第八話『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』
先日、ふしぎのくにとおべりすくさんで合同クリスマスパーティーをしましたよぅ!
今回は趣向を変えて皆さんの料理を各々に作って食べました! バストさんのポトフから作ったシチューが絶品でした! アヌさんはそのシチューを器にいれてパンとチーズでオーブン焼きを作ってくれました!
私ですか? レアチーズケーキを作りました!
「さて、源内さんの発明品展示会まで少し時間がありますので、寺院や神社を見て回りたいと思いますよぅ! 狐さんの神社に行ってみましょう!」
伏見稲荷大社。
あの有名な鳥居が沢山並んでいるあの神社。そこにつくとセシャトはいなり煎餅を人数分購入すると土方と総司に渡す。
「お稲荷さんは日本では狐ですが実は元の神様は犬なんですよ!」
その話を聞いて土方はメモを取る。そして総司はつまらなさそうな顔をして答えた。
「犬もキツネも対してかわらんであろうが……どっちもキャンキャン煩いしの」
伏見稲荷にてお参りをして、海外の参拝客達が土方と総司の恰好が様になっているので勝手にスマホを向けている。写真に彼らが残るかもしれないが、彼らはこの時代に存在しないのでどうなるんだろうなとセシャトはやや冷や汗を流す。
「おや、巫女さんですねぇ。可愛いですねぇ!」
「総司君。巫女さんは時代を越えて同じなんだねぇ~」
巫女さんといえばとセシャトは思い出す。
「巫女さんとは少し違うのですが、聖女様のお話をここでさせていただきますね!」
『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』
聖女と言う存在は、一般的に神職に関して大きな功績を残した職位を持たれた女性の事を言う。方や、古来の巫女はその仕事が多岐にわたる。舞姫などと言われる事もあり、神楽や託宣を人々や朝廷に納めてきた。昔は職位があったのかもしれないが、今は神職補佐といった役割が大きい。
「さて、そんな女性神職の最高位であらせられるソフィーさんとその従者さんによる完全懲悪物語といったところでしょうか? 本作はお二人にもわかりやすい作品だと思いますよぅ! ではその辺にあるお茶屋さんにでも入りましょう」
セシャトに連れられて一向は随分老舗のお茶屋さんに入った。京都はお茶の有名な産地でもある。
「京都と言えば宇治茶ですねぇ!」
「あら、外国のお嬢さん。日本語うまいねぇ~宇治はお茶発祥の地やからねぇ~!」
「ははっ……そうなんですねぇ~」
セシャトはお茶の産地に行く度に様々な場所でお茶の発祥の地は地元であるというお話を聞いてきた。これらは恐らく下手にこたえると戦争になる奴だとセシャトには分かっていた。
「あの、豆餅を三人前と宇治のお茶をお願いします」
お冷を飲みつつ、一息ついたところでセシャトは話をつづけた。
「レリックというガントレット、手甲をつけて、聖女様であるソフィーさんは無双の強さを誇ります。そもそもの魔法・そうですね。神通力と言えばわかりやすいでしょうか? それをもってして悪を力づくでも良い方に導かれる方なんですよぅ!」
ほぉと土方が話を聞いていると総司は目を瞑ってから答えた。
「そのソフィーとかいう女は仏教徒だの」
残念、『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』の世界に仏教はないし、ソフィーはちゃんとシルフィート教という教会に属している。
されど、総司が言う事も興味を持ったセシャトは尋ねる。
「どういう事でしょうか?」
「仏の顔も三度までという言葉を知っておるか?」
「えぇ、はい。もちろん」
「あれはの? 仏も二回までは悪行を許してくれるという事ではない。三度目になると相手を鬼になっても力づくで善い道、人の道へと連れ戻そうとするという意味だの。頭のいい昔の奴が考えたうんちくだの。ソフィーの行動原理はそれと変わらん。伴天連のような異教の神とは思えんぞ」
基本的に異世界作品やファンタジー作品における教会はキリスト教等がベースになっている。元来の宗教はキリスト教に限らず、自分の宗徒しか救わないという人間に都合の良いルールがある。されど日本国産で作られた作品内の宗教は全ての人を救ってくれるありがたい物なのだ。
「それは恐らく、誰でも救ってくれる日本の新道と、仏教やキリスト教等の複数の宗教観のハイブリットされたものがファンタジー小説の宗教である事が多いからですね!」
その話を聞いて土方が感嘆する。
「凄いものですな。千手観音を崇めるようなそんなものでしょうか?」
「ふふふのふ、人の願いは千の手では受け止められないので万手観音という物も最近作られましたね。この作品においてソフィーさんは殺さずを徹底します! まずここが素晴らしいとこですね」
セシャトのその意見は一般的にはそうなのかもしれないが、日本でも超有名な人斬り集団である新選組の二人相手に言うには少々難しいかもしれない。
「アホウな話だのセシャト。私は仏が愛想を尽かす程人を斬った。だが、私はそれを愚行だと思った事もないしの。まぁ、殺さなくてよいならそれに越したことはないがの、じゃが……このソフィーも鬼畜ではないか」
回復と攻撃を同時に行うという断罪。殺さずを徹底した結果、介錯という事をよく知る土方と総司からすればこれほどまでに酷い拷問はない。
「私のこの時代では仏の顔も三度までというと、三度目は滅茶苦茶怒られるという風に認識されています。どちらかといえば、ソフィーさんはこちらの概念を考えられているでしょう。ですので、怒らせると滅茶苦茶怖いと思いますよぅ!」
