番外編 私とおにゃんこさん。あと仁の馬鹿と
更新遅くなってすみません。
ひな視点。時間軸は、ひなが、夕陽の誕生パーティー抜けた時の話です。
夕陽の誕生パーティーの途中だけど、私は、おにゃんこさんを連れて、近くの公園までやって来た。
公園のベンチに座り、おにゃんこさんに話かけてみる。今誰かに見られたなら、100%頭大丈夫って、思われるだろうな。
だけどそうやって、夕陽が林原さんの彼女になったという事実から、逃げたかった。
林原さんから、夕陽の誕生日パーティーの事で相談受けた時も、実は嫉妬心で一杯だったんだ。
二人の前で平気ふりしてても、やっぱりまだ私は、吹っ切れてなかったみたいだ。
「 ねぇ、おにゃんこさん。あいつら、上手くやっとるかね?」
「んなーんななん」
「 大丈夫だって?」
「 んなん」
「 おにゃんこさんが、そう言うなら、大 丈夫か」
「 んなな」
それにしても、このお猫さま、本当にお猫さまかね? 人の言う事理解してるみたいだし、「 んな 」って鳴き声で会話しとるし。どっかにジッパー付いてるんじゃない? そこ開けたら小さいおっさん出てくるんじゃない?
私は、そんなお馬鹿な思考にとりつかれて、おにゃんこさんの背中や頭を撫でまくってた。
おにゃんこさんは、私が無遠慮に触りまくっているのにも関わらず、嫌がる様子もない。それどころか、笑ってみたいな顔して、喉をゴロゴロと鳴らしてるんだ。
おにゃんこさんを触ってると、ふと中2の夏休みの事を思いだした。
ジージーとセミの鳴き声が聞こえる中、私と夕陽は、縁側に座って話をしてた。
夕陽は、4月からお父さんの転勤で、この広島の田舎町からよその県の街に引っ越したんだ。
お盆という事もあって、昨日からこっちに戻ってきてる。
「 ひな、猫がなんで喉をゴロゴロ鳴らすか、知っとるか?」
「 知らんよー。なんでなん?」
さっきまで、お互いの近況を話してたのに、急に猫の話になるんだろ?
「 嬉しかったり、幸せな時に鳴らすんじゃと 」
「 ほうなん 」
「 現に、タマも喉をゴロゴロ鳴らしとるじゃろ。久しぶりにお前にかまって貰えて嬉しんよ。なっタマ 」
夕陽の呼びかけに、私の膝に乗ってる夕陽の家のおばあちゃん猫のタマは、『ニャーン』と答えてる。
「そういや、タマみたいに、俺に会えて、喉をゴロゴロ鳴らしとるやつが、一人おるのお( いるな)」
一瞬誰の事を言ってるのか、分かんなかった。けれど、夕陽のニタニタ笑ってる顔を見たら分かったよ。
「 ウチを猫と一緒にせんといてくれる。(しないでよ)別にあんたに会えたからって、嬉しい訳ないじゃろ」
違う。本当は嬉しいのに、なんでこんな事言っちゃうかな。絶対に夕陽、追及してくるか、怒るかするかも。
「 ほうなん。まあ、そういう事にしといちゃろう」
あれ、追及してこないの? まぁいいか。明日には、また向こうへ戻るんだもんね。つまらない喧嘩したくないし、素直じゃない私の事だから、夕陽に謝るなんて事しないし。そしたら、次会う時まで、気まずいなんて事になるの嫌だしね。私は、そう納得したのだった。
「 ひな、おーい、ひな。こんな所で寝なや」
「 夕陽?」
「 何寝ぼけとん? 夕陽じゃのうて、俺! 仁じゃって ( 仁だって)」
「 ああ、なんじゃ仁か。夕陽と声そっくりなけぇ間違えたわ」
「 …… あっそう 。それよか、戻らんでええんか? 夕陽が、ひなとおにゃんこさんが帰ってこんって、電話してきたけぇ、探しみりゃ、おにゃんこさん抱えて寝とるし」
「 そりゃ、すみません。うわ、一時間も経っとるし」
なんで、仁がこの街にいたのか、訊かない。どうせ、夕陽の誕生日パーティーの事を知って、わざわざ中島市から電車でやって来たに違いない。――最初は、夕陽の兄貴なんてありえんって、言ってた癖に、なんだかんだ言って、シスコンじゃないか。
なんとなく、仁の後ろを歩きながら、そう考えてた。
「 あれ、入らんの?」
「 入らんよ。パーティーに呼ばれとらんし。お前が、出てくるん待っとる」
「 そう。おにゃんこさん戻したら、すぐ出てくる」
私が、戻ると、イチャイチャしてらっしゃる二人がいた。でもなんでかな、さっきまでなら、若干イラついた気持ちになったんだけど、今はそんな気持ちに全然ならない。
私がいる所じゃない。早く仁の所へ行かなきゃ。なぜかそう思ったんだ。
私の存在に気づいた二人に、謝罪しついでに、夕陽の事をからかってから、そそくさと、仁の所へ戻った。
「 ごめん。仁!帰ろ」
「 あっうん」
私は、自然と仁の手をつないでた。仁は、一瞬戸惑ってたけど、何も言わずに、駅に着くまで、私の手をつないでてくれた。
さよなら、私の初恋の人。ちゃんと、幸せになれよ。




