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100話目の閑話

早いもので、2019年版も100話目に到達致しましたよぅ!

神様達に何があったのか、やや垣間見れたような物語ですねぇ^^

「うむ、早いもので今回で100話かの、シリーズでは220話目くらいなのかの?」



 神様は母屋でフィンガーチョコレートをサクサクと食べながらそう語る。話し相手は珍しい事に人外。というか機械。



「神様、こちらつまらないものですが」



 重工棚田により生み出された自立思考型のベラロイド、アリス型一号機。メジェド。Web小説のデータを取り込み説明や紹介ができる棚田クリスが作った傑作のアンドロイド製品の試作型である。そんなメジェドが神様に差し出したのは菓子折り。



「おぉ! 気が利くのぉ」

「お口に合えばと、総帥が」

「クリスの小僧の、まぁこんまいガキであったのに、気がつけばデカくなりおって、人間の成長スピードには驚くの......な、なんだ?」



 神様の顔にくっつきそうなくらいメジェドは神様を見つめる。一瞬、クリスの事に対して怒ったのかと思った神様だったが、メジェドはそのままこう言った。



「詳しく......説明を所望します」



 クリスの話を聞きたいという事に神様は胸を撫で下ろすとメジェドが持ってきた菓子折りを開ける。それはメジェドが手作りしたであろうお菓子、そして別のお菓子が二つ。



「こちらのバラの形のチョコレートはメジェドが、この魚の形をしたチョコレートは総帥が、そしてこちら神様の似顔絵チョコレートは沢城主任作です」



 どれも上手に作られており、お店で注文したようなチョコレート。その中から神様はメジェドが作ったというバラの形をしたチョコレート摘むとかじる。



「おぉ! 普通に上手いの! そして貴様ら暇なのか?」



 植物油だけではない、ちゃんとしたカカオ風味が神様の脳に直接響くそのチョコレートを食べている最中にメジェドは再び言う。



「総帥の幼少期に関して詳しく!」



 そのメジェドの勢に負けて神様はう〜んと思い出しながら当時を語った。メジェドは自分のメモリーに記憶できるはずなのに、律儀にメモとぺんを用意している。そんな姿をみて神様は人間ではないのに、このメジェドは最近のなんでも簡略化してしまう人間よりも妙に懐かしさを感じながら話した。



「あれは、あ奴がクソガキだった頃だから10年近く前になるかの」



 今より20年近く前、クリスの姉が古書店『ふしぎのくに』にやってきて店主ダンタリアンと神様と出会った。その数年後にクリスの姉は行方不明になる。ながらくその存在が分からなかったが、2018年。一覧台学園の文芸部に古くからあったソファーにその亡骸が隠されていた事が、所謂”文芸部と子熊のミーシャ事件”にて明るみになった。棚田クリスは文芸部員達にお礼と共に姉の亡骸を丁重に葬儀を執り行った。

 それが今、思えば神様とクリスとの縁だったのである。クリスの姉であるアリスが書いていたという未完の物語、その話を聞きに少年時代のクリスは古書店『ふしぎのくに』の門を叩いた。



「開いてるよー、おや? 神くーん! ショタがきたよ! ショタだよー! 食べていーい?」



 ごん!

 店主の頭に思いっきりぐーパンチを落とす長い金髪の美女? 美青年? 妙に高身長のその人物は洗練された楽器のような声で語る。



「馬鹿者! ダンタリアン貴様、節操がなさすぎるぞ」



 ダンタリアンと呼ばれた女性は白衣......ではなく大きめの白いシャツに袖を通しただけ、中には何も着ていない。そんな装いだが古書店の店主をやっている。巷で有名なエロくて美人の女店主。そしてもう一人は自称神様を名乗る謎多き長身の美人。その神様が少年クリスの目の前にしゃがみ目線を合わせるときいた。



