『妖婆 死棺の呪い』
今回の映画も前回同様にホラー映画からの一本。この映画も数十年前から見たかったのですが、数日前にようやく手に入れ見る事が叶った映画。
制作は結構古いです。なんと、1967年のソビエト連邦初のホラー映画なのですよ。
ロシアじゃないよ。崩壊前のソ連だからね。ここ大事。
数十年前、まだ幼かった私は、関西の某ローカル局のお昼の洋画劇場(当時は午後2時ごろに良く放映していた)で、初めてこの映画を目にしたのである。以来、詳しい内容は忘れたが、ずっと心の底に引っ掛かっていたのだ。今回、なろうで執筆するにあたって、色々と調べてみると意外とあっさりネットショップで見つかった。
映画のタイトルすら忘れていたのに、うろ覚えの内容(殆どは忘れていたが)で探してみると、わたしのような人が沢山いたようで直ぐにタイトルは分かった。
皆さんも私と同じように、記憶の底に引っかかっていたようで、あれって嫌ですよね。喉元に何かの刺が突き刺さってる感じがして。それが今回は取れて、すっきりと気分よくなれました。
しかし、考えてみると、今の世の中は便利になったものですよねぇ。大概の事は、ネットで検索すれば分かってしまうのだから。わたしの若い頃には、考えられないことです。
んな訳で、「なんだよ、これなら早くネットで調べれば良かったよ」と、今回の執筆に繋がった訳ですな。
けど、この映画がソ連製だったとは。しかも初ホラーだったとは……まぁ、ソ連初というのも、DVDを購入してから分かったんですけどね(付属の小冊子に載ってた)。
しかし思い出すと、その当時は東西冷戦の真っただ中。キューバ危機なんかもあって米ソが睨み合い、マジでヤバかった時代。直接的な戦闘はなかったけど、 世界の各地で米ソの代理戦争なんかも起きていた。有名なのでも、某半島からベトナム、アフガンと、湾岸から今の中東まで加えると、アメリカって国はずっと戦争を続けていた超が付くほどの戦闘国家だったと思う。その反動か、近頃は世界を引っ掻き回してた癖に「もう、世界の警察は嫌だ」とか、随分と身勝手な言い種で変な男が大統領になってしまった。
対するソ連も、英国の首相チャーチルが「鉄のカーテンが下ろされた」と言ったように、情報を隠して随分と好き勝手にやってたようだ。
だから、私の子供の頃はソ連の情報など殆ど入ってこなかったはず。大阪万博のソ連館が意外と人気だったのも、あまり知られていなかったからだと思う。
そうそう、北海道にミグ戦闘機が飛来して、パイロットが亡命して日本中が驚いたこともあったっけ。
今の某半島の北にある国と同じように、いや、それ以上に情報が流れてこなかったような気がする。
当時のソ連では完全な社会主義のもと、職業はもとより娯楽などの生活にまで徹底した統制が敷かれていた。それは、芸術全般にまで言える事だったのだ。
映画の製作も国営の「モスフィルム」。当然、芸術性の高い映画しか作られず、ホラーなどとんでもないと言われてた時代なのだ。それが何を思ったのがホラーを製作した。
それが今回の『妖婆 死棺の呪い』(付属の小冊子によると19世紀のロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリの「ヴィイ」にもとづく文芸映画ということで許されたらしい)
私がテレビで見たのは70年代に入ってからだと思うのだが、よく日本で放映されたものだと思う。
あ、でもよく考えると、ソ連時代の「モスフィルム」製作の映画も、よく世界に発信されてたか。多分、外貨獲得のためだったのだろうけど。有名どころでは「ソラリス」とかは、私も見てたな。
そうそう、日本の映画界ともそれなりに交流があったはず。日本映画界が斜陽に傾き、あの黒澤明監督が絶望して自殺騒ぎを起こしたとき、それを救ったのが「モスフィルム」だった。そのとき、モスフィルムの下で撮った映画が「デルス・ウザーラ」(まだ未見)だったはず。そう考えると、日本のお茶の間で放映されていたのも不思議ではないか……って、また前置きが長くなってしまってすみません。
で、この映画のあらすじは。
場所は中世のロシア。神学校の生徒である青年ホマーが、休暇中に帰省することになります。途中で、ある農家に宿を求めるのですが、出てきたにはいかにもといったお婆さん。ですが、このお婆さんが実は魔女だったのです!
