「if・かぐや姫……もしも姫が美しき傾国の妖魔だったら……」
巡り会ったが運の尽き、時には諦めも肝心な人生にちょっとした暇潰しをご提供する稲村某の御目汚し、平に御容赦。
皆様おはよう、もしくは今晩は。
作者・稲村皮革道具店本館……長い名前ですので手短に稲村某と名乗らせていただきます。
日本人なら誰でも知っている「かぐや姫」。と言ってもフォークソングbyさだまさし、じゃござんせん。そう、お伽噺のアレで御座います。
最終的には月に帰ったかぐや姫。世話になった育ての親たる老いた夫婦に不老不死の妙薬を渡し、別れを嘆き悲しむ夫婦は国で一番高い山の山頂でそれを燃やした、とか、いないとか……。不死の妙薬を燃やしたその山が転じて「富士山」と呼ばれるようになった、とか……。とか、ばかりですが、とかく「?」の多いお伽噺ではあります。おいこらフラグ回収サボってんじゃねーよ?ヘボ作者!!
……さて、そんなカビの生えたお伽噺はほっといて、本日は稲村某が数多の現行作品をうっちゃって、徹夜覚悟で書き上げます今作品……、
「if・かぐや姫……もしも姫が美しき傾国の妖魔だったら……」
……を、お贈りいたします。寒い夜も炭酸ガス満タンのお風呂に美女(もしくは美男子)と共に漬かるような……いや、それは盛り過ぎかな?……ともかく、肩肘張らない気楽な感じで参ります。……何?参加表明では純文学風とか言ってなかったって?……純粋に欲求を追求する文学、と解釈しましたが何か問題が?
……さぁ!それではどうぞ!
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「…………本当なのか?……その若いおなごが、《金色九尾》だと言うのは……」
東野国の国府にて、その領主である若き殿は部下の年寄(中堅の侍)に抑えきれぬ感情を露にしながらも、一度は立ち上がりまるで壁越しにその渦中の存在を眼光で射抜かんとばかりにしていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか、円形の敷物へと座り直した。
「はい……左様で……しかも、殿に御目通りを願うばかりか、あろうことか自らそう名乗り……その……、」
「なんじゃ、歯切れの悪い……そなたらしくないぞ!物申すならはっきりと申せ……」
若き殿は彼にしては珍しく声高に叫び、しかし余り騒ぎ立てても取り乱していると思われるのも癪だと思い直し、最後は小さく囁いた。
二人が居る建物は木造平屋とは言えど、周りを堀と頑丈な塀でぐるりと囲い、その中には常に鎧や兜、そして無論のこと刀や槍、弓矢や弩、果ては城攻めに用いられる大筒や火縄銃まで取り揃えた難攻不落の武家屋敷であった……。
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……何だい?そこらの時代考証はどーなってるって?やれやれ……アンタ、この小屋は始めてなんだろ?だったらこの俺の話にいちいち横槍を入れられちゃ困るってーの!
そもそも誰が平安時代で噺を紡ぐと言ったんだよ?ここはif・かぐや姫、でしょ~が!もしも……が、有るなら途中にチキンナゲット持った眼鏡が立っていようが、ケバブ掴んだマホメットが居ようが自由なんだよ!!じーゆーう!!判ったかい!?
……まぁ、今回だけは多目に見といてやるけれど、コッチも商売でやってるんだよ?あんまりゴチャゴチャ言われちゃあ、モチベーションは下がるしパフォーマンスも低下するってもんよ!!……判ったかい?
そーかそーか、判ってくれたかい……悪かったな?……おいらも興奮しちまったみたいでよ……じゃ、続けさせてもらうぜ?あと、ここから先は中抜け禁止の立ち見有りだぜ?覚悟しておけよ?
……そんじゃ、コッチも気合いを入れ直して取っ掛かるからよ?楽しみにしてなよ?
