プロローグ1
ザァァァ……ザァァァ……と繰り返し聞こえる波の音
真夜中の海には明かりもなく、目が慣れてきたといえど、足元さえ暗く、捉えることは難しい。
遠く、海を照らす灯台が見えるものの、自分の姿を映すことはない。
一歩一歩、ゆっくりさざ波の方へ近づくと潮風が爽やかな香りを運んだ。
波打ち側手前で歩みを止め、体全体で風を受け止める。
深呼吸をして、はいいっぱいに潮風を吸い込んだ。
見上げた空一面は、星空が広がっている。
あの頃と変わりなく、一番光る星はなんだっただろうと思い出そうと試みて─彼女の顔が浮かんだ。
瞳を閉じて、思い出す。
華奢で、可憐で、あどけなさの残る顔立ち。
幼さとは裏腹に遠くをみつめる瞳は 憂いを帯び、すべてを諦めたような哀愁を秘めていた。
かわたれどきの、すべてが青の世界の中
何を語るでもなく、静かに、浜辺に佇んでいる彼女の頬を、冷たい風が頬を撫ぜる
肩で揃えた黒い髪を耳にかけて、こちらに振り向くと、波に消されるかのようなか細い声で呟く。
「海が、綺麗ですね」
彼女は悲しそうに笑って、一筋の涙を零した。
これが彼女─五十海 渚との出会い
あの日、この場所でのこと。