3 お風呂とあの日の話の続き
今、ひなと洗面所兼脱衣場にいます。隅っこで、ひなに背を向けて、Tシャツを脱ごうか脱ぐまいか、悩んでます。
「 何しょうるん?(何してるの)早く脱ぎんさいや」
「 脱ぎます。脱ぐから、こっち見ないで」
女の子になってから、一ヶ月は過ぎてるけと、他人の前で裸になった事ないんだ。 恥ずかしいんだよ。
俺は、そんな事を考えながら、Tシャツの裾をまくったり、下ろしたりしてたら、ついに魔の手が伸びてきた。
「 ひきゃあ!」
「 とっとせんかい!早く脱ぎんさいって、言うとるでしょうが! 」
ひなの手によって、キャミソールごとTシャツを剥ぎ取れた。下の短パンもパンツごと剥ぎ取れたよ。
「 うー」
あっという間に、素っ裸にされた俺は、ひなを恨みを込めて、見上げる。無言の抗議だ。
だけど、ひなは、俺の抗議を軽く受け流した。
「 半泣きになる位なら、とっと脱げばいいんよ。モタモタしとるけぇ、私に身ぐるみ剥がされるんよね 」
うう、ひなには敵わんし。こんな事なら早く脱げば良かった。
ひなに続いて、お風呂場に入る。さっきも思ったけど、ひなの体って綺麗だ。
身長は、165・5センチだったと思う。
本人は、背が高いの気にしてるけど、手足は長いし、腰も適度にくびれてるし、お尻も大きい。
クラスの奴らから、ブラックホールひなという、不名誉なあだ名を賜るくらい大食いなのに、全然太ってないから不思議だ。
バシャリ。
「 ひきゃあ! 何するんよ~いきなり!」
ひなの体をマジマジと観察してたら、いきなり頭からお湯かけられたし。
「 あんたの頭洗ってあげるんよね。この家シャワー無いけぇ、洗面器でお湯かけたん」
「 じゃけ言うて、いきなりお湯かけんといてや!」
「 ん、ごめん」
ひなは、口先だけで謝ってきた。心から反省してないのは、顔を見たら分かる。
――なんか眉間にシワがよってる。不機嫌だ。どうしてだろ?
俺が、そんな事を考えてたら、ひなは、先程の乱暴な行いとは違い、優しく丁寧に、髪を洗ってくれる。
「 どんな? 気持ちいい?」
「 うん 」
ひなは、マッサージするように洗ってる。 こうやって洗いんさいよって事なんだろう。口で説明するのが、苦手なひならしいけど、ちょっとくらい説明してくれても、いいんじゃないかな。
その後、シャンプーを流して、コンディショナー トリートメントと続く。
男だった時は、シャンプーで洗っておしまいだったけど、女の子ってここまでするのって、大変だな。
「 次、体の洗い方教えてあげるけぇ、自分でやって 」
「うん 」
ひなは、お風呂場の隅にかけてある小さな網状の物を持ってきた。
「 これ何?」
「洗顔フォームを泡たてるやつ。でも私は、こうやって、ボディソープを泡たてるのに使ってる。ほら、こうやって、ふわふわの泡にするん。でっ、この泡を手で付けて洗うんよ」
「なんか、タオルでゴシゴシ洗った方が、しっかり洗える気がするけど」
「 まあ、そうなんじゃけど。でも、ひどく擦ったりせんほうが、ええんよね。皮膚が弱いなら、この方法がオススメ」
「ふーん」
「 とにかく、やってみ」
「 うん」
とりあえず、ひなに教わった通りに、洗ってみるけど、なんか物足りないな。
まあ、異世界じゃ、お風呂が無くて、水魔法で体綺麗にしてたから、お風呂入れるだけましか。
一通り洗い終えて、お湯で、泡を流してると、後ろから、魔の手が伸びてきた。
「ひきゃあ! もう、今度は何~?」
「 いや~、胸の感触確かめとこ思うてね」
「 意味わからんし」
俺は、ひなを引っ剥がしながら、息をついた。
お風呂入るだけなのに、なんでこんなに疲れるんだ。これも、ひなの乱暴な行動のせいだ。
色々な意味で疲れるお風呂を終え、髪を乾かした俺は、ひなの部屋に戻って、ぼへーとしてた。
服部兄妹が住むこの家は、築40年の平屋だ。間取りは、台所洗面所兼脱衣場とお風呂 茶の間 それと、茂兄さんの部屋とひなの部屋だけ。
だから、ひなの部屋に寝るしかないんだ。この部屋六畳だから、ここに俺がいるのは申し訳ないなと思う。
「 夕陽、開けて! 布団持っとるけぇ、開けられん」
俺が、襖を開けると、ひながドサリと布団を置く。
「 私の布団で、二人も寝るのキツイけぇ、パパとママが泊まる時用の布団を茶の間から持ってきた」
「 えっいいのに」
「 暑いのに、二人でくっついて寝るの嫌よね。ああもう、寝るけ、エアコン切って」
「 わかった 」
俺は、ひなの枕元に転がってるリモコンで、エアコンを切る。
ひなは、窓を開けて、扇風機を付けてタイマーをセットしてる。
今は、7月半ばで暑いんだけど、この辺は、夜半を過ぎると、寒く感じる事があるから、こうやって寝た方がいいんだ。
布団を敷くと、お互い背を向けて、横になる。
ひながリモコンで、照明を落とした。
「 じゃおやすみ」
「 おやすみ」
俺は、目を閉じるけど、一向に眠気が来ない。まいったな。疲れてるのに。
もぞもぞと寝がえりをうつと、ひなが、声をかけてきたんだ。
「 夕陽、起きとる?」
「 うん、まあ」
ひなは、もぞもぞと俺の方へ体を向けた。
「 あのさ、あんた事故に逢う前の日、私に話があるって言うとっじゃろ?」
「 ああ、うん」
俺は、記憶をひっくり返して思い出す。
確か、ひなに告白するつもりだったな。今となっちゃ無意味だけど。
「 あんね、ウチも話があったんよね。ウチは、平原夕陽が好きでした。以上」
ひなは、昔使ってた一人称を使って、早口で告白してきた。過去形で
「俺も、服部ひなが好きでした」
「 あっそ、じゃ、おやすみ」
素っ気なく、ひなは、そう言うと、頭からタオルケットを被ってしまった。
「 おやすみ」
俺も、タオルケットを被って、背を向けた。目を閉じて、眠気の訪れをまつ。
暫くして、うとうとし始めた俺の耳に、すすり泣く声が聞こえたのだった。