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「ふああああぁ~、ッと!!退屈だょお~んッ!!」
私は、ん~ッ!!と伸びをしてから、背中でユラユラ蠢く九本のもふもふを両手で抱き寄せて握り締める。
「はあぁ……もふもふ……♪やっこいなぁ……♪」
まるで意識を持つかのように揺れていた各々は、私がムニュ~、と纏めて抱き締めると、
「イテテテテっ!!やめろバカ握るな!!」
「いやぁ~ん!そこはお股ちゃんなの!エッチぃ!!」
「ノォ~ッ!!タンマタンマタンマ痛い痛い痛い!!」
「……おぅふ、リビドーが……」
「あ、当たってますってフィオーラさん……」
「お前バカ野郎フィオーラって呼ぶなって言ってただろ!?」
「セーフか?アウトかって?いやアウトだろ」
「……なぁ、誰か今……絶対オナラしたろ?」
……ものすんげー五月蝿かった。あとオナラは私がした。
「フィオーラ、あんたの転移魔法、毎回あてにならなかったけど……今回のは最低最悪じゃない?」
最後に言葉を発したのは、私の姉のアネモネ。余り歳は離れていないけど、ずけずけ物申す割りにはちゃんとアフターケアも出来る偉い人。私とは大違い。
「……まぁ、今更そんなこと言っても始まらないか……とにかく、来たのなら帰れる筈なんだから、方法を模索するしかないわ……。」
やれやれ……先ずはこの国で偉い人に会って、話をしてみるしかないか。
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……事の発端は、私と姉の他の計六人で、獰猛な魔獣相手に討伐の真っ最中に始まったの……。
その魔獣ってのは、尻尾が九本も有る金色の毛皮を持った大きなお化け狐。見たことも聞いたこともないソイツは最悪の相手だった……。
先攻のローガンとイワンは幾度も降り注いだ強烈な雷撃で麻痺、そして唯一の壁役だった姉のアネモネは前衛のパズと共に化け狐からの直接攻撃を防ぐのに精一杯。私のペアのライザは魔力が枯渇してもはや戦闘不能……もう八方塞がりで、退くにもローガンとイワンを放置して逃げる訳にもいかず、アネモネとパズも化け狐の物理的な攻撃を引き付ける為に動けないし、つまり……私が何とかしなきゃいけない!!
(こうなったら……行き先を定めずに集団転移で戦線離脱するしか手はないわ……)
集団転移は通常時なら目的地に設置したアンカーを頼りに難なく転移を完成させるけど、混戦時はアンカーの有無に関わらず無作為転移を余儀無くされる厄介な魔導印式……結印さえ終えれば即座に発動はするけれど……最悪は岩の中に転移してジ・エンド……いやよそんな結末は……!
しかも……更に最悪の上乗せは……今夜は私の魔力が猛烈に高まる満月の日!!狼人間の血を引く私達姉妹は満月になると自分でも制御出来ない位に…………あれ?……制御……え?
私……まだ結印を始めたばっかなのに、身体から魔力の転移が始まってる……何よこれ……一体何が起きてるの!?
驚くことに、極限まで魔力の高まった私の身体は、無意識に駆式の発動を省略化させて超速の極みで印式を具現化していた……いつもこうなら楽なのに……、でもそれじゃ……なんで転移用と思われる印式が二つも出てるの!?
しかし慌てていても、私は基本中の基本……目の前に現れた魔導印式を解読して……あ、出た。
……片方は見慣れた私の駆式。指紋と同じように個性がハッキリしてるから、魔導師ならみんな自分以外の印式でも、知っている使用者が具現化させた印式ならば判るんだけど……もう片方は……えーっと……?
……フム、外輪部は綺麗な駆式……で、中継部は……なにこれ、力業でゴリ押しじゃん!継続部が滑って魔煙噴いてるし!!強引な奴だな!……強引……?
…………うわぁ……判った……判っちゃった……最悪……本当に最悪ッ!!
これ……おバカちんの【厄災のアッシュ】の印式じゃん!!
……あんの《ピー!》れ《ピー!》《ピー!》のド《ピー!》!!!只のストーカーかと思ってたらこのタイミングで現れるつもりなの!?
「……謝罪は後でする。だが勿論反省は一生しないぞ?」
あぁ……その……空気読まない読めない読む気の無い【厄災のアッシュ】は、よりによって……お化け狐の頭の上に立っていやがるわ……。
「オーマイ……」
「このバカアッシュ!!どうせなら高度一万から真っ直ぐ落下してこいっての!!この役立たずッ!!」
「ふにぃ……何が起きてるの……?」
まだ可動状態の女性陣から罵声と呪詛、そして困惑の声を一身に受け、その馬鹿は私達を見下ろしながら毎度お馴染みの決まり文句を呟いてた……。
「謝罪もクソも無いわよ!!ランダムテレポートに拍車かけやがってこの枯れマンドラゴラ!!羽根無しペガサスの禿げメデューサ野郎!!!」
……ブゥン。
……あ、今度は本当にヤバイ。興奮した私は力の配分を完璧に誤り……周囲の間近に向かって……バカも一緒に転移させていた……近くって……嘘ッ!?
