出会いの後
「……なんなんだ、あの女。」
海が綺麗ですね、と俺に言うだけで特に会話をすることもなく
日が昇り始めた頃、女は去っていった。
挨拶もなく、名前を言うわけでもなく、ただ海に対する感想を述べただけ。
ちなみに言うとシーズンオフのこの海岸は、海藻やら漂流物がそのままで、お世辞でも“綺麗”だなんて言えないのだが、どこを見て綺麗だと思ったのだろう。
不思議な邂逅をはたしたけれど、二度と会うこともないだろう、出会いとはそんなものだと思った。
しかし、不思議と脳裏にあの女の顔が刻まれていて離れない。たしかにインパクトのある出会いをしたが、 特別覚えやすい顔をしていたかと言われれば反応に困る。強いて言えば、幼い顔立ち。
この時間に海に来るとなると、年齢は自分と変わらないくらいではないだろうか。
そう考えると、年齢の割に、と言う意味で印象深くなるのは仕方ない。
理屈をつけて、仕方のないことだと自分に納得させながらさざ波の横を散歩する。
潮風が肌を刺すような冷たさをもつ時期は、人とここで会うこともなく、散歩にはうってつけで、寒さが脳を覚醒させる。帰って暖をとりたくなるけれど、このうっすらと見える海の景色がお気に入りなのだ。
あと少し、あと少しと自分に言い聞かせながら散歩し、帰宅した。