第七話『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
年末の忘年会を皆さんで行います! 『あんくくろす』『おべりすく』さんも東京に来ていただけるので、交通費と宿泊費は『ふしぎのくに』負担ですよぅ! 2年目ですが、沢山の方々の協力で続ける事ができておりますねぇ! 今後もメンバーが増えていくのでしょうか? そして当方としては実在している私達が作品に絡むという事をできる限り続けていきたいと思います^^
一応、総司も成人している事を考えると成人男性二人とセシャトは同じ部屋で寝る事になる。さすがにそれはと、土方が困った。
「セシャトさん、私と総司君は部屋の外で寝るから、セシャトさんはここでゆっくりとお休みください」
「土方さん、私は外なんぞ嫌だぞっ!」
他の部屋も余っておらず、三人一部屋となったのだが、セシャトは一つだけこの状況に感激していた。
「これは、修学旅行のようですねぇ! 私は構いませんよぅ! 三人で川の字で寝ましょう」
土方、総司、セシャトの三人で並んで布団を引いた。セシャトがいいというので土方はやむなし布団に入る。
「さて、皆さん。修学旅行と言えば恋バナがベターなところですが、折角ですので私達も恋バナというより少し不思議な怪談というと少し、語弊がありそうですがこんなお話はどうでしょか? 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』というお話です!」
少し物語のお話をすると、これは土方だけでなく、総司もセシャトの話に興味を持った。確かに設定が昔話的で今までの作品の中でも幕末志士にも入りやすかったのだろう。総司は風呂に入った後なので今まで椿油でピンピンにセットしていた髪が降り完全に神様の2Pカラーにしか見えない。
「総司さんは好きな動物とかいらっしゃいますか?」
「そうだの! クジラだの。水玉でぷかーと浮いておるのだ! とてもあ奴は憂い」
「だから、総司君。あれはジンベイザメだって言ったじゃないか!」
本当はこの沖田総司は神様なんじゃないかとセシャトは疑いながら話す。クジラという海獣に関して。
「昔は、それらクジラやジンベイザメ、リュウグウノツカイ等を見て、人々はそれら水辺の支配者、龍を信じたそうです」
セシャトの話を聞いて土方が少しばかりがっかりしたような顔をする。
「セシャトさん、龍はもしかして本当はいないのですか?」
「土方さん、馬鹿を言うでない! 龍はおるであろう? 皆見たではないか! あの恐ろしくも凛々しい姿であったではないかぁ!」
セシャトはこれは地雷を踏んでしまったと少しばかり困る。この二人は、偶然ここにいるというだけで、本来は江戸末期の維新志士。彼らはこの令和の世界の事を知りすぎる必要はない。まだまだその存在が否定されない時代の人間なのだ。
「えーっと、そんな事より物語についてお話しましょう! お二人はどう思いますか?」
「そうですね。この三人、私と近藤さんと総司君の関係みたいですね!」
香彩、竜紅人、療の事を言っているのだろう。さて、そう言われるとセシャトも気になってしかたがない。
沖田総司は間違いなく香彩だろう。であれば、土方と近藤はどちらだろうか? 近藤の写真を見た事があるが、セシャトはそのどちらとも似ていないと思う……が、今セシャトが前にしている土方歳三もまた史実で残っている写真とは似ていない。写真を撮った時と時代が違うからか?
「鬼の副長ですし、療は土方さんでしょうか?」
「そうですかね? やはり、女のような容姿の近藤さんが竜紅人といったところですか……」
「は?」
セシャトの目が点になる。近藤勇といえば、どーんと構えている山男のようで、自分の拳が口に入るというような逸話が残る。美形と呼ぶには少々……
「確か、私の詩集帳面の中に」
土方が布団から出ると自分の詩集を取り出してその写真を見せてくれる。そこには三人の剣士が洋服の方の新選組制服を着て写っている写真。土方とちんちくりんな沖田総司、そして明らかに近藤勇とはいいがたい美女が男装しているようにしか見えない。二人の姉のようなその人こそ……
「竜紅人さん、もとい近藤さんなのですねぇ! 事実は小説より奇なりです。こういうトリオ物を主人公に配置した作品というのは非常に多いです! 例えば三太郎。桃太郎、金太郎、浦島太郎の三人を主軸においた創作等は昔から書かれておりますし、AUのCMでも人気を博しています……が、ご存じないですよね。香彩さん、竜紅人さん、療さんは各々違った種族です。お分かりでしょうか? 彼らは」
「同じ時間にいながら、違う時間を生きておる。とセシャトは言いたいのであろ?」
寝巻として着ている浴衣が大きすぎてダブダブになっている総司も起き上がって布団の上であぐらをかく。
「あら、仰る通りです。彼らは仲良しですし、お互いを尊重しあうような中ですが、彼らの中にあるルール感や、時間の流れのような物は異なっております。特に人間である香彩さんはそれを強く感じているのかもしれませんね。人間でありながら、とても非常に強いお力を持ってしまっておりますし」
「そうだの。そして、療。強すぎる力の危険性を考えさせられるの……土方さんも気をつけんとな?」
沖田総司がもう既にお腹を空かせているので、セシャトは少しだけですよぅ! とヨーグルトキャラメルを差し出すのでそれを総司は食べる。
「おぉ! 餅みたいだの!」
