番外編 音無雫
音無雫16歳。旭ヶ丘学園高等部 1年。
髪の下まで伸ばした艶やかな黒髪。眼鏡のよく似合う美人。おまけに成績優秀。中等部の後輩から「 雫お姉様」と慕われ、クラスの人や部活仲間はもちろんのこと、高等部の先輩や教師からも厚い信望がある。
――これが、学校における雫ちゃんの姿だ。本来の彼女を見たなら、大半の人は幻だと思うに違いない。
「 雫ちゃん、何読んどん?」
「 BL小説。」
とある日曜日の午後、俺は勉強をしていて解らないところがあったので、雫ちゃんに教えてもらおうと、雫ちゃんの部屋を訪ねたら、ジャージ姿の雫ちゃんが、
ベッドに寝っ転がって小説を読んでいたから、さっきのやり取りなんだけどね。――まさかBL小説とはね。
「 ……面白いん?」
「 面白いよ。今読んどるのはね、男子高校の先輩と後輩の話なんよ。もうね、最高よ。」
「 はあ。そうなん。」
俺の覚めた反応を気にせずに、読んでるBL小説の内容を熱くに語る雫ちゃん。
――そう彼女は、根っからの腐女子だ。
雫ちゃんの力説は、ヒートアップし、ついにはお得意の話が始まった。
「 このBL小説もいいけど、今まこ×つばもはまっとんよね。」
「 まこ×つばって何?」
「 まこ×つばを知らんのん? 今、少年ジャンヌで、大人気の漫画のキャラよ。」
「 俺は雫ちゃんみたいな楽しみかたしとらんもん。」
俺は、そう反論する。ちなみに、まこ×つばいうのは、マコトとツバサという少年漫画のキャラのカップリングの事。
少年漫画の男キャラのカップリングについて語る事が彼女は一番好きだ。
それだけでは飽きたらず、同人サークルに入って、薄い本を作って販売してる。
「 ねっそういやあのノートって何が書いてあるん?」
俺は、ふと、雫ちゃんの机に置いてあるノートが気になり訊いてみた。
だってノートの表紙に『 マル秘ネタ』なんて書いてあるだもん。
「 あっこれ? イベント用のネタよ。」
「 ふーん。見ちゃ駄目?」
「 駄目! これは絶対に駄目!」
雫ちゃんは、思いきり拒否した。――怪しい。俺は、そう思うと、食い下がってみる。
「 ええじゃん。減るもんじゃないんじゃし、見してや。」
「 ううっわかったよ。見せりゃええんじゃろ、見せりゃ。」
雫ちゃんは、しぶしぶ俺にノートを見せてくれた。
俺は、ノートを見て絶句する。
中にあったのは、隠し撮りされたであろう写真。写ってるのは、仁と俺。但し、転生前の俺。そしてその脇には、じん×ゆうの文字。
「――雫ちゃんこれ。」
「 じゃけ、見せたくなかったんよ。仁とあんたをモデルにして、小説書きようたん。」
「 あっそうですか。」
BL好きもここまできたらすごいよ。
よもや、自身の双子の兄といとこの絡みまでネタにするんだから。
しばらくして、仁と俺をモデルにして書いた小説が物凄く売れたと判明するのは、別の話だ。




