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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
最終章 『セシャトのWeb小説文庫2019』
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第五話『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』

古書店『ふしぎのくに』で不定期にお茶会を開いているのですが、作中同様トトさんが持ってきてくださる紅茶が非常に美味しくて私もとっておきの珈琲豆を用意するのですが、少しここで困った事が起きました。

もしかすると化石燃料の枯渇よりも早くコーヒー豆の供給が世界で止まる可能性がありますねぇ。

よく考えると当方『ふしぎのくに』『おべりすく』さん『あんくくろす』さん『文芸部』さん。そしてブログ担当さんと皆さん、会えば何杯も珈琲を飲む程の嗜好品好き達です。

私のとっておきダークローストが全然入荷されないのでお伺いしたところ、そういった背景があったそうですよぅ!

「いらっしゃいませ……新選組の衣装なんて、よっぽど京都が好きなんやねぇ!」



 老舗の宿に入るやいなや女将はそう言って味の間なる部屋へセシャト達を招いた。女性であるセシャトは別の部屋を取るつもりだったのだが、この観光地、もう部屋が空いておらず三人で一つの大部屋を借りる事ととなる。



「セシャトさん、すみません」



 土方が平謝りすので、セシャトは手を前に出して微笑む。



「ふふふのふ、大丈夫ですよぅ! むしろ修学旅行のようでわくわくします」

「そう言ってもらえてよかったです。どうせ明日までやる事もないので、今日はお話を沢山聞かせて頂ければ」



 本当に土方歳三という男はWeb小説が好きな事にセシャトは心底嬉しくなる。部屋にある茶菓子を総司がパクパクと食べながら彼もまたセシャトの話を待った。



「皆さんは人魚姫ってお話御存じでしょうか?」



 知らないという顔をする二人。

 実はこの物語が生まれたのは彼ら幕末の剣士達と時期がかぶる。簡単な概要を説明すると土方は泣きそうに、総司はつまらなさそうに鼻をほじっていた。



「では、この物語の各種設定をベースに、今のライトノベルや流行を足して作られた作品について語りたいと思いますよぅ! 『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』」



 このタイトル、土方に刺さった。



「愛した人を殺す……実に深いですね」

「そうか? 殺らなければ殺られる状態ならしかたなかろう? まぁ私は誰かを愛する前に死んでしもうたらしいがの」



 セシャトは喉の奥から声が出そうになるのを抑えて、我慢した。この沖田総司という男こそ、悲恋の物語を現実に持っている。



「……そうですねぇ」

「別に暗くしたいわけではないっ! 私はこの世界で私の病を治す方法を見つける。さっさと話せぃ!」

「こら、総司君」



 ポカンと土方に叩かれる総司は「何をするっ! 土方さん!」と涙目でわめく。その騒動が収まったらセシャトはゆっくりと話はじめた。

 海賊王子ラムズについて、呪いを受けた人魚の種族メアリについて、そしてその不思議で面白くかつ残酷な世界について。



「しかし、金品宝石に目がないとは、なんともアレな感じですね」



 と土方が。



「うむ、大体私達が斬って来た連中もそんな奴が多かったの」



 と総司が。

 ここは時代による考え方の違いなのかもしれない。宝石好きイコール、悪い奴みたいなイメージを持っている。だが一つ違う点を土方が話した。



「その宝石に狂っている面を除けば、ラムズという男。近藤さんみたいではありますね。近藤さんは隊士を一番大事にしてくれます。ですが、嘘偽りがあれば身内でも強く罰し、時には斬り伏せる事もありました。鬼の局長だなんて言われていましたから」



 セシャト達現代ではこの土方こそ鬼の副長と恐れられていたのだが、どこかで伝わる事がゆがんだのか、真実を聞くと面白くなる。近藤勇とラムズが似ている。

 それは考え方や性格面という事なのだろう。



「そう言われてみれば、お二人も愛殺に出てくるキャラクターに何か似ているかもしれませんね!」



 とは言え総司は完全に神様にしか見えないのだが……それを聞いて土方が手をポンと叩く。



「なぁるほど。この作品、いろいろな物の怪、種族。人種が出てきますからね。新選組も旗本、荒くれ者、そして俺たち田舎道場の出、色んな面々で構成されていますからね。きっとラムズの船に俺たちも乗って冒険をしたらさぞかし楽しかっただろうな」



 ラムズとラムズの船や船員が本当にいるかのように夢想する土方。Web小説の楽しみ方、ここに極まれりと言ったところだろう。



「まぁ、私は冒険はともかく強い奴と死合ってはみたいがのっ。ラムズ・シャークも悪くないし、そのクラーケンとかいう化物でも構わん」



 そう言ってケケケと自慢の愛刀に触れる。それをセシャトは司馬遼太郎の小説を読んで知っていた。名だたる名刀。菊一文字。



「それが菊一文字則宗なんですねぇ!」



 セシャトのその言葉を前に、土方と総司がぽかーんとした顔を見せる。嗚呼、この歴史的認識も間違っていたんだなとセシャトは分かった。



「こやつは二十五文のなまくらよ。ただ、私が振るい血を数多吸わせた妖刀だのぉ。貴様、そんな大技物を帯刀しとる奴などおらんぞ。刀なんてものは斬れればそれでよい特に、私達天然理心流は喧嘩殺法。相手を殺せればそれでよいからの」



