1 最後の光(2014.11.29)
「白き光の粒子たちよ。今、彼の身を包む衣となれ。その温もり、彼の深き傷を無に還さん」
魔術師フリアートが、渾身の力で解き放った白いオーラ。だが、その力はあまりにも弱く、魔獣の牙に貫かれた幼馴染アイルから溢れ出す血を止めるにはあまりにも乏しかった。
「フリ……、アート……」
祈るように光を放つフリアートの耳を、アイルの声が絶え絶えになってかすめていく。時折低いうめき声を上げるアイルは、もはや死を待つしかなかった。
「死ぬな……っ!アイル!」
フリアートは、これでもかというくらいに、白い光をアイルの傷に灯し続けた。
だが、アイルの目が光の祝福を待つことなく閉じていった。
満足に光を放てない魔術師フリアートには、あまりにも深いダメージだった。
(アイル……)
先程まで光を解き放っていた右手を力なく降ろし、もう動くことを忘れたアイルの体にフリアートは触れた。
そして、消えようとしている魂に向けて、フリアートは言った。
「俺は……、この手でもう誰も救えない……」
魔術学校で劣等生の扱いを受け、放課後はその日学んだ魔術を解き放てるようになるまで居残り。
成績最下位で卒業した後も、ギルド入りを何度となく断られ、ようやく拾ってくれたパートナーは、幼馴染のアイルだった。
アイルは、超一流とは言えないまでも剣の腕は高く、フリアートはそんなアイルの横で待っていた。
いつか、その力を使ってアイルに恩返ししたい。
恩返しをすることなく、アイルは息を引き取ってしまった。
フリアートは、また独りぼっちになってしまった。
「お兄ちゃん、光の魔術、放てるんだ」
涙を我慢していると、フリアートの前に突然、10歳ぐらいの女の子が立った。
彼女が、モンスターに襲われた腕をフリアートに突き出していた。
「そんなこと、ない……。俺は……」
「放ってた。本気で光を出してた……」
「……」
「私には、そう見えた……。だから、お兄ちゃんなら……、この傷を、癒してくれる……」
女の子の目に、涙がたまっていた。
たしかに、幼馴染にはすべてを出し切るかのように、白い光を放っていた。
そのことだけは、女の子だけではなく、フリアートから見ても間違いはなかった。
「痛いんだよね」
「……うん、痛い」
フリアートは、そっと右手をかざした。まだ、あれが最後の魔術じゃないと信じて。
「じゃあ、今回だけだよ……」
「うん」
フリアートが、街じゅうの人から「癒しの魔術師」として愛される、それが最初の一歩だった。