16 母親の気持ち
「 夕陽本気?」
「 うん。本気だよ。」
「 そう」
母さんは、俺を抱きしめた状態でだまりこんでいた。
心なしか、さっきよりきつく抱きしめられてる気がする。
俺の唐突な提案に、戸惑っているというか、動揺してるのかな。
母さんの不安な気持ちが、母さんの体ごしに伝わってくるんだ。
沈黙に耐えきれなくなった俺は、母さんに話しかけてみる。
「 母さん?」
「 ごめんなさい。考え事してボーッとしてたわ」
「 何の事考えようたん?」
「 いやね。隆史兄さんや紫織義姉さんにあなたを返してって言われたらどうしよっかって思ったの。」
「 えっ嫌だよ、俺は、ここにおりたいよ」
母さんの思わぬ一言に、戸惑って本音が出でしまう。
俺は、今の環境で生活していく覚悟を決めた。だから、本当の家族の元に戻る気は、一切ない。
本当の家族が嫌いな訳じゃない。今でも、大好きだ。
本当の家族の元に戻る気は、無くとも、せっかくこちらに戻ってきたんだ。元気で頑張ってるよと、伝えたい。
母さんは、俺の思いに気づいたのか、自分の気持ちを吐露し始めた。
「 そりゃもちろん、物じゃないからね。返してくれって言われても、はいそうですかって訳にはいかないわ。でもね、紫織義姉の気持ち考えたら、返せなきゃ駄目かなって思うの。だって、お腹を痛めて産んだ子だもの。どんな形であれ、我が子に会えて嬉しくない母親は、多分いないと思うの」
「あー、ほうじゃね」
俺は、自分の事しか考えてないな。親なら、我が子に会えて嬉しくないはずないのに。本当の母さんが、夕陽を見て、一緒に暮らしたいって思うかもしれない。
「 夕陽が家族に会いたいって気持ちは、わかる。でも、1人で行くのは、やめてほしいの。母さんと一緒に行くのは、駄目かしら?」
「 ええけど、なら拓人さんも一緒じゃ駄目?」
「 それは、林原くんと話しなさいな。私は、どちらでもいいわ。」
「 ほいじゃ、明日にでも、話しようっと、」
「 好きになさい。」
母さんは、呆れてそう言った。
話が終わったから、俺は、自分の部屋に戻る事にする。
さっきまで、忘れていた生理痛が襲ってきたからだ。
母さんから、俺の年齢でも飲めるという市販の鎮痛剤をもらってから、ベッドに横たわった。
ベッドの中でうつらうつらしながら、拓人さんにどう切り出そうか考えていたら、そのまま眠りについたのだった。




