表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/42

32お正月

1月1日。今日は元日だ。

俺は起きると、パジャマからグレーのパーカーと紺のキュロットに着替えた。

まだ寝息を立ててるアキを起こさないように部屋から出ていく。


「 お早うって、なんじゃこりゃ。」


昨日の夜まで、綺麗だったはずのリビングは、わやくちゃだった。

酒瓶が転がり、さきイカやピーナッツの袋が落ちてるし、飲み明かして酔いつぶれたらしい両親は、ソファーで死んだように寝てるし、昨日の昼から帰省中の仁と一緒に雫ちゃんも、ソファーで寝てる。

一番驚いたのは、ぶちくそ真面目な母さんが、ソファーで酔いつぶれるって事だ。しかもジャージで。――普段は休みでも、ブラウスとスカートを穿いてる人だから余計に驚くよ。


「 あれ、夕陽起きたん?」

「 うん」


仁はいつもかけてる眼鏡を探し当てるとかけた。スウェットの上着に手をつっこんで、ボリボリとお腹をかきながら、あくびなんかしてる。


「 ……おっさんじゃないんじゃけ、やめんさいや」

「 おっさん……ひなや長谷川にも同じ事いわれたんじゃった。やる事がおっさん臭いって」

「 ならやめんさい。モテんくなるよ」


俺と仁は、概ねどうでもいい会話を交わしながら、リビングからキッチンに移動した。


「 おせちは適当に食べていいんよね?」

「 うん。お餅も各自好きな方法で食べてええんよ。夕陽はどうするん?」

「 俺、オーブンで焼いて、インスタントのすまし汁に入れ食べる。」

「 ほうなん、じゃ俺もそうしょ」


俺と仁は、食器棚から皿や祝いばしを出したり、お餅を焼いたりして、食事の準備をした。


「 毎年、お正月ってこうなん?」

「 うん。お年賀には、うちの家誰も来んけぇ、各自好きな時に起きて、好きな時にご飯食べるん。じゃけ、平原の家には、少しだけ顔出したら、すぐに帰りょうたじゃろ。あれね、はよ家に帰ってゴロゴロしたいけぇなんよね。」

「 ほうなん」


俺は、去年までのお正月を思い出す。

仁達は、毎年お年賀に来ても、小一時間くらいで帰ってた。

そんな裏事情があったとは。ちなみに、俺の実家じゃ、早く起きて、皆でご飯を食べると、紫織母さんと隆史父さんは、初売りに行き、俺と朝陽兄さんは、ゲームで兄弟対決を繰り広げてた。


「 まあ、三が日の間は、こんな感じじゃけ、夕陽も好きにしたらええよ」

「 わかった」


さて、どうしよっかな。俺は、頭の中で計画を練り始めた。「 何しよかな」


俺は、自分の部屋に戻るとベッドでゴロゴロしながら計画を立てる。

友達を誘うかと思ったけど、皆旅行や両親の実家に行ってたりするから無理なんだよな。拓人さんも今日は何かと忙しいみたいだから会えないしね。


「 一人で初詣行ってみようかな」


よし、思い立ったが吉日というし、行ってみよ。確か駅の近くに神社あったよな。

俺は、そう思うと、ベッドから起きて準備を初めた。

おめかしって訳じゃないけど、今着てる服はラフ過ぎて、部屋着みたいだから、黒いワンピに着替えた。

黒いワンピにあわせて、ちょっとシックな黒いコートを合わせる。

出かける準備を終えた俺は、リビングでぼへらっとテレビを視ていた仁に、初詣行ってくる事を伝えて家を出た。



「 やっぱり、人多いし」


家から歩いて十分。駅の裏にある神社にやって来た。この近辺で一番大きな神社なせいか、むちゃくちゃ人が多い。その中でもやっぱり家族連れやカップルが目立つ。

俺みたいに一人で来てる人はいないよな。――せめてアキを誘うんだったな。


「 帰ろ」


むなしくなってきた俺は、踵を返して自宅マンションに向かって歩きだした。

コートを着てるはずなのに、寒く感じるのは気のせいかな。


「 夕陽?」

「 んなー?」

「あれ、拓人さん?」


俺が神社から引きかえしていると、拓人さんとおにゃんこさんがいた。


「 夕陽も初詣?」

「 うん、まあ。でも一人」

「 そうなんだ。僕も一人なんだよ。本当なら、親戚の家にお年賀に行くはずだったんだけど、その家の人がノロウイルスにかかったとかで行けなくなったんだ。両親は、初売りに行っちゃうし、妹は妹で、学校の友達の家に行って、暇だから、おにゃんこさん連れて初詣に来たんだよ」

「 そうなん。家は、三が日の間各自好き勝手に過ごすみたいだから、一人で来たんよ」

「 じゃ、僕と一緒に行こうか。」

「 うん」


俺は、拓人さんと手を繋いで歩く。

ちなみにおにゃんこさんは、猫用のキャリーバッグに入ってる。


「 おにゃんこさん、人混み平気なん?」

「 うん。それどころか、自分も出かけれそうな場所だとなぜかわかるらしくて、連れて行けってうるさいんだ」

「へー」


そう言って拓人さんは、神社の鳥井の側でおにゃんこさんをキャリーバッグから出して、おにゃんこさんを抱っこした。

おにゃんこさんは、抱っこされて嬉しいのか、喉をゴロゴロ鳴らしてる。

俺達は、他の参拝客に混じって階段を昇る。

昇りきると、手水で手と口を清めて参拝客の列に加わる。

しばらくして、俺達の番になった。

お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼した。


( 今年一年何事もなく過ごせますように。)


願い事は、去年と一緒だ。ただ去年は、俺にとっても家族にとっても、劇的な一年だったから、強くお願いした。


「 何お願いしたんだ?」

「 今年一年何事もなく過ごせますように」

「 普通だな」

「 でも、去年は、俺やまわりの人にとって劇的な一年だったから、今年こそ何もないように過ごしたいじゃん」

「 なるほど。ちなみに僕は、夕陽とずっと一緒にいられますようにだ。」

「――そんなお願い神様にせんでも、俺はおらんくならんよ。約束する」

「 約束だぞ」


そう言って拓人さんは、俺の小指に自分の小指をからませたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