本の大うつけだ!」
「坂本龍馬だね」
セシャトはキター!と感動する。サインを貰おうと……そして思い出した。
「すみません、お二人ともサインを頂けますか?」
『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』本日のお話はこちらです! とてもさくさくと読めてしまうアクションと和子さんの淡い気持ちと、少しばかり感じる不安な物語の結末。
本作を呼んでいると、ファントムというアニメ作品を思い出しますねぇ^^ 是非、お正月休みのお楽しみに『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』を読んでみてはいかがでしょうか?