僕は何故、今……
本格的な恋愛物に、初めて挑戦してみました。
宜しければ、少しの間お付き合い下さいませ。
それでは……。
あれ?
どうして僕は、こんな事になっている?
思い出してみるか……そうだ!
あれだ!
あれが切っ掛けだったんだ……。
思い当たるのは、そう。
高校を卒業する、その前日。
急に、あいつに呼び出されたんだっけ。
僕は『何だろう』と思いながら、屋上のドアを開けたんだ。
そしたら。
思い詰めた様な表情で、あいつが立っていたんだ。
小学校からの親友、〔レイジ〕。
僕は軽い感じで、声を掛けたんだけど……。
「よう。どうしたんだ?用なら、帰りながらでも良いじゃないか。」
「俺達、明日で卒業だろ?進路もバラバラになるしさ。その前に、お前に言っときたい事が有るんだ。」
「何だよ、急に改まって。今日は変だぞ、お前。」
僕は笑いながら、レイジにそう言ったんだけど。
あいつの眉が、ピクピク動いていたんだ。
様子がおかしいと思い始めたのは、その時からかな?
するとあいつは、バッと頭を下げて謝るんだ。
「済まん!俺、〔あいつ〕と付き合ってるんだ!」
「え?誰誰?」
僕は面白がってしまった。
こいつの恋バナなんて、今まで聞いた事が無かったから。
それが余計に、あいつの罪悪感を突いちゃったんだろうな。
あいつは顔をしわくちゃにしながら、声を絞り出す様に言ったんだ。
「……〔エリ〕。」
え?
僕は思わず、そう返した。
エリって、まさか!?
「ああ。あのエリだよ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!冗談だろ!」
「だから、『済まん』と謝ってるじゃないか。」
「え、えぇ……。」
僕は言葉を失った。
高校生活の3年間、僕達は。
僕、レイジ、エリ、そしてもう1人。
仲の良いこの4人で、あちこち遊び回っていた。
それはもう、毎日が楽しかったさ。
クラスも3年間、ずっと一緒だったし。
その中で僕は、何時の間にかエリを好きになってたんだ。
でも、告白する勇気が無かった。
今の関係が壊れそうで、怖かったんだ。
それでもレイジにだけは、隠して置きたく無くて。
思い切って相談したんだ。
レイジはニコッと笑いながら、『応援してるぜ!』と言ってくれた。
言ってくれたんだ。
2人きりになるチャンスも、何度も作ってくれた。
てっきり、僕の事を真剣に応援してくれてると思ってた。
なのに、どうして……。
僕はレイジを問い詰めた。
『親友だろ、どうして話してくれなかったんだ』って。
ちょっと言い方がキツかったのかも知れない。
あいつも困り果てていたみたいだった。
そこに丁度、エリが現れたんだ。
どうやら、中々戻って来ないレイジを心配していたらしい。
屋上へ飛び込むなり、僕へこう言ったんだ。
「レイジは悪く無い!私が悪いの!」
「どう言う事だよ!」
僕は思わず、怒鳴り返してしまったんだ。
そんなつもりは無かったのに。
エリの顔を見た途端、冷静でいられなくなってしまった。
僕は暗に、説明を求めた。
エリは、何度か言うのを躊躇ったけど。
重い口を開いて、こう言ったんだ。
「私から告白したの。『ずっと好きだった、付き合って』って。」
「レイジは、何て……?」
「初めは断られたわ。『ごめん、無理』って。それでも私は諦めなかったの。それでとうとう……。」
「受け入れたってのか?」
「ああ。こいつの真剣さを、これ以上裏切れなかったんだ。」
レイジは僕に、そう答えた。
恋人同士になる前、エリに僕の気持ちを伝えたらしい。
『あいつを裏切る様な真似はしたく無い、それでも付き合いたいのか?』って。
エリも最初は戸惑ったけど、『レイジを好きな気持ちは止められないから』って。
僕からの非難を覚悟で付き合い出したって、レイジは言ったけど。
じゃあ何で、僕に隠してたんだ?
親友じゃ無かったのか?
所詮、それだけの関係だったのか?
これまで過ごして来た時間は、何だったんだ……。
ガクッと肩を落とす僕へ。
レイジは辛そうに、こう言った。
「親友だからこそ、言えない事も有るんだ。分かってくれよ。」
そう言いながら、レイジは俯いた。
でも僕は、納得出来無かった。
エリは今、僕の目の前で。
お前が身体を震わせている姿を見て、目を潤ませながら抱き付いている。
そんなのを見せ付けるなよ、悪びれてる様に見えないだろ!
分かんない、分かんないよ!
分かりたくも無い、もう聞きたく無い!
「あっ!おい!」
レイジが止めるのも聞かずに、僕は屋上から階段を駆け下りた。
その場から逃げる様に。
僕はずっと、思い続けていたんだぞ!
お前だって、知ってただろ!
