第二話 『コルシカの修復家 著・さかな』
寒かったり暖かったり、今年の冬は暖冬ですねぇ^^
暖冬は寒暖差が激しいので、体調には皆さん気を付けてくださいねぇ!
「もぐもぐ、これ美味いなぁ~! おかわり」
湯豆腐をお替りする総司君と呼ばれた神様みたいな少年。六丁程の豆腐を平らげてまだ食べようとするので土方が注意する。
「総司君、元気に食べるのはいいけどセシャトさんに少しは遠慮しないと……」
「はぁ? そもそもこのセシャトという女が御馳走してくれると言うから食べてるんだろうがが? 土方さんはばっかですか?」
「総司君、兄弟子にそれはないと思うよ? 新選組隊士の中でも総司君の口の利き方に怒ってる人いるんだからね」
鍋に入っている豆腐を飲み込むように総司は食べるとつまようじで歯の掃除をしてから言う。
「弱いから悪いのであろう? 土方さんは滅茶苦茶強い。だから私もそれなりには認めてるんだ。それに私は元の世界に戻るつもりは、ない!」
総司がそう言うので困り果てたような顔をする土方。セシャトは困っている土方を見て、頷くと総司に話を聞いた。
「総司さんは、何故元の世界に戻りたくないんですか?」
「これだっ!」
新選組の事が事細やかに記載された大全。その沖田総司の項目を開いて総司は何とも言えない表情を向けていた。
「労咳で死ぬのはヤダい!」
沖田総司は若くして結核で命を落とす。その運命に総司は抗いたいのだろう。それに関してはセシャトも何とも言い難い。
「そうですね。沖田総司さんと言えば、新選組でもナンバー1の人気を誇る隊士さんです。結核で若くしてお亡くなりなり、そして美形の剣士だったと……」
セシャトの語りに総司は段々気分をよくしていく。小さいなりのどこに入るのかという量の豆腐を平らげ、総司は言う。
「まぁ私の人気は元の京でも今の京でも変わらんという事だの! 私の美人画等即ざに売り切れだったからの!」
「美人画ですか?」
女性を描く時に使われるそれが沖田総司にとはこれ如何に? セシャトがそう考えていると土方が補足した。
「総司君は、男に人気があったから美人画が沢山書かれてるんですよ」
なるほど、当時もBLは多かったとセシャトも聞いた事があった。そんな話をしていてセシャトは思いだした作品があった。
「一体、総司さんの美人画はどのくらいのエネルギーになるんでしょうね?」
セシャトの言葉を聞いて、土方と総司が真剣な顔をする。あら? とセシャトは思うと土方が話し出した。
「それは『えれきてる』のことですか?」
電気という意味ではそうだろう。セシャトが頷くと総司は今までの少しアホの子から剣士の顔に変わった。
「セシャト、その話詳しく聞かせろ」
小さな脇差をセシャトの首元に向ける総司、セシャトは少し驚くも、物語に興味を持ってくれている事に嬉しくなる。
「『コルシカの修復家 著・さかな』という作品になります。この作品は絵が電気エネルギーになる世界で、その絵を修復するお仕事をするルカさん、そして絵の声が聞こえる不思議な少女ニノンさんとのなんだか懐かしさを覚える冒険小説となります」
セシャトが話を語ると、最初こそ殺気をまき散らしていた土方と総司だったが、セシャトの語る『コルシカの修復家 著・さかな』の物語が実に面白い事に夢中になっていた。
「セシャトさん、その自分は学がないから分からないんですが、どうやって絵がえれきてるになるんでしょうか?」
それは今のところ、誰にも分からない事である。されど、セシャトは鼻に手を当ててからふふふのふと笑う。
「例えば、総司さんがお持ちの小刀。それを作った方の一生懸命な想いや技術が私達の分からない領域でエネルギーに還元されているんじゃないでしょうか?」
セシャトが良い顔でそう言うと、総司は脇差をセシャトに見せてから言う。
「これはただの大根包丁だ。たわけめ」
それが包丁だったとしてもどう見ても今同じ物を購入しようと思うと相当、高価な刃物のように思えるそれ。総司達の中では安物なんだろう。
「では、お二人が腰に差している日本刀、それらなんかはどうでしょう?」
土方と総司が顔を見合わせて気まずそうな顔をする。次は一体なんだとセシャトは二人の言葉を待つと、聞きたくない事を知ってしまう事になる。
「まぁ、あれだの。私も土方さんも貧乏侍だから、この刀もな……パチもんだ」
所説あるが、名のない近藤一門の刀はこぞってまがい物だったと言われている。後に入って来る旗本の隊士達への見栄もあったんだろう。今やそんな見栄なんて不要の世界に来た事で総司はセシャトにそれをバラした。
「むむむむ! それは聞きたくないお話でしたね! では、お二人の夢、新選組はどうでしょうか? それらの想いは力、即ちエネルギーにたるものだとは思いませんか?」
セシャトの話を、少し考えるように聞く二人。土方はその話を聞いては筆を取り出して何かをメモる。
