3 勇気と希望のライトニングボルト(2014.5.10)
「一流の魔術師なんて、誰もがなれるようなものじゃなかった……」
カーリェシェルの丘。緑に染まった雑草の上に、一人腰を下ろす青年ジュダイ。力を使い果たした両手を頬に当て、ため息をつく。
今までの俺の努力って何だったのだろう……。
ジュダイが、大陸一の大魔術師と噂されるセドラに入門したのは、かれこれ3年前のことだ。
当時、何も働き口がなかったシュダイは、魔術師になって少しでも就職を有利にしようとしたのだった。
セドラは、彼の願いを聞くとこう返した。
「分かった。その意志があるのなら、誰でも一流の魔術師になれるはずじゃ」
「本当ですか?その言葉、信じますね!」
「信じていいぞ」
だが、3年間雷の魔術を学び続け、修行を積んだ結果が、強敵を前に打ち砕かれてしまうライトニングボルト。
モンスターから受けるダメージ、ショック、痛み。
精神的な辛さ。
そして、この日荒野の真ん中で、ジュダイはクエストのメンバーから外されてしまった。
剣士やもう一人の魔術師のレベルが、あまりにも高すぎたため、と割り切るわけにもいかなかった。
「俺には、何もできない……」
頬に当てた両手で、ジュダイはいつの間にか顔を隠していた。
こんな現実を見るために、魔術師になろうとしたわけじゃないはずなのに……。
「そんなところで、何をやっているんですか?」
可愛い女の子の声だ。ジュダイは、その聞き覚えのある声に耳だけを傾ける。
「どうしたんですか……?悲しそうですよ」
「あぁ、俺はとても悲しいんだ。ありがとう」
ありがとう、を言おうとしても語尾がしぼんでしまう。ジュダイは力なく首を横に振り、顔から手を外して少女の顔を見る。
(もしかして……、あの少女……)
ユリアと言ったっけ……。
街がモンスターが襲われ、両親の命を奪われ、少女もまた命を奪われかけたところを、俺がライトニングボルトで強敵から救った……。
「やっぱり……、ジュダイさんだったんですね」
「あぁ……。そうだな……」
そう言ったところで、言葉が続かない。いつの間にかユリアは、中腰になってジュダイの顔を覗き込んでいた。
「どうしちゃったんですか、本当に。あの時のジュダイさんじゃないような……」
ジュダイはもう一度首を横に振る。
「あぁ。俺が何もできない魔術師だってことに、失望してるんだ……」
これじゃ、魔術師としても生きていけない。
何もできないんじゃ、生きている意味がない。
ジュダイは、ため息まじりの弱々しい声でこう言った。
だが、ジュダイの意志とは逆に、ユリアはジュダイの前で泣いていた。
「……それでも、ジュダイさんは強い魔術師で……、私の命の恩人です……」
ユリアの冷たい涙が、ジュダイの靴に落ちていく。
「お母さんもお父さんもいなくなって、私もあのまま死んじゃえばよかったのに……、ジュダイさんは私を助けてくれた」
まだ生きようよ。終わりじゃないって。
ライトニングボルトだって、どんな強敵にも立ち向かっていくんだからさ。
「そう言ったな……」
ジュダイは、静かにこう返した。そして、ひと粒だけ涙を浮かべてみせた。
「でしょ。あの時のジュダイさん、とても強かったんです……」
あの時、ジュダイの放ったライトニングボルトは、まぐれで命中したはずのものだった。
けれど、ユリアにとっては自らを運命づけた、希望の一撃……。
あれから、ユリアの引き取り手を一緒になって探した。
そして、それから1年経って、まだこうして元気に生きているユリアの姿が……。
「俺、なんか元気が出てきたような気がする。強いって言われて」
「よかった……。なんか、元気のないジュダイさんを見ると、私も悲しかったんで」
「そうか……。でも、俺はもう大丈夫だから」
ジュダイは、かすかに首を縦に振る。
「またピンチになったら、俺がライトニングボルトで救うからさ」
ジュダイとユリアは、固い握手を交わした。
それが、やがて一流魔術師となるはずのジュダイが、挫折から立ち直る瞬間だと信じて。