4 ショッピングモールの出来事。
「 夕陽、勉強もせんといけんけど(しないといけないけど) 今日は必要な物買いに行くよ」
「 あっうん」
朝食を食べながら、ひなはそんな話をしてくる。
昨日あんな話をしたにも関わらず、ひなは、いつも通り振る舞っていた。
――いや、いつも通りに見えても、泣きはらした跡は、ごまかせない。だけど、それについて追求しようものなら、プライドの高いひなは、意固地になって否定するだろう。だから、こちらもいつも接する方がいいのだ。
「 あっそだ、買い物にね、雫と真央も一緒に行くよ」
「 へっ雫ちゃんは、ともかくなぜ長谷川」
「 昨日ね、あんたが目を覚ます前に、真央に会った時にね、あんたの事全部話しちゃった。そしたら、あんたに会いたいって言うけん、買い物に行くから一緒に行こうって、話しになったん」
「 あっほうなん」
俺が知らん間に話進んでるし。
長谷川真央は、中学からの同級生。
雫ちゃんは、瞳子叔母さんの娘で、俺の従姉妹だ。
それはそうと。
「なあ、長谷川と雫ちゃんって、面識ないよな?」
「 んーん、私がこっちに来てから何べんか遊んどるよ。それに、雫と真央趣味があうみたいで、よく二人だけで遊んだりしとるみたい」
「 さいでっか」
朝食が済むと、俺は着替える。紺のTシャツに水色のキュロットだ。ひなの服だと大き過ぎるので、昨日、叔母さんが買ってきてくれた物だ。
スカートをすすめてくれたけど、異世界でもスカートを穿いてなかったので、キュロットをお願いした。
「 準備できたよ」
「 私も着替えた」
ひなは、パジャマから俺と同じような紺のTシャツにデニムパンツを合わせてる。
シンプルな組み合わせだけど、背の高いひなには、とても似合う。――今の俺が同じ格好しても、似合わないだろうな。
そう思って、こっそりため息をついたのだった。
「 そういや、どこに行くん?」
「 隣町のショッピングモール」
「 この町の夢見タウンとかじゃ駄目なん?」
「 駄目じゃないけど、ショッピングモールのが、品揃えいいんよね」
そんな会話を交わしながら、集合場所である駅に向かってる。こうやって歩いてると、周りの景色がひどく懐かしく感じてしまう。離れてたのは、一ヶ月程だけど、何年も離れてた気分になるな。
駅に着くと、長谷川と雫ちゃんがいた。
声をかけようと思ったら、長谷川がツインテールを揺らしながら、突進してきた。
「 夕陽だぁぁ」
「はぎゃあ」
長谷川がぎゅうぎゅうと、俺を抱きしめる。今の俺と変わらない身長なのに、凄い力だよ。ちと苦しい。
「 夕陽~、本当に夕陽だよね」
「 うん、俺だよ。ねっ離して」
「 ごめん」
長谷川が離れたら、今度は、雫ちゃんが抱きしめてきたよ。
「 小さい。可愛い」
「 雫ちゃん、苦しい 」
雫ちゃんが離れた。ひなは、二人を呆れた顔で見てるし。
「 ねぇ、二人供抱きしめたの?」
「私は、会えて嬉しくて ついね」
「 可愛いから」
「 ふーん」
長谷川の理由は、友達としてうれしいけど、雫ちゃんの理由は、なんか嬉しくない。
二人の抱きしめ再会を終えて、今日のメインの目的 ショッピングモールへ向かった。
ショッピングモールに着くと、ひなが口を開く。
「 どこから行く?」
「 そりゃもちろん、ランジェリーショップ」
「 だよね」
俺の意見は、一切聞かれず、女子三名の一声で、俺は、ランジェリーショップへ行く事に。夏休みという事もあり、人で溢れかえるショップモールを、俺は、ひなにグイグイと引っ張れるように歩く。
途中、ナンパしようとしてきたらしい男をひなは、睨みつけ、無言で歩く。