何が親友だ、この裏切り者!
レイジに向かって、そう怒鳴れたら。
どんなに心が楽だっただろう。
それが出来なかったって事は、僕もまだ。
あいつの事を、親友だと思いたかったんだろう。
そう思いながら、人の少ない校舎を何と無くブラブラしてたんだ。
2人共、とっとと帰ってくれ。
今日はもう、顔も見たく無い。
そんな感じで。
それから1時間位経ったかなあ。
いい加減帰ろうと、校門から外へ出ようとした時。
あいつの姿を見つけたんだ。
遊び仲間の残りの1人、〔サナエ〕。
片足をプラプラさせながら、僕に話し掛けて来たんだ。
「どうしたの?」
「べ、別に……。」
僕は咄嗟に、すっ呆けてしまった。
後ろめたい事なんて無いのに。
サナエは心配そうな顔で、僕の顔を覗き込んで。
言ったんだ。
「レイジとエリの事?」
「ど、どうしてそれを!」
僕は思わず、大声を上げてしまった。
放課後で良かった、人も疎らで反応する奴は居なかった様だ。
思わずホッとする僕に、サナエは聞いて来たんだ。
「目、赤いよ?」
しまった!
泣いてたのがバレた!?
「き、気のせいだろ。」
誤魔化せた感触は無い、それでも何も言わないよりはましだ。
するとサナエは、意外な事を言って来たんだ。
「私、見ちゃったんだ。3人が屋上で話してるとこ。」
「え?な、何で?」
僕には何の事か、さっぱり分からなかった。
普段は元気印、その明るさでみんなを引っ張っていたサナエが。
今はやけに、しおらしい。
モジモジしながら、何かを言おうとしてる。
それが気になった僕は、サナエに催促した。
「何だよ?僕の事が、そんなにおかしいか?無様か?」
この時も、語気が強かったのかも知れない。
あのサナエがたじろいでいたから。
それでも意を決して、サナエは言った。
僕はその言葉に、驚いたんだけど……。
「私じゃ……駄目かな?」
「サ、サナエ!?」
「私じゃ、エリの代わりに成れない?」
「何を言い出すんだ、突然!」
「好きだって言ってんの!あんたが!」
ガバッ!
サナエは、僕の身体へ急に抱き付いた。
もう離さない、みたいな感じで。
目を潤ませながら、上目遣いで。
サナエは言うんだ。
「ずっと……ずっと、好きだった。」
「ご、ごめん。僕はエリが……。」
「知ってる。ずっとあんたを見ていたから。」
サナエから、冷静にそう返された。
気が動転していた僕は、明らかに語彙力が低下していた。
こんな言葉しか、出て来なかった位に。
「なら、何で……。」
「今のあんたを見ていると、辛いんだもん!心の奥が、ギューッと痛くなるんだもん!」
そう言うと、サナエの抱き付く力が。
強くなった気がした。
それで、気付いたんだ。
ああ、僕と同じ様に。
サナエもずっと、苦しんでたんだ。
4人の関係が崩れる事を、恐れていたんだ。
なんてこった、僕は本当に独りよがりだったんだな……。
そう考えると、心の整理が付いた気がした。
僕はサナエに、こう言ったんだ。
「ごめん、サナエとは付き合えないよ。」
「エリの事が、まだ好きって事?」
クスン、クスン。
サナエも泣いているらしい。
僕はサナエをそっと、身体から引き離して。
その顔をジッと見つめながら、真心を込めて。
こう返事したんだ。
「サナエの気持ちが真っ直ぐな様に。僕の気持ちも真っ直ぐなんだ。簡単には変えられないよ。今のお前なら、分かるだろ?」
「……分かりたく無い。」
さっきまでの僕を見ている様だ。
本当は、もうどうしようも無いって気付いてる。
それを認めたく無くて、意地を張ってるんだ。
それでも僕は、サナエに言った。
「お互い、気持ちの整理がつくまで。この事は、保留にしないか?」
「保留?」
「明日、思い返せば。また違った考えになるかも知れない。」
「それでも、私は……。」
すがる様に言って来るサナエ、それを振り切る様に。
僕は言った。
「また明日な!」
そして全速力で、駅の方向へ走ったんだ。
一度も後ろを振り返らないで。
サナエの表情を見るのが、怖かったから。
駅を乗り継いで、家に転がり込んだ僕は。
何もやる気が起きずに、夕食も取らず。
そのままベッドに倒れ込んだ。
今日の事が全て、夢であります様に。
そう思いながら、気付かない内に寝ちゃってたんだ。
翌日、卒業式の日。
親はもう、仕事に出かけていた。
昨日風呂に入り損ねたので、軽くシャワーを浴び。
食パン1切れとコーヒー1杯と言う、いつもの朝食。
その後、重い足取りで学校へ向かったんだ。
電車の中でも、ずっと考えていた。
レイジに、エリに、そしてサナエに。
どんな顔をして会えば良いんだろう。
校門を潜るまで、ずっとずっと。
そんな事を考えていたんだ。
そーっと、教室の中を覗き込む。
まだ3人共、来ていない様だ。
ホッとした僕は、中へ入ったんだけど。
クラスのみんなが、何故か泣いているんだ。
中には、号泣している奴も。
一体、どうしたってんだ?