私達とバカ一人は……一番近くの最悪な場所……目の前の化け狐の【体内】へと集団転移していた……。
……魔力は桁違いのその化け狐と纏めて同化した私達は……化け狐の魂を一瞬で蹴散らかして撃破したのはいいんだけど……余り有るその魔力を一気に開放しちゃって、予測不能の超絶転移に移行しながらその場から居なくなったの……。
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「…………無理じゃな。まぁ、完璧に無理。」
目の前の優男はそう言うと、首をコキリ、と鳴らしながら顎を掻いていた。って、やる気あんのコイツ!?
「しかし殿……確かにこのおなごは見た目といい……そのふさふさとした(ああ……そのもふもふ触りたいぞ……)……、その、九本の尻尾が何よりの証拠と存じます……」
脇に控えたおっさんは、話をしながらも私の尻尾が気になって気になって仕方がないみたい……最初はお尻を見てるのかと頭に来たけれど、よくよく見ると揺れ動く尻尾に釣られて眼が泳いでたわ……フフン♪この尻尾、すんごくもっふもふよ~?自分で言うのも変だけど……最高の肌触りよ?
「それは確かにそうだが……竹の林に光り輝く膨らんだ竹が見つかり、それを持ち帰って開いた夫婦が中からそなたを見つけ……最後に我が元へと報せがあったことは認めよう。そこまでは……そうだ。」
優男はそう言うと、私の自慢のもっふもふな尻尾には見向きもせず、
「しかし、そのそなたが何故に我が元に現れて、【辺りに住まう魔物を隈無く退治した暁には、当地に伝わる魔導に関わる秘宝を貰いたい】等と長ったらしい要求をしてくるのか……」
守りに入る年齢なのか知らないけれど、その若い殿様は渋々と言った感じ……。嫌な予感……まさか、無いとか?
「はぁ……有るぞ?確かに当家に伝わる至宝……魔導の秘宝とやらはあるが……」
「有るんじゃん!良かった~♪無かったらお先真っ暗だったよん!ありがと~♪」
「だから!さっきから纏わり付くな!!この化け毛玉が~ッ!!」
いーじゃないのよ~♪私みたいな見目麗しい乙女に抱き憑かれるなんて幸せの極みでしょ~が!!
「フィオーラ!あんたねぇ、殿様嫌がってるでしょ~が!」
「ふあぁ……あったかいなぁ……毛玉サイコー♪」
「なぁ、イワン……俺達、何なんだろうか?」
「……ツッコミ役か、モブだろ?現状は……」
「……フィオーラ、なんでそんな白瓢箪に……」
「なぁ、お前は誰だ?」
「……貴様ら、絶対に許さんぞ……!!」
「いや待て一本足りないからな?お前ら判ってるのか!?」
……何だか尻尾がギャーギャー五月蝿いけれど、私は現在進行形で超元気!!だって狼人間にして魔導印式の天才!おまけに乗っ取った身体は無尽蔵の魔力を誇る化け狐のダイナマイトボディーちゃん!!
さて、最初の魔物は何処に居るのかな……?
でもまずそれよりも……この世界、どこ?
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お、お客さんも今すぐ帰るのかい?噺がこれからいーところになるって処でかよ……え?アンタも作家さんなんかい?へー、そりゃ奇遇だね!
へへ……実はよ、俺もそーだったんだよ!でもさー、色々拗らせちまってね……気がついたら自分の身体が毛だらけのもっふもふになっちまっててさ~!もう参ったの何の!!
でもよ?そんな体験だってこーやって伝播しては、木戸銭頂けるタネになってるんだから、何が活きるかなんて判らないもんだよな?人生って奴はよ!
……何だって?続きが気になって帰りたくない!?あちゃ~!そりゃ災難だな!!いやぁ~、つくづく罪作りな奴だな?俺って奴は!
ま、そう言ってくれんなら、こっちも商売人だからよ?最後までちゃ~んとお聞かせするから心配しなくていいって!
