6 彼氏じゃない。
部屋だと落ち着いて勉強出来ないから、リビングで勉強してた時の事。
俺の対面に座ってた父さんがこう言った。
「 なんな、夕陽。ニヤニヤして何かええ事でもあったんか?」
「 へっ? 俺、そんなにニヤニヤしとる?」
「 おう、気色悪いくらいにの」
気色悪いは余計だけど、そんなに、にやけてるんだろうか? まぁ父さんが、引くぐらいだから、ヤバイんだろうな。
俺はそう思って、顔を引き締めるけど、やっぱり緩んでしまうんだ。
――嘘やポーカーフェイスが苦手なんだよな。 ひなにも言われた事があるんだよな、『夕陽は、嬉しい事があると、にやけて、嫌な事があると、どよーんって暗い顔になるから、わかりやすいんよね』
ってね。
「 そんなに、にやける位じゃけぇ、よっぽど、ええ事じゃったんじゃの」
「 ええ事って言えば、ええ事なんかな」
「 ほう、彼氏でも出来たとか?」
思わず、持ってた参考書を落としてしまったよ。父さん、ストレート過ぎるよ。
「 なんな、図星かい」
「 ちがーう。林原さんは、彼氏じゃないもん。 そりゃ、昨日は一緒にいれて嬉しかったけど」
「 ほうなんけ(そうなのか)、つまらん。彼氏なら、家に連れてこさせて、苛めてみたかっのにのう。娘に相応しくないとか言うの、やってみたいんよ」
「……父さん本気?」
「 まあ、仮の話じゃ。実際にやったら、瞳子に笑顔で、離婚届つきつられそうなし、雫に嫌わたくないしの」
「 ならやめといたら」
そう言って、俺は、落とした参考書を拾って勉強を再開した。
父さんは、新聞を広げてるけど、多分まともに読んじゃいない。俺の予想だと、多分変な事考えてるよ。父さんとは、血のつながりは無いけど、子どもの頃から、録な目に会ってないから分かるんだよな。例えば、誕生日プレゼンじゃって渡された箱を開けたら、リアルなおもちゃの蛇が飛び出てきたり、夏休みに泊まりに行った時なんて、夜中に起こされたうえに、シーツかぶった父さんに追い回されるというホラー映画みたいな事されたし、まあ、どっちも母さんにとっちめられたみたいだけどね。
「 あっええアイディアが、思い浮かんだわい」
父さん、スマホ持ってリビングから出ていったよ。――どんなアイディアが浮かんだのか知らないけど、どうしても、林原さんを連れてこさせたいみたいだな。
「 よっしゃ、わかった。ありがと」
スマホでの通話を終えたらしい父さんが、リビングへ戻ってきた。
「 ふっふ。唐突ですが、明日林原くんが、我が家にやって来ます」
「はいい? 何でそんな事になっとん?」
どや顔で、父さんは説明を続けた。
「えーと。夕陽の家庭教師やってもらおうかなって、思ったん。んで、林原くんは、雫の部活の先輩じゃけ、雫が連絡先知っとるの思い出しての。さっき雫に連絡取ってもろうた。(もらった)そしたら、二つ返事で、オッケーもろうた(もらった)って訳よ」
「 そうなん」
もう呆れて、何も言えないよ。好きにしてください。
「いやー、どしても確かたかったんよ。娘の彼氏として、相応しいかどうか」
「 あっそ」
俺は、ふて腐れたように返事したけど、多分顔は、にやけてる。
父さんのむちゃくちゃな行動には、呆れるけど、ちょっと嬉しい。
明日に早くならないかな。勉強しながら、俺は、そんな風に考えていたのだった。




