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8 熱が出た日

「 夕陽、どんな感じなの?」

「 めっちゃたいぎい。( だるい) 頭痛い。」

「 風邪ね。今までの疲れが出たのかしら。家に帰ったら大人しく寝ててね」

「 うん」


ここは、音無家が経営する病院の診察室。

編入試験が無事に終わったし、まだ夏休みだから遊ぼうって思ってたんだけど、

朝起きたら、激しい頭痛と発熱に襲われたから、母さんと一緒に病院に来て、母さんに診察してもらったとこなんだ。


「 一緒に帰りたいけど、この後どうしても、はずせないカンファレンスがあるから、帰れないのよね。どうしよ。雫は、どうしても部活抜けれないみたいだし。アキもいないし。こういう時に限って、なんで、ちゃらんぽらん亭主は、おらんのよ。まったく。娘が熱出しとるのに、肝心要な時に役に立たんのじゃけ。」

「 はは。しょうがないよ。父さん出張なんじゃろ。小さな子じゃないけぇ、一人で帰れるよ。タクシー使うけ、大丈夫」


母さんが、めったに使わない広島弁で、いない父さんに文句を言ってる。娘という単語は、スルーして、俺は笑って返事した。


「 夕陽。笑い事じゃないでしょ。一人で帰る途中なんかあったらどうするの?ふらふらの体で、もし転けたら綺麗な顔に傷が出来たら大変でしょ。とにかく、待ってて、カンファレンスの方調整して帰れるようにするから。」



綺麗な顔かどうかはともかく母さんの言う通り、なんかあったら大変だ。。

30分かけて歩けば帰れるけど、途中で動けなくなるかも。だけど、一人でどうにか帰るしかない。母さんには、仕事を優先してほしい。



「 とにかく俺は、大丈夫。タクシーで帰るから。」

「 えっ待ちなさい。夕陽。」


母さんの制止を振り切り、俺は、ふらつく体を引きずるように診察室から出た。

会計と薬の受け取りをどうにか済まし、病院を出ようとしたけど、40度近くある体でまともに歩けるはずがなく、病院の入り口近くで、座りこんでしまった。

――自業自得なのは、分かっとるけどさ、誰か助けてくれないかな。気持ち悪い。吐きそう。

こんな事なら、母さんの言うこと聞いとけばよかった。

泣きたい気分になってると、救いの声が聞こえてきた。



「 何やってんの。夕陽ちゃん」

「 林原さん」


顔をあげると、心配そうに、俺を覗きこむ林原さんがいた。


「 風邪で病院来たけど、歩けんくなったんです。」

「 誰か一緒じゃないの?」

「 はい。さっき、母さんに帰るように仕事調整するって言われたけど、それ無視したんです」

「 無理に決まってるだろ。そんな体で、帰れる訳ない。ほら、送ってくよ」


林原さんは、俺をおんぶしようとしゃがんだ。助けて欲しいけど、おんぶとか恥ずかしいんですけど。


「 悪いですよ」

「 いいから」


林原さんは、強引に俺をおんぶした。そのままタクシーに放り込まれて、一緒に帰った。


「 すみません。」

「 最初から、お母さんの言う事聞いとけよ。 お母さんの仕事の心配するのもいいけど、自分の心配しろよ。」


結局林原さんは、俺の部屋のベッドまで運んでくれた。あーカッコ悪いなー。


「 じゃな。しっかり治せよ。」

「 あっ待って。」

「 何?」

「 いやその。何でもない。」


俺の秘密喋っちゃおかなって思ったけどやめた。

元男をおんぶして気持ち悪いって思われたくないし。


「 何でもないないなら、帰るよ。」

「 あっはい。ありがとうございました。」


俺は、お礼を言いながら布団をかぶった。軽くぽんと、頭を撫でる感触がしたけど多分気のせいだろう。俺は、そう思いながら眠りについた。

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