 嗚呼、聞きたくなかった。美剣士の沖田と言えば三段突きが有名だが、天然理心流は剣術というより戦術を教えている。生き残る為の剣なのだろう。

 そういう意味での土方と沖田の強さをセシャトは知った。彼らは剣士ではなく、軍人としての技能を持っているのだ。



「お二人は、ラムズさんの世界における拷問などはどうお考えですか?」



 それを聞いて土方が答える前に総司は言った。



「まぁ、好かれ悪かれ普通だの。海の上なら塩水でも飲ませる方がよっぽどえげつないがの」



 ヘカと同じ事を言ってのける総司、彼らも拷問等はお手の物。実のところ彼らは愛殺の世界観に素でやっていける。



「愛を知らない種族がいるというのは悲しいですね。いや、伝わり方が違うだけなのでしょうが、メアリは他の種族の中では私達に近い感性を持っているようですから、たまりませんね」



 たまらないというのはどっちの意味なのか、可哀そうだという事なのか、作品が面白いという意味なのか、恐らくはどちらもなのかもしれない。

 そこでセシャトはこの作品の面白い点を一つ土方に教えてみた。



「この作品ですが、作者さんが作品を書いたというわけじゃない設定が使われています。何処か遠いの国の誰かが記した物語を私達が読めるように日本語に訳したという感じですね」



 このギミックは面白いがあまり誰も深くは考えていなかった。そんな中、インスタントのほうじ茶を飲み「不味い茶だのぉ!」と驚いている神様、もとい総司が語った。



「この世界にセシャト。貴様と同じ世界から来た者がおろう? そやつが記した物語なんじゃないのかの?」



 本作には現実世界からの転生者。川戸怜苑という存在がいる。リアルとWeb小説を繋ぐには面白いギミックではあるが……



「もし、そうなのであれば恐らく日本語で書かれているでしょうね。翻訳する必要がありません」



 確かにという顔をする総司に対して、土方が少し長考した後に話し出した。



「だとすれば、作者が川戸怜苑なのか、別に第三者が記したこの物語を川戸怜苑が作者に話してそれを作者が文字に起こしたとすれば、辻褄が合いませんか?」



 土方の推理、それはそこまで考えてはいけないというレベルの事だったが、セシャトとしては中々にクールでパンチの効いた考えだなとそう思った。

 川戸怜苑は無能ではない。されど有能でもない。そんな彼が文章として文字を起こすのは中々に難易度が高いだろうし、それを口伝翻訳したという流れであれば確かに面白い。

 そして映える。



「ふふふのふ、案外最後の最後には作者さんらしき方が登場して執筆エンドというのもあるかもしれませんね。ラムズさんやメアリさん達が最後にどうなったのか……そこが分からないまま」



 セシャトはここで同化した。土方の話す物語を、幕末の創作家土方歳三の言う情景を夢想した。



「そして、少しだけ彼らの生末が分かる描写があると大変胸が熱くなりますね」



 言われてしまった。

 この土方、剣に生き。剣に死ぬ宿命にあるには酷く勿体ない、生まれる時代、否。何か物語を紡いでくれていれば万人に愛された何かを残したかもしれない。

 彼の作品と言えばいつくかの詩を残しただけに至る。



「まぁ、私は二人のような感動は覚えんが、物語というのはおしまいおしまいがあって初めて完成するものであろう? そんなどうなったか分からんようなもやもやするのは好かんがの」



 ついには食べる物と飲む物もなくなった総司は自身曰くなまくら刀のメンテナンスをしながらそう言った。

 それに土方がやれやれと言った顔をする。



「もう、総司君は浪漫の分からない子だなぁ、そういうのがいいんじゃないか? 胸がドキドキして眠れなくなるような」

「眠れなくなったら困るであろうが! だが、自分の呪いを愛する者を殺す事で解けるというのであれば私も斬るかもしれんの。局長や土方さんをの」



 自分の刀を見ながら総司はそう言うと突然その刀を土方に向ける。

 ガチン! 火花が一瞬散った。

 土方は小さな脇差の切っ先で総司の剣を受け止める。そして、その瞳には鬼が宿っていた。



「見事、見事だのぉ! 土方さん」

「総司君、何のつもり?」

「セシャト達の世界の史実だと私は死ぬかもしれん。ここに来ても食い物は美味いがそれだけだ。なら、ここにいる私が最強と認めた化物と死合って逝くのも悪くない……とな?」



 総司の表情も変わる。ヘラヘラと楽しそうに、それに土方が聞く。



「総司君は愛する者を殺せるのかい?」

「殺せるの」



 それに土方は涙した。それは悲しいのではない。うれし泣き。そして土方がこう語った。



「総司君に斬られて死ぬのも悪くはないね。でも今じゃない、違うかい?」



 土方に真っ直ぐ見られて総司は目をそらす。単純に総司は土方に弱いのだろう。幕末において心は聖人剣は鬼の土方、天性の才能を持ちながら運命に愛されなかった。平たく言えば持っていなかった沖田総司。

 彼らは共に愛する人を殺し、殺される事を望んでいたのかもしれない。

 そんな空気の中、セシャトもさすがに声をかけられないでいると、空気を読まない女将が登場した。



「はいごめんくださいねぇ! お夕餉ですよぅ!」



 御櫃に、沢山の料理が乗った膳を持って来たそれを見て臨戦態勢だった総司は目を輝かせる。



「おぉ、飯か!」



 愛する人を殺します? いいえ、夕ご飯を食べます。

『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』さてさて、新選組のお二人がこの作品内に入られてもあまり違和感はないかもしれませんね。優しい土方さんとワガママな総司さん。まさかまさかの異世界ファンタージを楽しまれ、翌日に続く物語へと。

 何処か洋画のような物語『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』一度楽しんでみませんか?

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