……お、そっちの旦那も近くに寄っといでよ?恥ずかしがるこたぁね~でしょ?男同士じゃ気味が悪くて卵が腐るってもんだ!なぁ?
あらまぁそっちの嬢ちゃんはお綺麗なこと!どっかのお姫さんかと思っちまったよ!!さぁさぁ恥ずかしがるこたないって!ほらそこ空けてあげなよ?綺麗処の隣になれるんだ、嬉しいんじゃないの?
さて、そんじゃお客さんも集まったようだし、噺の続きとしようじゃないか!
……聞いてみなけりゃ判らない、判れば最後が気になる噺の始まりだよ!!
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「お腹空いたなぁ……あーあ、バカ殿ん所で御飯ご馳走になっとくんだったわ……」
私がそう言うと、キュルルル……、とお腹から可愛らしい音が鳴る。うーん、燃費の悪い身体だわ、ホント……。
確かに魔力溢れる身体はいいんだけど、食べても食べても直ぐにお腹が空くとかマジで有り得ない!!あー、眼が廻りそう~。
「フィオーラ、どうしたの?……もしかして、トイレ!?」
「姉さん!!そんなことは言わないでよ!?忘れたいことの筆頭なんだから!!」
まさか色白のお尻まで出した瞬間に、馬鹿共が喚き出すとか信じられない地獄を体験するなんて……お陰で屋敷全部に響き渡るような声量で「歓喜の歌」とか歌わなくちゃいけなかったんだから!!これからは河の中とかじゃなきゃ用足しも出来ないってーの!!
「なぁ、フィル……あれって茶屋とか言う建物じゃないか?」
バカラッシュが珍しくタイミングの合った言葉を発する……でも、見間違えだったら……お前、丸かじりだからな……?
人里離れた山奥に、開けた山頂の真ん中にポツンとあったその建物は、草木で屋根を葺いた簡素な物だったが、食べ物らしき絵が描かれた布が表にヒラヒラと舞っていた……。
「あ、あ、あ、あああああああああああ~っ!!!!」
思考を完全に放棄した私は、絶叫しながら入り口へと駆け寄り、
「あ、あの……その、ええっと……お、お客さま……?」
店の中から現れた小柄な少女に向かって駆け寄ると……、
「…………あ、あぁ……もぅ…………む、りぃ…………。」
……倒れた。
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「そんなに慌てて召し上がっては身体に毒ですよ……?」
黒い髪を頭の上にひっ詰めて、かんざしで纏めたその少女は私の食べっぷりを見ながら心配するが、
「あむあむあむあむ……んふ?ふぁ、ひんはいはいほ?はむはむはむはむ……」
質素な佇まいの店だけに、出せる食事は麦と大根の混ざった塩握りと塩辛い漬物のみ。しかし、まぁ……今はあれだ。
「はむ、…………はああぁ……旨いよぅ……カエデちゃん、あんた……塩握りの天才だよぅ……はううぅ……」
「お客さん……塩握り食べながら泣かないでくださいよ……あと天才って何ですか?」
聞けばこの娘は母親と二人で、この山の茶屋を切り盛りしているとか。無用心だろうに……。
「ねぇ、そのお母さんは今はどこに居るの?」
見れば仕込みも途中で置いてあり、何らかの材料が到着していないから進められないように見受けられる……と、パズが言ってる。
「はい……麓まで切らした昆布を買いに行ってるんですが……まだ、なんです……」
心配そうに呟くカエデの姿に、私は立ち上がる。
「よし!私が探してくる!!」
「えぇ!?お客さん、お母さんの顔も何も知らないんでしょ!?」
……私は彼女が、この九本の尻尾を持った妖魔の姿であることに一切の質問もしてこなかったことを不審に思っていた。それに、頭のてっぺんからにょきっ、と生えている一対の耳を見ている筈なのに……まさか、この子……おバカさん?
