6 さよならギルド(2015.2.7)
「もう冒険者やめろ。君には向いてない」
女剣士スピアに告げられた、ギルドリーダー・ルートの言葉はあまりにも残酷だった。
スピアは肩に力を入れ、ルートをじっと見つめる。
「どうしてですか……」
「俺はもういい加減に、君の言い訳には飽きた。何週も続けて、君はクエストでダメージひとつ与えられなかったじゃないか」
それが現実だった。レベルが低いとされているモンスターを相手に、スピアは必ずと言っていいほど苦戦し、その度にギルドの足を引っ張っていたのだ。
だが、スピアは決して引き下がらない。
「それは認めます。けど、私は……、剣士として成長するためにこのギルドで戦うっていうことになってたはずです」
「それが言い訳って言うんだよ。知ってるか?」
ルートのガードが、クエストで出くわすモンスター以上に堅い。
スピアは、ルートを睨んだまま、しばらく言葉を選ぶ。だが、ルートに先を越されてしまうのだった。
「世間知らずだな。いつまでも言い訳を考えろ。ここにしか居場所がないと言ったところで、俺たちは君を無能な冒険者としか見ないから」
「そんな……」
ルートが、ギルドの他のメンバーに声を掛け、いつものように酒場へと歩き出した。背を向けながら、ルートがこう吐き捨てる。
「もう二度と、俺たちには近寄るなよ」
行ってしまった。
スピアにとって、週に1度集まるギルドが唯一の冒険の場だった。
ルートをはじめ、ギルドの他のメンバーは他にも所属しているギルドがあるらしいが、初心者の女剣士スピアを雇ってくれるギルドは他になく、ルートのギルドもあの条件で何とか入れてもらったのである。
だからこそ、メンバーに追いつくために懸命に剣の修業を重ねたのだが……。
「私、何ができるんだろう……」
力尽きたようにその場に座り込んで、スピアはただ土ばかり見ていた。
この土に混じって、自分も儚く消えていく。そんなように見えた。
「立ち上がりなよ、スピア」
数分後、スピアの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
「えっ……」
スピアはゆっくり立ち上がる。その目の先に、同じギルドだったはずの魔術師ファインが、スピアに優しい笑顔を向けていた。
「俺だよ、俺。さっきまで同じギルドだったんだし、覚えてるだろ」
「ファイン……。でも、どうしてこんなところに……」
「頑張り屋のスピアが、あんなことになるって思うと、かわいそうだから……」
「でも、私は……」
ファインを見つめているはずの目が少しずつ潤んでくることに、スピアは気が付いた。
「スピアは、クエストの間でも、リーダーの見てないところで頑張ってるよ。強くなるために。だからさ、落ち込むなよ!」
「うん……」
ファインの手が、ゆっくりとスピアに伸びていく。
「俺が、必ずスピアの成長を守ってあげるからさ。君はまだ、一人じゃない」
「ありがとう……」
ファインは、あまりにも横暴なルートの態度が気に入らず、自主的にギルドを出たらしい。
そう聞かされたスピアは、こらえていた涙を止められなくなった。
無駄だと思っていたはずのこれまでが、決して無駄ではなく、誰かに認められる。
スピアにとって、大きな前進になった1日だった。