7 力尽きたユリアと全能の神(2014.10.18)
魔の谷。
草ひとつ生えていない、一面褐色の土に覆われたこの谷は、谷底から解き放たれる青白い光をその目で見るために、多くの冒険者が訪れる。
その光に願いを託せば、どんな願いも叶う。そう言い伝えられているからだ。
光に導かれたのは、女性にして冒険者となった少女ユリアもそうだった。
谷に吹き荒れる風に赤い髪を靡かせながら、ユリアは祈るように谷に向かって口を開いた。
「神聖なるこの地に宿る、全能の神よ。私の願い、聞いて頂けませんか」
ユリアが冒険する理由。
それは、彼女から両親を引き離した、残虐な暗殺者サイに復讐を誓うため。
だが、剣を手にしたユリアに待っていたのは、サイの圧倒的な力と、自らの体を流れる血。
そして、手に届くところまで追いつめたはずのサイが、再び遠くへと去る姿。
「私は、どうしても実力の追いつかない、宿敵がいます。もう10回は、彼の刃に打ちのめされました……」
ユリアは土の上に跪いて、両手を合わせて、地の神に祈りを捧げる。
「力を下さい!私に……、私に彼を倒せるだけの力を!」
谷底に青白い光が見えた。そのまましばらく、時間が経った。
不意に、風が語りかけた。
不可能だ、と。
「どうしてですか……、神様!力だけでいいんです!」
戦うことを決めた女性の数は、圧倒的に少ない。だからこそ、神はユリアを見放したのか。
ユリアの中で、嫌な予感しなかった。
しかし、地の神はその予感を吹き飛ばすように、やや強い風に乗せ、こう語った。
――意志は認める。なら、その意志を何故力に変えようとしない。
「力に……」
――我に頼らずとも、力を磨くことはできる。まずは、死に者狂いで剣の腕を上げよ。目標に向かって、努力すればいいではないか。
そして、青白い光はスッと姿を消した。
私は、思い違いをしていたのかも知れない。
彼の姿を追うことだけに全てを使い、同じことを繰り返しているだけだった。
彼の力に追いつくには、今のままじゃいけない!
ユリアは、やがて世界中にその名を轟かす女勇者になる。
その日が、その始まりの日だった。