俺一人だったら、ナンパを避けるのは、ちょっと無理だったかも。
「 はあ、眩しい」
生まれて初めて入るランジェリーショップは、はっきり言って眩しい。
赤や明るめのイエローといった色彩が、俺には眩しく感じるんだ。
異世界でも、下着を扱う店には、ほとんど近寄らなかったもんな。
「 Aの65だったよね。今の夕陽は、中学生だからあっちか」
ひなの中学生という言葉に、一瞬某アニメの少年のセリフが思い浮かんだけど、俺の場合、精神は高校生だけど、頭脳も見た目も中学生だし。
それはともかく、今は下着だよ。
長谷川と雫ちゃんは、キャミソールを見てくると言って、別行動だ。キャミソールなんて、白いやつでいいのに。
「 どれがいい?」
ひなが、ブラを手に取って見せてくるけど、よくわからない。
タンクトップやキャミソールを半分にしたみたいな物や普通のブラみたいなのもある。ちゃんと、ホックが着いたものもあるみたいだ。だけど、面倒くさそう。
「 これにしよ」
俺は、キャミソールを半分にしたみたいな物を手に取る。ホックないし、着けるの楽そうだし。デザインは、中学生らしい白いシンプルな物だ。
「 いいんじゃない、初めてならそれで」
ひなのお墨付きを貰ったので、同じような物を選び、試着して購入した。キャミソールも同じように白いシンプルな物を選んだ。
試着する時、なぜか雫ちゃんが、一緒に入ろうとして大変だった。
「 はあ、疲れた」
俺は、ショッピングモールのソファーに座って休憩中だ。夏休みという事もあり、人が多いから、人に酔ってしまった。自販機で買ったお茶を飲みながら、可愛い雑貨を扱う店で、買い物中のひな達を待っている。
「 ねぇ、キミ一人?」
「 はっ?」
これってナンパだよな。目の前の男は、高校生くらいだろうか? だけど、こう言っちゃなんだけど、見た目はイマイチだよ。
「一人なら、俺と遊ばね?」
「 嫌です。ここで従姉妹と幼なじみのお姉さん待ってるんです!」
ぴしゃっと言ってやる。さっきのひなみたいに、睨みつけてやればいいのだろうけど、俺は、恐くて出来ない。
「 いーじゃん。スマホか携帯無いの?それで連絡しとけば ねっ」
「 持ってないし、遊ばんよ」
「 俺の貸したげるし、行こうよ」
「 いやー、行かんってば」
強引に手を引っ張れられる。痛い。抵抗するけど、力に差がありすぎて無理だ。
「 おい、何やってんの?」
振り返ると、知らない学校の制服を着た少年がいた。怒ってる訳じゃないんだろうけど、身長が高くて、がっしりしてるせいか威圧感があるんだ。
「いや別に」
「 ふーん、さっきこの娘、いやーって叫んでたよな? それでも、何もしてないってシラきるわけ? 警察呼ぼうか?」
「 ちっ」
分が悪いと思ったのか、ナンパ男は去って行った。
「 大丈夫?」
「 大丈夫です、ありがとうございました」
そこに、騒動に気づいた雫ちゃんが、すっ飛んできたんだ。
「 林原先輩、すみません。私の従姉妹助けて下さって」
「 雫の従姉妹か。一人にしとくなよ、危うく連れ去られるとこだったぞ」
「 すみません、夕陽お礼言った?」
「うん」
俺は、改めて、林原先輩と呼ばれた人を見る。身長は、185センチくらいだろうか? 俺が男のままだったら、このくらい身長欲しかった。あと顔、女顔だったから、林原さんみたいに、男らしい顔だったら良かったのに。
「 ケガとかしてない?」
「 大丈夫です。本当にありがとうございました」
「そっか、もうナンパ男に捕まるなよ」
林原さんは、そう言って去って行った。
これが、俺と林原さんとの出会いだった。




