21 あります
「 夕陽の全てを受け止める覚悟はあるんか?」
「 あります。」
隆史父さんの問いに真剣な目で答えた拓人さん。
隆史父さんは、拓人さんの答えに満足層に頷いた。
「 ならええ。きみにまかせるわ。夕陽の事頼むで」
「 はい」
なんか娘さん下さい的な展開なんだけど。まあ、いいか。
「 夕陽。」
「 へっ何?」
紫織母さんが俺を呼ぶ。ボーッとしてた俺は返事をすると、紫織母さんが苦笑いしながら俺を手招きする。
どうしたんだろ?
「 夕陽。一つ訊くけどあなたこの家で暮らすの? それとも今まで通りあっちで暮らすの?」
……やっぱり、避けて通れない質問が来たか。でも、俺の答えは、もう決まってる。
「 あっちで暮らすよ。だって、男子高校生だった平原夕陽はこの世にはいない。
今いるのは、中学生の音無夕陽。俺は、今の場所で生きてく覚悟を決めたんだ」
紫織母さんの顔は、どこか寂しそうで、だけど、晴れ晴れとしてるような。そんな不思議な表情だった。
「 そう。ならいいわ。あなたが決めた事なら、私は応援してるからね。……でもたまには、顔見せに来なさいね」
「 うん。わかった」
拓人さんと隆史父さんも話が終わったみたいで、俺のところに戻ってきた。
母さんが、そろそろおいとましましょと言ったので帰る事になった。
俺達は、二人に挨拶すると母さんの車に乗り込むと車が平原家を離れていく。
――隆史父さんと紫織母さんは、俺達が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
永遠に会えなくなる訳じゃないけど、なんか寂しいな。でも、こうやって再会する事で、俺の中で、一つの区切りがついて良かったかもしんない。
「 母さん、拓人さん。俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。」
「 別にお礼言われる事じゃない。むしろ良かったよ。夕陽の本当の家族に会えてさ。」
「 そうなん」
「 あの時の林原くん格好よかったわよ。羨ましいわ。夕陽。あんな事言ってもらえるなんて。」
「 俺も嬉しかったよ。あの言葉。」
「 ああ言われたら絶対言おうって思ってたからね。」
拓人さんは恥ずかしいのか下を向いてそう言ってる。
母さんは、運転をしながらため息をついて、再び同じ事を言う。
「 本当に羨ましい。それに比べて、うちのちゃらんぽらんの旦那ときたら、あんな事なかったわ。兄さんがさっき林原くんに言った事と全く同じ事を言ったのに、へらへら笑いながら言いやがったのよ! 瞳子の全てを受け入れますって。信じられない。」
「 父さんらしいね。普通は笑いながら言えるセリフじゃないよね。」
「 確かに」
そんな会話を交わしてる内に、緊張の糸が切れたのか俺はいつの間にか眠ってしまった。
「 ……陽!夕陽!起きろ、着いたぞ」
「 んにゃ? はあ着いたん? 」
拓人さんに揺り起こされて目が覚めた俺。頭を拓人さんの肩を預けてたみたいだ。
「 よく寝てたな。ほらヨダレ」
拓人さんは、笑いながら口元を指差す。
俺は、あわててヨダレを拭う。
ヨダレを拭いた俺が拓人さんの方を見ると、スマホで拓人さんは何か見ていた。
「 何見よん?」
「 夕陽の寝顔」
笑顔で俺に向けた拓人さんのスマホには、俺の間抜けな寝顔が写っていた。
拓人さんは可愛いと言ってるけど、女の子としてはちっとも嬉しくないぞ。
「 はにゃー! いつの間に撮ったんねー。消しんさいやー!」
「 嫌だよ」
俺は、車から降りると、逃げる拓人さんを追いかけた。
そのあと画像は消させたけど、拓人さんはちゃっかり自宅のパソコンや雫ちゃんに送ったりして画像をキープしていた。
しばらく雫ちゃんにからかわれたり、拓人さんが、こっそりと待ち受けにしていた画像を発見したりする事になる。