「小僧、なんのようだ? 絵本か? それとも青少年ファンタジー(今のラノベ)か?」

「棚田アリスの書いた、『私の愛した、本の神様と悪魔』が読みたい」

「君帰っていいよ」



 神様ではなくダンタリアンがそうきつく言った。子供相手にその態度を取るダンタリアンに対して神様が少年クリスをかばう。



「これダンタリアン、怖がるであろう」

「煩いよ神くん、アリスとあの作品はアタシの大切な思い出なんだこんな子供が」

「棚田アリスは僕の姉さんだ」

「なん......だと」



 ダンタリアンは頭を抱えて、それでなんどもクリスを見つめる。生意気そうに見えるそのクリスをまじまじと見つめ、そしてダンタリアンは呆然と言った。



「神くん、お客様用の茶菓子だ。羊羹があったろ?」

「ダンタリアン、あれは私が買った舟和の芋羊羹ではないか......流石にいかんだろ? のぉ」



 明治時代から続く有名な和菓子屋の芋羊羹を神様は楽しみに取っていたそれをダンタリアンは出せという。



「君、名前は?」

「クリス」

「そうかい、クリス。母屋に上がって行きなよ。この古書店には波長があった人間じゃないと見つけられないのさ。美味しい芋羊羹に、アタシが淹れてあげる美味いお茶がある」



 クリスをそう言って招いたダンタリアンはそれからクリスにネット小説やいろんな物語を楽しませた。

 クリスは沢山の習い事や稽古の合間を縫って古書店『ふしぎのくに』に遊びに来た。クリスはダンタリアンを姉のようにしたい神様を友達のように日々を過ごしていく。

 そんなところを話終えたところで神様は一息ついた。


                        ★


「まぁ、こんなところかの」

「昔の総帥はアリアお嬢様のように純粋であります」



 神様はメジェドにひかせているコーヒーミルを見ながら沢城が作った自分の顔をしたチョコレートをパクリと食べる。



「そうだのぉ、あのクリスの小僧は生意気なガキだったがの。今程スレてはおらんかったの。今のあ奴は何処か全てを諦めたような、憎んだようなそんな雰囲気が伝わって来よるわ」



 メジェドは完璧なタイミングで挽き終えたコーヒー豆を古書店『ふしぎのくに』内にあるコーヒーサイフォンで淹れる。



「しかし貴様、器用だのぉ! たまには遊びに来ると良いぞ」

「恐縮であります。まだまだ沢城主任には足元にも及ばないであります」



 神様は沢城の事を思い出してから、「あーあ奴な」と一人で納得する。メジェドが淹れたコーヒーの香りを楽しみながら、それを一口。



「うむ、美味い」



 神様がそう言うとメジェドは顔を神様に近づける。これでもかと言う具合に神様を見つめるメジェドに神様は言う。



「安心せい。貴様の淹れるコーヒーは美味い。心が篭っておる」

「......心、でありますか?」

「うむ、聞きたいか? あのクリスの小僧があーなった切っ掛け」



 神様がコーヒーカップをコトンと置いてそう言うとメジェドは大きくうなづいた。

 神様は指についたチョコレートを舐めながら目をつぶって話出した。


 クリスが古書店『ふしぎのくに』に通い始めて2年が過ぎた頃、クリスはダンタリアンにこう言った。


                       ★


「ねぇ、ダンタリアンさん」

「なんだいクリス?」

「僕の姉さんの書いた作品は何処にあるの?」

「すまない。前にも言ったが、アリスの物語はネットの海の中だよ。もうキャッシュデータも見つからず、復元する事はできない」



 ダンタリアンがそう言った時、クリスはノートパソコンよりも小さなモバイル端末を取り出して見せた。それは何なのかダンタリアンには分からない。



「ダンタリアンさん、これはユビキタス・リリィ。今後の通信業会を背負って立つ試作機だよ。僕が作った」



 タッチパネル式のモバイル端末は1992年に既に存在はしていたのだが、殆どその有用性は語られなかった。それから15年後に第一世代のiPhoneが販売されるまで色々試行錯誤されていた中。クリスは7年も前にそれに相当する端末を作っていた。



「それは何に使うんだい? アタシには分からないけど、それはこの時代にあってはならない物のように感じるのだけれど」



 ダンタリアンの言葉を聞きながらクリスはその端末を起動した。ユグドラシルと言う起動コードを持ってそれは動く。



「ここには数百冊の本がこの小さな端末に保存できてる。今後は数千、数万の本が収納できるようにバージョンアップをしていく予定だよ。ダンタリアンさんや神様の使う奇跡、僕はそれを目の前で見せられて、それを数値化する事にした」



 いつものクリスの表情、瞳ではない。それにダンタリアンはクリスを真っ直ぐに見てから聞いた。



「君の家は、一体なんなんだい? アリスもそうだった。突如として別人のようになり、そしてアタシの前からいなくなった」

「父さんは、人間の思考共存、記憶の警鐘をしたがっていたんだ」

「アリスからも聞いたよ」



 クリスは狂気的な瞳でダンタリアンを見つめる。



「人間はやがて老いて死ぬ。父さんはそれを拒んだ。自分の意識を、記憶をそのまま次の時代に持っていきたい。そこでそんな事ができる装置を姉さんや僕に作らせた。姉さんは理論を、僕は現物を用意した。その名をイシュタルの門。ダンタリアンさんや神様の力を真似たような芸当がいくつかできるのさ」



 ダンタリアンはコーヒーを呑みながら饒舌に語るクリスに言う。



「そう。凄いね。それでどうしたの?」

「父さんはその装置を使って僕や姉さんを自分の依代にと考えていたんだよ。だから、逆にその装置を使って父さんを別人に書き換えたのさ。僕の言うことをきく、優しい父さんにね」