僕はクラスの奴に、尋ねてみる事にした。
「何か有ったのか?」
すると、そいつは。
僕の顔をギッと睨んで、こう言い返したんだ。
「お前!良くも呑気に居られるな!お前が一番、仲が良かったんだろ!」
「え?何の事?」
状況がさっぱり分からない。
ポカーンと口を開けていたんだろう、何の事やらと言った顔付きの僕へ。
別の奴が、こう言って来たんだ。
「知らないのか!?【死んだ】んだぞ、あいつ等!」
「し、死んだ!?」
予期しない言葉が出て来たんで、僕は頭が混乱し始める。
そいつは、こう続けた。
「エリとサナエとレイジだよ!今日卒業だってのに、どうしてこんな事に……!」
う、嘘だ。
嘘だ。
嘘だっ!
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!
気が付くと、僕は。
そいつの身体を掴んで、そう叫びながら揺さ振っていた。
「俺だって信じらんねえよ!お前、何か知ってるんじゃないのか!」
「ぼ、僕は何も……知ら……ない……。」
そいつの迫力に、思わず僕は怯んだ。
まさか、昨日のあれで……。
屋上での出来事、校門での出来事。
それ等を思い出して、僕は黙ってしまった。
それが、クラスメートの気に障ったらしい。
みんなが僕に、詰め寄って来たんだ。
「知ってるな?知ってるんだな!言え!何が有った!」
「僕の……せいじゃ……。」
「『言え』って言ってんだろ!」
「うわあああぁぁぁっ!」
僕は叫ぶと、掴んで来るクラスメートの手を無理やり振り払って。
勢い良く、廊下へ飛び出した。
必死に、懸命に、その場から逃げ出した。
上履きのまま、外へ外へ。
なるべく遠く、誰も僕の知らない所へ。
このまま消えてしまいたかったのかも知れない。
スマホは電源を切っていた。
帰って来る様、親や友達から催促が来そうで。
どうして教室から逃げてしまったんだろう?
自分のせいで、3人が死んだ。
何故かそう思い込んでいた、それが理由としか考えられない。
3人の死因を聞いても居ないのに。
多分、ベッドへダイブした時に思った事が。
心の何処かで引っ掛かっていたんだろう。
《僕を裏切ったあいつ等なんか、この世から消えちまえ!》
人目も気にならない程懸命に、夢中で町中を駆け抜けた僕は。
とある電車へ飛び込むと、ドスンと席へ腰を下ろし。
揺られ揺られて、海岸沿いを西へ西へと移動していた。
途中でふらりと、見知らぬ駅へ降りると。
気付いた時には、高いビルの屋上に居た。
どうやって、フェンスを乗り越えたのかも覚えていない。
下からは、沢山の大人の声が聞こえて来る。
わんわんと唸っているだけで、はっきりとは聞き取れない。
その時ふと、今流行りのラノベを思い出していた。
不運にも死んでしまった主人公が、神様の力で異世界に生まれ変わり。
チート能力を駆使して敵をなぎ倒しながら、ハーレムを築いて幸せに暮らす。
そうだ、そうなんだ。
きっと3人も、そうやって異世界転生したんだ。
なら、僕も……。
無意識に足を、1歩前へ出す。
身体がガクンと揺れる。
下からは一段と、大きな声が上がる。
フワッとした感覚、気持ち良い。
僕は夢見心地で、宙を舞っている。
そうか、それで僕は。
今、空を飛んでいるんだ。
待ってろよ、異世界。
次こそは、良い人生を……。
────────────────
「駄目だったか……。」
「こんなに若いのに、飛び降り自殺なんてなあ。」
「何でも、卒業式の前日に。仲の良かった友達が3人も、事故で亡くなったらしいよ。」
「可愛そうに、それで思い詰めたんかねえ。」
「本人にしか、分からないけどな。」
そう呟き合う、大人達。
結局彼は、異世界に転生出来たのだろうか。
思わぬ事に現実逃避し、ラノベの世界観に憧れ。
現実とフィクションをごっちゃにした結果、僅かな可能性に賭ける形となった。
こんな事で償いになるとは思っていなかったが、これしか方法が思い付かなかった彼。
望み通り転生が叶ったかどうかは、正に〔神のみぞ知る〕所となった……。
いかがでしたでしょうか?
主人公の苦しい内面、少ない文字数で表すのは難しいですね。
楽しんで頂けたなら、幸いです。
願わくば、「小説家になろう」に投稿されている作品のどれかで、
主人公が、幸せな人生をやり直していますよう……。