そんな総司を見ながら土方は自らポットのお湯を使いお茶を淹れる。そしてそれを一飲み。京都観光中に飲んだお茶がよほど美味しかったのか、あまり美味しいという顔をせずに語る。
「竜紅人が主人公という事で良いのでしょうが、三者三葉。視点の移り変わりが私は好きですなぁ。うん、こんな物語は読んだ事がない。一つの物語の中に沢山の物語があり、人生がある。驚きました」
ふぅと感慨にふけっている土方。これは好みの映画等を見て余韻に浸るその間隔に似ている。それは何処か世界観が似ているという事もあったのだろう。
「本作は、お二人の生きる時代、あるいはそれより少し昔の時代かもしれません。そこと、中国、お二人の時代ですと”清”の時代の世界観が混ざったようなお話となります。これを和風中華ファンタジー、あるいは中華和風ファンタジーと言います。違いは色々とありますが、どちらの色を濃くするかという点で左右される事が多いです!」
「ほぉ! 世界観を混ぜるというのは、斬新だ!」
「そうか? 桃太郎なんてまさにセシャトの言う和風中華ファンタジーではないか」
おや? セシャトは総司のその話に耳を傾ける。総司は語る。日本書記に書かれた黄泉の国より届けられた桃。その黄泉の国というのが……
「クソ遠い清という国であろ? でその桃を使った物語が作られたわけだの。桃は何処から流れてきた? それ食ったらすげー強くなった爺と婆が作ったガキが桃太郎。要するに、和と清の混血児の事であろう」
一般的に血が混じると生物的に強くなる。それを物語った話であると総司は語る。まさか、本作を話していて桃太郎の新しい解釈が出てくるとは思いもしなかった。
「だから、私は邪道だと言われるかもしれんがの、どうもこの作品からは色を感じよるの、物語というより、そうだの作品にもあるが春画のような少し変な感じだ」
セシャトは涙腺が緩む。物語から作品のストーリやジャンルに関する感想ではなく、全く違う芸術的評価を総司は語った。
「素晴らしい感想ですね沖田さん」
「そうであろ? 何かもう少し茶菓子が食べとうなったぞセシャト!」
さすがに売店も開いていないのでセシャトは先ほどのヨーグルトキャラメルを総司に箱ごと差し出した。
「もう総司君、少しは遠慮しないとぉ」
「いいんですよ! でも食べ過ぎてお腹壊さないでくださいね!」
「私は生のドジョウを食べても腹をくださんから問題ない」
布団の隣に置いてある本物の日本刀が彼らが幕末志士であるという事を物語っているのだが、お菓子を食べて夜更かししているこの状況をセシャトは修学旅行気分を感じていた。
「竜紅人殿は、立派な竜になられたと聞きましたが、その龍よりも魔妖の王。叶という方の力は大きな物なんですね」
龍、それは畏れの象徴であり、力の象徴でもある。日本人の多くは神と同意するような存在であると考えていると思われる。
そしてそれは時代を越えて伝わってきた考え方であろう。
「土方さん、だからですよ。そんな成人した龍である竜紅人さんでもまた並びたてない魔妖の王が叶さんなんです。神話の時代。土方さん達よりもずーっと過去の時代には本当に龍のような生き物がいました」
「それは誠ですか?」
「えぇ!」
そう言ってセシャトは恐竜の骨の写真を見せた。人との対比された大きさを見て土方は絶句する。
「これは、龍ではないですか!」
「スーパーサウルスと言われている恐竜、平たく言えばトカゲです」
「なんと!」
「この恐竜がいたから、恐らくドラゴンや龍という存在がいたのは遥か昔から、そう言った生き物が伝えられ、そして物語として生み出され、土方さん達の時代も私達の時代も伝わったんですよ。ですから、日本における物語で妖怪物は外さないと言われているんです」
それを聞いて土方は布団にゴロンと倒れる。そして目を瞑りながら語る。自らが新選組鬼の副長と言われる所以。
「セシャトさん、私が鬼と言われるのもまた古来から伝わってきた事なんですね」
「えぇ、世界的には鬼という言葉と存在はあまりいいイメージはありません」
それに土方は苦笑する。自らも忌み嫌われた者であるという自覚があるのだ。
「本作も、人間と鬼と竜、そして天妖と存在し、ある種、種族間の問題にかんするお話も展開していくのですが……本作でも鬼の扱いを聞いてどう思いましたか? 鬼とは日本では、畏れる者でありながら、何処か憧れる存在でもあります。私達の時代では鬼とは凄いという意味合いをもっていたりするんですよ! そして、土方さん。いいえ、新選組は私達の時代では憧れる人々です」
いい感じでジーンと土方がしている中、眠たそうな総司がセシャトのスマホを見て指を指す。
「こやつ、前に隊の連中と見たよのぉ!」
「あぁ、うんそうだね」
そう土方も肯定する生物は、プレシオサウルス。二億年程前に絶滅したハズの生物である。それをあまり興味なさそうに欠伸をして眠る総司、そして眠りの世界に旅立っていく土方を見て、セシャトだけがつい最近まで恐竜がいたかもしれないという興奮に寝付けなくなった。
『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』本作は紹介当初からよくご質問やご感想を頂いておりました。とってもWeb小説らしい作品です。どちらかといえば全年齢向きでやや女の子趣向が強いでしょうか? 去年は同じジャンルの男の子趣向が強い作品を選ばせて頂きました。結論として和風中華ファンタジーの楽しさは中々時代を選ばないという事ですよぅ!