「お母さんの姿形は判らないけど……匂いは判るから!」
「……あ、そっか!!お客さん、流石は《金毛九尾》ですね!」
……あ、そんだけメジャーなんだ……そっか……なるほどね……。
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「……で、判るの?フィオーラ、お母さんの匂いって……」
アネモネが小高い樹の梢の先でスンスンしてる私に訊いてくる。うーん、フムフム……なるほどね。
「あっち!!香袋の匂い、間違いない!!」
【……これは母さんが魔除けだって持たせてくれている、香袋なんです……揃いになっていますから……役立ちますか?】
カエデの機転で私は風に運ばれてくる、微細な匂いの変化に従いながら樹から樹へと飛び伝い、お母さんが居ると思われる場所へと急ぐ……ただ、気になるのよ……馴染み深い奴らの匂いまでしてるから……さ。
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「はぁ……はぁ……はぁ……あぁっ!?」
ツツジは足元の根っこに躓き倒れ伏す。
ガサガサ……ばきばき…………。
真後ろから茂みを押し倒してその追跡者がついにその身を晒け出す。
その生き物はまるで樽を思わせるような太い胴体を持った化け物の蛇。しかし、その鎌首は優に三十を超えしゅるしゅる……と嫌な摩擦音に似た鳴き声をあげていた。
ツツジはその忌まわしい姿に凍り付きながらも、意外に小さな頭の一つ一つがどうやって不幸な犠牲者を胃の腑に納めるのか、他人事のように気になっていた。
つ、つつ……、ポタッ。
数多の一匹の口許から垂れた唾液が地に落ちた瞬間、しゅわわわ……と煙が立ち上ぼりその箇所に窪みが形成される……。
……あぁ、生きたまま溶かされて飲み込まれるのね……察しのよいツツジはそう悟り、せめて頭から食べられるなら、苦しまずに死ねるかもしれない……そう願っていたのだが、
「…………ぅぅうわあああああぁ~っ!!!!?あああっ!!」
かなりの高さから降ってきた声と共に、その白い毛玉は叫び声をあげながら目の前の異形の魔物に……、
「な、なにこれヒュドラじゃんかよ!?何でこんな奴が居るんだよ!!まぁいっか!!アネモ姉ちゃん!!」
「バカ!略すなフィオーズボラ!!」
空中で両手に小さな魔導印式を結ぶとそのまま魔物の直上に向かって……、
【我が腕は石英より鋭く……黒曜石よりも素早く切り裂く|刃《やいば
》と成り、敵を討つっ!!】
「何だかよく判らないけどたぶんこうすればいい両手アタックッ!!」
フィオーラの背中から一本の尻尾が延び、まるでアネモネそっくりの姿形に変わるや否や、フィオーラの両手に自らの両手を重ねつつ……!!
「【姉妹合体両手斬り!!】」
……呆れるようなやっつけ合体技を繰り出していた……。
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「危ない所を救って頂いて……本当に有り難う御座います……」
ツツジはその妖魔の姿をした女性が、手に見慣れた香袋を持っていることに気付き、
「あ、それは……カエデに託した香袋……あの子が、貴女に……?」
「そう!まぁ、色々と有ってね……んん?……あ、そーだ!」
ポン、と手のひらを打ったフィオーラはツツジに向かって向き直り、
「実は……二人の茶屋でしこたまご馳走になったんだけど……まだ、御代を払ってないんだけど……あの、これを……」
……と、言いながら傍らに両断されて倒された魔物を指差して、
「……どこかで売り払ってくるまで……その、待っててもらえないかな~、なんて……ダメかな?」
その言葉を聴いたツツジは、事の次第を理解すると同時に可笑しくなってきて、
「フフフ……♪そんなこと、命の恩人の頼みと有っては聞かない訳にはいきませんわ!それはいいですが、これだけ大きな蛇ですから……少しはお肉が余るようでしたら……何か作ってご馳走いたしますが、いかが?」
「あぃ!?そ、それ本当に!?これ旨いの!!?」
「はい!蛇は鶏と魚の間の白身ですからね?しっかりと下拵えすれば唐揚げによし、鍋につみれに柚子味噌田楽に……美味しいですわよ?」
それを聴いたフィオーラは、嬉々としながら張り切って解体処理を始めたのでした……。
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……はいはい、今夜はここまでだ!坊っちゃん嬢ちゃんは暗くなるから早くお帰りよ?
あぁ、旦那がたとそこの御姉さんはまだまだ大丈夫だぜ?こっからが噺の佳境に入るんだから中抜け御法度ってとこだからさ!!
さぁさぁ新参の御客人は詰めて詰めてお座りなさい!ほらほらじい様は労ってやんなよ?明日も来れるか判んないんだから!!