「ルカさんと、ニノンさん。そのお二人はいずこに? 一度お会いしこの眼でエレキテルになる瞬間を拝んでみたいのですが」
「それは無理ですね! このお話は、作り話。物語です。あるいは、私達のこの時代よりももっと先の未来です」
未来、その言葉を聞いて、二人は『コルシカの修復家 著・さかな』の世界を夢想する。幕末志士が思う未来というものはどんな物かセシャトも気になったが、そこを聞くのは野暮かなと二人空想にふけっているのを愉しそうに見つめる。
「なんと面白い。異国の話、正直御法度ですがここは異世界……いえ未来か、こんな世界があっても良いかもしれませんね」
土方は瞼を開けない。その閉じた瞳はきっと場所も知らないハズのコルシカ島を見ているのだろう。
「ベニスの仮面とかいう謀反者なんぞ全員切り捨てればいいのにの」
そう言って総司は刀を抜く振りをする。セシャトはここで少し分かった。土方は芸術的センスを持っているが、総司はそうでもない。少し難しい話は苦手なんだろう。
だが、総司は葛切り餅を美味そうに食べながら語る。
「平賀源内も、このえーいーぴーとかいう物を使ってあのカラクリを作ったんじゃないだろうな!」
セシャトは思いだす。そう、この二人はあの平賀源内の作った道具で時空を超えてこの時代にやってきた。
「そこのところ詳しく聞きたいのですが、どういった道具でお二人はこちらに?」
事実は小説より奇なり、タイムマシンの実態を知る事が出来るとワクワクしているセシャトに対して土方と総司は首をかしげる。
「それが分からないんです。万次郎のうつけが何かをしてまばゆい光を見たと思ったら、既にここにいましたので……ニノンさんが気が付くと森の中にいた……まさにあれですな」
土方はゆずシャーベットを珍しそうに見て、咀嚼。そしてその味をメモする。土方はメモが趣味なんだろうかとセシャトは思っていると少し恥ずかしそうに言う。
「セシャトさん、その……ルカさんが修復しているような絵を見る事はできませんか? どうもお話を聞いていると私達が普段目にする物とは違うようにお見受けします」
京都の美術館に行けばいいのだが、少々距離がある。しかし、この願いは叶えてあげたい。どうしたものかと思って店を出ると、総司が駆けていく。それに土方が驚き追いかける。
「総司君、また迷子になっちゃうよぅ! まってー」
そんな二人をセシャトも追いかける。この二人を単独で行動させてはならない。なんだが、ルカ、アダム、ニノンの三人の気分に浸るセシャト。
彼らの旅は本当に羨ましい。あんな青くて、すっぱくて、切ない気持ちになる旅を一度はしてみたいなと思ったが……
(現実は物語のようにはいきませんねぇ)
鮎の形をしたたい焼きを三つ買ってセシャトは二人を呼ぶ。
「土方さーん、総司さーん。おやつですよぅ!」
それに釣られるのは他でもない。セシャトや古書店『ふしぎのくに』の連中だけで、今やオヤツ以上に興味深い物がそこら中にあるので総司は止まらない。
「ひぃ! お二人とも足早すぎですよぅ」
草履で人はこんなにも速く走れるのかとセシャトは肩で息をしながら追いかける。すると二人がある場所で立ち止まっているのでようやく追いついた。
「もう、待ってくださいよぅ! 一体何を……」
二人が立ち止まって見ていたのは、個人のギャラリーだった。京都はそう言った場所が色んな所に点々としている。
時間貸しのギャラリーに、何人かで1日借りておのおのの作品を展示していたのだろう。そんな展示品の中で一枚のイラストが二人の目を釘付けにしていた。
それは、それは、いやに男前に描かれた。新選組局長。近藤勇その人だった。それを描いたであろう女の子は一体何事かと遠くから警戒している。
「セシャトさん……絵画が『えれきてる』に変わる意味……分かり申した」
「この近藤さん、愛を感じるのぉ」
土方と総司がそう言うのでセシャトも今一度その絵を見つめる。描き手の想い、それがセシャトにもほんの少し分かったような気がした。
「成程、ルカさんは、その方の想いを復元していたんですね……なら、その声を聴けるニノンさんは鑑定士さんでしょうか?」
何等かの同人イラストを前にして感動している二人を見ながら、セシャトは本来、ルカが思い描くような芸術の在り方を体現しているのが今の時代なのかなと、巨大なBLイラストを前にして微動だにしない土方と総司に声をかけにくいなとセシャトは思いながら鮎の形をしたたい焼きを齧った。
「あっ、これ美味しいです!」
今回は『コルシカの修復家 箸・さかな』を土方さんと総司さんにお伝えしました。絵画なんて恐らく殆ど見た事がないお二人ですが、楽しんでいただけたようですねぇ! 幕末を生きた彼らと、今を生きている方々とでは恐らく感じ方が違うでしょう! 今一度、もし読まれていないのであれば是非『コルシカの修復家 箸・さかな』を読んでみてくださいね!




