1 戻ったら幼なじみの部屋にいました。
以前連載してた物です。
「 ユウヒさん、忘れないで下さいね。」
「 うん、わかっとる」
俺、平原夕陽は、異世界に転生したんだけど、ある理由から日本に戻る事になったんだ。
パーティーを組んでたユリカと別れの挨拶を交わしてると、契約聖霊のそらが急かしてきた。
「 夕陽~、早くしないと扉がしまっちゃうにゃ~。」
名残惜しいが、神様が作った扉をくぐらないと、日本へ戻れない。もう一度、ユリカと挨拶をして、俺は扉をくぐった。
「 夕陽~、起きるにゃー、そらお腹空いた~」
プニプニと頬つつく感触で、目が覚めると、お座りしたそらがいた。
異世界じゃ羽の生えた真っ白い猫だったけど、こっちじゃ真っ白い普通の猫らしい。――喋れるけど。
「 ここどこじゃろ?」
俺は、寝かされてた布団から体を起こして、周りを観察した。
六畳程の和室だ。部屋の隅には、学習デスクと本棚が置いてある。
待てよ、ここ見たことあるな。誰の部屋だっけな?
必死に思い出そうとしてたんだけど、疑問の答えにたどり着く前に、ガラリと襖が開き、部屋の主が姿を表す。
「 夕陽、やっと起きたんね。」
「 ひな……」
俺の幼なじみが、まなじりをつり上げて、立っていた。
彼女の名前は、服部ひな。肩まで伸ばした黒髪と猫のようなつり目が特徴の女の子だ。
そのひなは、どかっと俺の脇に正座すると、状況説明をしてくれた。
「 学校から帰ってきたら、死んだはずのあんたが戻ってきとんじゃけ、びっくりよね。 しかも女の子になっとるし。」
「 うっ」
そう俺は、子供を助けようとして、車にひかれて死んだ。
その後、ネット小説のテンプレ通り異世界転生――かと思ってたら、俺の場合少し事情が違った。
神様の話だと、死んだ人間のリストをパソコンでチェックしてる最中に、居眠りしてしまって、本来やるべき手続きを踏まずに、俺が異世界転生を望み、転生後は、女の子として生きる事を希望した事になってたらしい。とってもふざけた話だが、決定が覆らないから、仕方ない事なんだとよ。
とまあ、俺の事情説明終わり。今は、目の前の幼なじみ様の相手だ。
「事情はそこの猫さんから聞いた。そらの話じゃ、色々無茶して死にかけたんだって? 」
「 うん、そうです」
俺は、住んでいた町がモンスターの襲撃を受けた事。その際、たった一人でモンスターに立ち向い、その結果、大怪我で死にかけた事。神様にお詫びにと与えられたチート能力を使用する事で、せっかく異世界転生しても、死にかけては無意味だと言う事で、神様によって、日本へ戻る事を提案され、俺は、その提案を飲み、日本へ戻ってきた事を説明した。
ひなの眉間に深くしわがきざまれてる。
体がぷるぷると、震えてるし。――ヤバい、ひな火山が噴火する。
「 あんたーね。何考えとん!
こっちで、他人助けて死んだのに、こりずに異世界でも、他人助けて死にかけるってどういう事よ! 普通人は、いっぺん死んだらやり直しきかんのよ! ……もう二度と無茶せんて、約束しんさい!」
やっぱり噴火したよ。 耳鳴りしてるけど、早く謝ったほうが、身の為だ。
「 ごめんなさい、二度としません。」
「 わかりゃええんよ、わかりゃ」
ひなが、フンっと鼻息を鳴らして、沈黙した所で、そらが喚き始める。
「 夕陽ー、お説教おわたー? そらお腹すいたにゃー、ご飯ちょーだい」
このマイペースにゃんこめ。ぎゃあぎゃあ喚くなよ。ひなの家に、にゃんこのご飯があるわけないだろうが。
俺の気持ちを察した訳じゃないだろうけど、ひなは、そらを抱っこして説明してやる。
「 もうちょっと待っとってね。今、私の兄さんが、猫さん用のご飯買いに行ってるからね。」
「 わかたー。そらいい子して待ってるにゃー」
そらは、ひなの腕から下りると、ゴロゴロとし始める。
「 あっねぇ、茂兄さんに、俺の事話したん? 」
「 話すもなんも、私と一緒にあんたを発見したんじゃもん。あと、念のために、医者に診てもらったほうが、ええかなって思ったけど、今のあんた戸籍無いし、保険証なんかも無いじゃん。じゃけ、瞳子さんに連絡して、呼びに行ってもらっとる。」
「 あっそうなん」
ひなの言う瞳子さんとは、俺の叔母さんで、職業は医者だ。
ひなの家族とも付き合いがあるから、連絡とか出来るんだろうけど。
「 まさか、俺の事話しとらんよね? いくらなんでも信じんじゃろ?」
事故で亡くなったはずの甥っ子が、よみがえってます。しかも女の子です。なんて話信じる人いないと思う。
「 しとる訳ないじゃん。とりあえず来てもらえば分かるって説明しとるわいね。」
「 そうだよな。」
ホッとした俺は、急に尿意を催した。
「 ごめん。トイレ行きたくなった。トイレどこ?」
「 廊下出てすぐ右 まさかと思うけど、立って用たさんよね?」
「 立ってするわけなかろう。女の子になって、1ヶ月は過ぎとんでよ。」
「 冗談じゃし、はよ行かんと漏れるよ。」
「わかっとるわい。ひなの馬鹿!」
俺は、立ち上がると、違和感に気づく。
目線がいつもより低い。そういや、着せられてるTシャツもぶかぶかだ。
「 なあ、今の俺身長どのくらい?」
「さあ、測ってみんとわからんけど、145センチくらいかね。」
マジで? 異世界で測った時は、158センチはあったはず。約15センチは縮んだ事になる。
「 どしたん? 黙りこんで?トイレ行ってきんさいや」
「 うん」
俺は、部屋を出て、トイレに向かった。
この時の俺は、身長以外にも変化が起きてる事を知らなかった。