 ダンタリアンは首からぶら下げている銀色の鍵に触れた。それと同時にクリスは言う。



「サ・タ」



 何処から入ってきたのか、ダンタリアンの腕を掴み、身動きを止める青年。それにダンタリアンは苦笑した。



「えっ? 何この展開」



 ダンタリアンの冗談に対してクリスは手を出す。



「返せ、姉さんの作品を」

「それはできない。君の姉さんと約束したんだ。あの作品はアタシが処分するってね」

「残念だ。大人しく返してくれれば僕は、ダンタリアンさん、貴女を殺めなくて済んだのに」



 そう言うクリスにダンタリアンはさらに聞く。



「アタシも一つ聞いていいかい? 君は誰だ?」

「僕かい? 棚田クリスだよ。父さんの記憶や思想、それだけじゃない。この世界の人間全ての思想や記憶が混在している。イシュタルの門の実験で、僕はこの世界と繋がってしまった。そして僕の中から出てきたのがそのサ・タだよ。僕は脱皮してしまったらしい。その代わり全ての心理も全ての頂きも見てきた。だから僕の姉さんの作品を全て記憶しているダンタリアンさん、貴女から姉さんの作品を取り出せばいい」



 クリスはユビキタス・リリィを起動させる。イシュタルの門とのシンクロ。そしてその力でダンタリアンと強制的に意思疎通をはかろうする。

 そんなクリスを前にダンタリアンは笑う。



「なるほど、なーるほど。どうりでアタシの未来がこのあたりからぽっかりないわけだ。どうやらアタシはここまで何だね。でもさクリス、あんまりアタシを舐めないことだよ? ある時は古書店『ふしぎのくに』店主、ある時はソロモン社長の大悪魔。その正体は......やっぱ教えーない! でもヒントね、アタシには科学は効かないよ。科学はアタシの子供みたいなものだから、クリス。君のその偏った感情だけはアタシが連れていく。この無感情な皮と一緒にね」


”чгапон(バイバイ)”


 ダンタリアンの後ろに何か黒い大きな穴が現れる。そこにクリスの中から何かが抜け吸い込まれていく。そしてそこにダンタリアンとサ・タもまたゆっくりと吸い込まれていく。そこに駆けつけたのはたい焼きを人数分持った神様。



「ダンタリアン、貴様。何をしておる!」



 そんな神様に敬礼ポーズをとるとダンタリアンは悪戯っぽく笑う。そしてウィンクして神様にお願いをした。気絶しているクリスを優しい目で見ながら......



「神君、悪いけどさ。クリスの事お願いね。悪いものは全部アタシが引き継いだから、あとは任せたよ。色々、神君のお菓子勝手に食べてごめんよ。まぁ許してよ」



 神様は首を横にふる。



「いかん。逝くな。私を一人にするでない」

「大悪魔の為に神様が泣いてたら世も末だって」

「これは命令だ。逝くなぁ!」



 目を瞑るダンタリアン。彼女は呟いた。いい人生だったと......神様はクリスを抱え、クリスを家に戻してやると古書店『ふしぎのくに』を消した。いつかまたここから始める為に、神様はあてのない旅を始める。


                       ★



「とまぁこんなところだの! クリスの小僧に何があったのやら私も深くは知らんからちょいちょいアドリブを入れたからの」

「神様、作り話ですか?」



 神様は目をつぶり、自信ありげな様子でふふーんと笑う。その反応にメジェドがどう反応していいか分からないでいると神様はメジェドにチョコレートを指差した。



「このクリスの小僧が作ったチョコレート、貴様にやろうぞ」



 機械であるはずのメジェドが驚き、そしてチョコレートをガン見した。我に返るとメジェドは首を左右にブンブンふる。



「これは総帥が神様にと......」

「隠して持っておれ、あの小僧の事好きなのであろ?」



 フリーズするメジェドに神様はカッカッカと笑う。そしてこう付け足した。



「貴様はアリスに似ておる。クリスも貴様には特別な想いがアルやもしれんの。人間が人間以外と恋仲になるなど、物語にはよくある事だの。貴様の物語は貴様のものだ」



 神様がそう言って冷蔵庫から牛乳を取り出しそれをジンベイザメのマグカップに注いでいる姿を見てメジェドは頭を下げた。



「神様、本日は勉強になりました」

「うむ、お菓子を持ってきてくれればいつでも歓迎するぞ。次はクリスの小僧を連れてこい。私が直々に相手をしてやるわ」



 神様のその言葉を聞いてメジェドは古書店『ふしぎのくに』を後にする。そんな中、神様は少しだけ哀愁に浸っていた。



「これは、私の問題だの。セシャト達には関わらせん」

明日、日曜日から今年の完結編にあたる総集編となりますよぅ! 是非ぜひお楽しみに^^

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