「このように可愛らしい女性が、強いというのはなんだか面白いですね。こう、私や総司君が恐れられているのは驚きがないですが」
ここにきて土方はこの使い古されたものを斬新と感じていた。それにセシャトはおかしくなる。
「ソフィーさんだけでないですよ。シルフィート教の従者であるお二人もとーっても強いんですから!」
「こんな尼がおったら面白かったろうの! あの妖怪人斬り侍とどっちが強いかの! のぉ、土方さん?」
「あぁ。あの人ねぇ。絶対会いたくないもんねぇ」
新選組のこの二人をして会いたくないと言わしめる人物。セシャトはどんな人物が出てくるのやらとその名前を尋ねる。
「その方はどなたなんでしょうか?」
「岡田以蔵、あの人は私や総司君の剣に似てるんだよね。出来る限り関わりたくない人だね。ソフィー聖女がいてくれたら真っ先にやっつけて欲しいのが岡田以蔵ですね」
もっとも汚く強い剣を振るう以蔵。方や新選組は警察官である。ソフィーが新選組を断罪する事はないだろうが、以蔵ならあるいはソフィー達巡礼団に断罪される可能性はあるかもしれないとセシャトは余計な事を考えてしまった。
「しかし、この癒しの魔法というのはいいな。これがあれば私は労咳で死ぬ事はないではないか? この魔法も存在せんのか?」
いまだに総司は自分の運命に抗おうとしている。この儚くともいじらしい、そして生きるという事への並々ならぬ熱望。
これは幕末時代の日本人なのかとセシャトは少しばかり神様のような見た目の沖田総司に感動を覚えていた。
「犬のような虎のような嗚呼、これは獅子ですか?」
レオンホーン、幻獣の話とそのイラストを見て土方が頷く。この当時でもライオンという物は認知されていた。異常に巨大な狛犬や獅子舞として実は日本は古くからライオンと付き合って来た。
「ふふふのふ! そうですねぇ。このレオンホーンは手塚治虫さんの百獣大帝に似ていますよね! と言ってもご存じないと思いますので、突然変異で白いライオンという動物は本当に存在します。この物語を書かれている作者さんは、一般的に広く人々の認識域で物語を書かれ、展開する事が非常に上手なんですよ!」
幕末志士の土方歳三をして理解できるのだ。それは言わずもがなと言ったところなのかもしれない……
「珍しい獣を買おうとする輩はおったのぉ? 土方さん。江戸の動物見世物から勝手にのぉ」
「あぁ、いたねぇそんな人。あれ、総司君が斬ったんだっけ?」
セシャトは江戸時代に動物園があった事に驚く、象もライオンも実は庶民から将軍まで楽しんでいた。そしてペケさんの物語で語られるような事件も間違いなく起きていたのだ。
「むぅ、このレアな生き物を取引するという流れはずーっと昔からあったんですねぇ」
そしてそれをソフィーであれば鉄拳制裁なのだが、この幕末の志士達の手にかかれば一刀両断なのだ。
「のぉ、セシャト。こやつらが食べている”ぱん”という物が食べてみたいぞ! 確かこの前の富くじの金子が少し残っておろう?」
聖女巡礼団の食事風景を聞いて総司は彼女等が食べるパンに興味を持つ。干し肉やスープではなく、パン。
セシャトは歴史系のWeb小説知識から情報を思い出す。彼らの時代のパンはオランダから来た蒸しパン。
「沖田さん達の時代では蒸し饅頭等と呼ばれていた食べ物です!」
それを聞いて沖田は「おぉ! アレか」と喜ぶ。が、セシャトは今現代の日本以上に美味しいパンを生み出した国も歴史も存在しないとそう考えていた。
「ふふふのふ! この京都は日本でも有数のパン消費地域です。というか日本一です。そして、アヌさんに教えて頂いたお店がこちらです!」
たまき亭という宇治近郊にあるパン屋さん。そこでセシャトはクロワッサンを人数分購入すると配った。幕末の人間にクロワッサンは味も食感も未知との遭遇だろうとセシャトはふふふのふと笑う。
「これは麩菓子みたいだの」
「いや、胡麻菓子じゃないかい? 総司君」
そういえば似たような食べ物がいっぱいあったなとセシャトは文化の国、日本に少しだけ腹が立った。
「ソフィーさん達は、巡礼の旅。お二人に分かりやすくいえば行脚ですねぇ! 優しい人がごはんをごちそうしてくれるという事も作品のようにあるでしょうが、基本は保存食、糒のような簡素な食事が多くなります。ですから、本作の街でも食事シーン等はお腹が鳴ってしまうくらい楽しいですねぇ! そろそろ開園の時間ですので、戻りましょうか? それにしてもお二人ともいかがでしたか? 『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』」
「いやぁ、実に勉強になる作品でした。私達、殺しをせねばならない侍に対して、殺さずを貫き通す尼僧、このような女子がいれば、もう少し世の中はよくなるでしょうな」
土方がそう笑うと総司は悪い笑顔でこう言った。
「そうなると私達の明日食うコメがなくなろうけどな」
ケケケと笑う沖田総司。各々、楽しみ方は違えど、羨ましいと少し思ったんだろう。殺す事しか知らない二人はソフィーの事を。そしてもう一度、イラストを見て土方が呟く。
「こんな幼子がなぁ~」
何か一句思い浮かんだのか、土方は筆を取り出した。
『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』さて、本作は当方でもずっと楽しませて頂いた作品です!
ペケさんは作品を作るのが非常に上手です。皆の思考域に合わせかつ、それでいて裏切らない作品作りでしょうか? ですので、当方も何かweb小説を読みたいという方には一度ペケさん作品をオススメしています!そんな作品を土方さんと総司さんもお楽しみいただけましたね!