あれから
最終話です。拓人目線です。
「 ただいま~」
午後6時半。くたびれきって、帰宅すると、ノシノシとトコトコという足音が出迎えてくれる。
「 お帰りにゃさい~」
「 んなな~」
おにゃんこさんとそらの2匹のお出迎え。いつもなら、夕陽も一緒に出迎えてくれる筈なんだけど、最近体の調子が悪いとか言ってたな。寝てるのかも知れない。
あれから、10年以上の月日が流れた。僕は、福祉系大学を卒業し、音無家が経営する介護老人保健施設に就職した。生活相談員として、入所している高齢者やそのご家族からの相談。ケアマネジャーからの問い合わせなどの対応に追われるる忙しい日々を送ってる。
そんな僕も、昨年、夕陽の大学卒業と同時に結婚した。なかなか結婚しないんで、周りからは、随分心配されたけど。
夕陽は、音無家経営する病院で、医療事務として働きながら、家事や猫達の世話に追われる毎日だ。あー、言っておきますけど、僕も家事やってますから。だけど、最近は、体の調子が悪い夕陽に変わって、家事を全部を担ってる。今日は、病院に行くって言ってたけど、どうだったんだろうな。
玄関からダイニングキッチンへ向かう。僕の足元に、的割りついて、にゃーにゃー、んなんな騒ぐ2匹を宥めながら、キャットフードを準備する。
――こんだけ、猫達が騒いでるのに、起きてこないなんて、大丈夫なんだろうか?
夕陽の事が気になるが、喚いてる猫達を静かにさせる事が先だ。
「 早く、ご飯くださいにゃ~」
「 んなな~ん」
「 ハイハイ、今あげますよ、だから、的割りつかないでくれ」
「 やたー。ご飯 」
「 んなな~」
「 まったく、お前達はいいよな。呑気で」
がつがつと、キャットフードを文字通りかっ食らう猫達に、文句を言ってやるも、猫達はキャットフードに夢中だ。
さて、人間達のご飯も用意しなきゃな。
って言っても、夕陽まともに食べれるだろうか? 食べやすい物がいいよな。
夕陽は、ご飯の匂いすら駄目って言ってた。僕は、もしかしたらなって思って、職場の女性看護師に訊いてみたんだよな。『 あー多分。あれだね。ウフフ、ついに、音無くんも……かあ』 そんな訳ないと、思わず言ってしまったけど、5人も子供を産みかつ、助産師として産婦人科に務めた事のある年嵩の彼女の言う事は間違いじゃないかも、知れない。
昼間のやり取りを思い出しながら、僕が、夕食の準備をしていたら、夕陽が寝室から出てきてた。
「 ごめんね。おにゃんこさん達いないから、帰ってきたの知ってたんだけど、私、なかなか起きられなくて」
「 あー別にいいよ。それよか、病院どうだった?」
「 あのね、ここにいるって、私達の赤ちゃん」
「 へっ?」
愛おしそうにお腹をさする仕草と、夕陽が言った事の意味を理解をするまで、数秒かかってしまった。
「 マジで?」
「 うん、3ヶ月だって」
「 やった」
嬉しさのあまり、夕陽を抱きしめてしまった。
「 んなな~」
「 すごいにゃー、夕陽がママにゃ~拓人さん、パパにゃ~」
しばらく。 猫達が祝福の声をあげていた。
にぎやかな我が家が、男の子と女の子の双子の赤ちゃんを迎えて、さらににぎやかになるのは、もうしばらく先の話だ。
駆け足のような連載に付き合って下さりありがとうございます。
今度こそ絶対終わらせるという思いから、始めたこの連載。自分の書きたかったシーンまでたどり着けました。本当にありがとうございました。