それじゃ続きをやりやすから、一番後ろの御客人は木戸を閉めておくんなまし?覗きは良くても声は漏れたらこちとらの飯のタネが漏れちまうからさ!
がらり、と目の前で木戸が閉まり、中から熱気の籠った痛快な噺が漏れてくる。
ここは稲村話芸場。古今東西巷の話題を手を変え品を換え、退屈しのぎにやって来た耳の肥えた演芸好きの集う場所。
御代は聴いての後払い。心配するほど高くない、さぁさぁ寄りませ近くまで。
冬の夜更けは冷えますが、今夜も舞台は…………おっと、続きはこの中で……で、御座います!
「構想五分執筆三時間」→ホント。
「予期せぬ事故」→バカラッシュの乱入。
「謎の人物……伝えた言葉」→バカラッシュに文字通りの罵詈雑言のラッシュ(笑)。
「かぐや姫」→候補①「ダイダラボッチが一寸法師」……却下。
→候補②「かぐや姫が傾国の美姫だったら」……却下。
→候補③「かぐや姫が傾国の美しき妖魔だったら」……いいね!
……以上の候補選定に約五分。そして三時間で書き上げた。
「謝罪はするが反省はしない」でお馴染みの作者です。いやね、本当は後書きを一万文字書いたんですよ!?一万文字!!それを朝起きて適度な時間に投稿する予定だったのに、気がついたら全部履歴の海の中にボシャン……嗚呼……勿体ない。
そんな訳で現在つらつらと外出先で、車内にて執筆しています。そこ!周りをキョロキョロ探さない!!そこには居ませんから!!
さて、今回の冬企画、結構投稿数も増えていますが、案外……いや、ほとんどテンプレート形式の作品は少ないみたいです。でもね?稲村某は冒頭にも書いた通り、テンプレート形式が大嫌いなんですよ、金太郎飴みたいで。だから、敢えて今回は入り口だけはテンプレート形式で始めましたが、内容はお読みのように、毎度お馴染みの作者風になっています。長ったらしい描写は無いし、要らん説明も省きました。でも何とか作品としては形になったんじゃないかな?とは思います。たぶん。
……それはさておき、今回の作品を通して稲村某は何を言いたいのか?と言いますと、「不慮の事故や不自然な導入なんて無くても異世界転移は成立する」と強調したいんです!!作者の皆さん!!もーテンプレート導入あらすじ止めようよ?つまんないよ!?あれ!!
これは読み手にも責任あると思います。読み手側が感想欄に「もう少しそこは練って考えろよ?」と書くだけで済むんじゃない?絡めよもっと!!そんなの【サイレントクレーマー】と同じだよ?※サイレントクレーマー→会社や店舗に一切の苦言をせず、改善の機会を奪いそして他所で不快感のみを未来の顧客候補に撒き散らす存在の呼称。最も質の悪いクレーマー※
現在のなろう界は確かに登録者数も多く、個人的には魅力的な発表の場所だと思いますが、もし現状の流行が終わったら……そう思うと怖くてたまりません。食わず嫌いはイカン!もっと色んな作品を読もうよ!!だから稲村某は流行に逆らいます。あくまでも物語上で展開していてもタグに「ハーレム」「チート」「成り上がり」等のキーワードは入れません。
稲村某は古い人間です。その原点はロバート・A・ハイライン「宇宙の戦士」。なんと四十年以上前の小説ですが、未だに読めます。もう何回かなんて数えていません。でも、不変的な魅力ある作品です。四回目の表紙刷新、それはしかし全く往時を消し去ることもなく、パワードスーツの元祖が主役です。カッコイイ。
皆さんも一回しか読まずにポイする作品にゴチャゴチャとブクマするよりも、何回も読める作品を見つけてみましょうよ!それが稲村某以外なのは当然かもしれませんが、それでも構いません。稲村某の願いは人類が活版印刷を発明してから四百年も続いてきたこの表現方法で、イヤンバカン♪な作品を吟じて浮世絵みたいに長く愛されることがこれからも続くことです。
字を介して作者と読者が感動や涙、時には萌えや憤りを共感できるなんて物凄く素晴らしいことだと、思います。VRが世に広まってもふわふわもふもふを脳内で共有出来るとかマジすげーことですから!!歌麿万歳!!(アホか)