34 バレンタインじゃー。その1
1月も終わるそろそろ終わるという頃、クラスの女子の間ではある事が話題になっていた。
「 ねぇねぇ、今年のチョコどうするぅ?」
「 やっぱり手作りかな」
「 夕陽は、どうするの?」
「 えっと、何の話?」
俺の一言にシンっとなる皆。なんかまずい事言ったかな? 皆の視線が冷たい。
お前、忘れれちゃいけねぇ物忘れてんじゃねぇよ的な声が、聞こえきそうなんですが。
俺の一言でシンッとなった空間を打ち破るように、はあ~あってため息をつく香澄が一言。
「 バレンタインよバレンタイン! 女子なら常識よ!」
香澄に力説されてしまった。あー、そういやそんなイベントありましたっけ。
女子しかも彼氏がいるのに、忘れれちゃいけないイベントだ。
「 バレンタインかあ。忘れとった」
「 忘れてたぁ?! 夕陽、あなた彼氏がいるんでしょ? 忘れちゃいけないじゃない」
「 ソウデスネ 」
香澄の他に数人の女子に囲まれて、コェーっす。――だって、男だった頃、チョコなんかもらった事ないだもーん。唯一もらったといえば、保育所時代に、ひなから、近所の駄菓子屋で買った十円のチョコ一つくらいだ。『 あげゆ 』ってもらったんだよな。バレンタインの意味なんぞよく解ってない頃の微笑ましい思い出だ。
「 ソウデスネ、じゃないわよ。忘れてたなんて言語道断じゃない。彼氏に嘆かれるわよ!」
香澄の発言に他の女子も同意してるし。
なんで俺、集団いじめみたいな目に合ってるの? バレンタインの存在忘れてただけなんですけど。
――誰か助けてください。
「 夕陽が、バレンタイン忘れとったん、しょうがないよねー。朝陽っていう超絶シスコンのお兄さんがおるんじゃもん。いい年したおっさんが、小学生だった夕陽に不必要なスキンシップしたり、男の子と遊んだりしてないか、毎日チェックされようたもんねー。バレンタインにさ、友チョコを作ろうにも、本当に友チョコなのか、根掘り葉掘り訊かれて、面倒なけぇ、用意せんなったし。(しなくなったし)ねっ夕陽」
「 あっうん。ほうなんよ。俺の実の兄貴が、シスコンで面倒なやつでさ、大変だったんよ」
「 なんだー。そんな事情があったの。じゃ仕方ないね」
香澄や俺を囲んでた女子達は、アキの嘘話に納得したのか、三々五々離れていった。
アキの嘘話には助かったけど、アキの中における朝陽兄さんの扱いが酷くないか? やたら毛嫌いしてるなとは思ってたけど、いい年したおっさんとか、酷くね? 朝陽兄さんまだ26歳なんですけど。
「 アキ、ありがとう。それはそうと、朝陽兄さんの超絶シスコンという件は、ほぼ事実だけど、おっさんは酷くない? まだ、26だよ?」
「 ウチしてみりゃ、おっさんよ。朝陽兄さんの事はおいといて、夕陽、バレンタインのチョコどうするん?」
「 ついさっきまで、忘れとったけぇね。何も考えとらんよ」
「 じゃあ、ウチと一緒に作る? 」
「 うん。一緒に作る!」
「よかったー。いやぁ、夏樹先輩にあげるけぇ、手作りしようかと思ったんじゃけど、材料買うのに、お小遣い足りんくなりそうなんよね」
アハハと頭をかくアキ。女の子の先輩として、色々アドバイスしてくれるんじゃなくて、金銭面でチョコ作りに誘ってきたのは、アキらしいけどね。
「 夏樹先輩だけじゃなくて、お父さんと兄ちゃんにもあげるつもりだからね。……兄ちゃん一個も貰えんみたいなけぇ、いつもウチが、沢山あげよるんよ。手作りだけじゃなくて、市販のも買うけぇ、毎年出費が痛いんよ」
「 そうなん」
仁のやつ、毎年嬉しげにチョコの数自慢してやがったけど、そんな裏事情があったのか。
「 でも今年は、そんな心配せんでいいんじゃない。ほら、ひながおるし」
「 まあ、そうなんじゃけど、あげんにゃあげんで、ぶりたいぎいじゃん ( すごい面倒なじゃん)『どうして、くれんのん』って、しつこく訊いてくるよ」
「 それもそうじゃね。よし、仁のやつの分もついでに作りますか」
「 じゃ、放課後、早速、商店街のファッションビル行ってみようか」
「 うん」
かくして、俺は、チョコ作りに挑戦する事になったけど、上手く出来るかな。心配だ。