この後、魔女が強引にホマーの背中にしがみつき、空飛ぶほうきならぬ空飛ぶホマーで大空を駆け巡ります。
このシーンはあれですよ。ドリフとかでもやってたあれ。スタジオ撮影で、周りに映像を流す昔懐かしの特撮技術ですよ。
いやあ懐かしい。
曲調もちょっと明るいし、ホラーというより完全にファンタジー。
ようやく地上に降りるのですが、隙をみてホマーが魔女をボコボコにフルボッコのたこ殴り。
さっきがファンタジーぽかっただけに、主人公のホマーがすげぇ悪者に見える。
それに、魔女もすげぇ弱っちいぃ!
で、動かなくなった魔女を見てみると、不思議な事に美女に大変身。
この女優さんはナターリア・ヴァルレイて名前の人だけど、大変綺麗な人で、子供の頃見たときは綺麗過ぎて怖かった記憶があります。でも、もう50年も前の映画。生きてても、もう本当にお婆ちゃんですね。
その後、ホマーは学校へと逃げ帰ります。しかし逃げ帰った学校には、近くの有力者の娘が危篤でホマーに臨終のときの祈りを頼みたいと依頼がきたのです。しかも、寄付をもらった学校からは断ることは認められず、強制的に連れていかれるホマー。
ですが、到着すると、危篤だった娘さんは既にご臨終のあと。
娘さんを誰かがボコボコに殴って、それがもとで亡くなったと、父親が嘆いていました。しかも、その犯人が分からないと。
ここまで説明すると、もう分かりますよね。
そうです。あの魔女が娘さんだったのです。ホマーが呼ばれたのも、娘さんが死ぬ前に指名したとのことでした。
で、娘さんの願いということもあり、村にある教会の中で彼女の遺体に祈りを捧げることになってしまいます。しかも三日間。夜になると鍵までかけらてしまうのです。
父親からは逃げたら怖いよおと脅され、村人たちにも監視される三日間。断ることも逃げ出すこともできず、渋々引き受けるホマー。
そして、恐怖の三日間が幕を開けるのでしたぁ!
初日は、とつぜん娘さんが目を開け、棺から起き上がりうろつき回ります。
ゾンビ状態?
でも、花で作った冠を頭に載せて動く姿は、どこかユーモラスで可愛い。小さい頃見たときは怖いと思ったんですけどね。
で、ホマーはというと、白いチョークで自分の周りに円を描きます。
その中で祈るのですけど、これが結界みたいになって、娘さんはホマーの姿も見えないし中にも入ってこれないのです。こうして、初日の夜は助かります。
で、二日目の夜。
ホマーはまた円を描きます。が、今度は娘さんが棺に乗ったまま宙を飛びまわり、結界にガッツンガッツン突撃して来る。その姿に結界が破られにではと、ホマーはもう必死で神に祈りを捧げます。結局、結界は破れず、鶏が朝の訪れを告げると、棺と娘さんは元の位置に戻っていくのでした。
そして、ついに最終日の夜がやってきます。
ホマーはまた円を描きました。
しかし三日目は今までと違い、娘さんも自分ひとりの力では結界を破れないと覚ったのか、今度は大勢の妖怪たちを呼び出すのです。天井や壁の隙間から次々に現れる怪物たち……って、完全に着ぐるみ妖怪だし。思わず、日本の映画『妖怪大戦争』(昔のバージョン)を思い出しました。
その妖怪たちの親玉に、この映画の原題にもなっているヴィーと呼ばれる妖怪がいるのですが、こいつが「まぶたを上げてくれ」と言うと、周りにいた妖怪たちが大きなまぶたを持ち上げる。すると「そこにいるぞ」とホマーに向かって叫びます。それで、結界が壊されてしまうのでした。
たちまち、妖怪たちがホマーに殺到します。
翌朝、村人たちが見にいくと、そこには傷ひとつないホマーが死んでいました。
とまあ、こんな感じです。
昔の映画なので、その特撮技術自体はお粗末で、お世辞にも良いとはいえません。
中には、この背景は絵だろうと思う箇所も多数。でも、そこがノスタルジックで、年配の方には逆に懐かしくて喜んでもらえるかもしれませんね。
全体を通して見ても、怖いホラーというよりは、不思議なファンタジーみたいな映画です。
どこか牧歌的で長閑な風景。
教会の中でホマーが恐怖と戦ってる間も、村では鶏や山羊などの家畜が走り回ってるし、村人たちもウオッカ片手にのんびり歌って大騒ぎ。
映画を見てるひとを怖がらせたいのか。和ませたいのか、本当に不思議な映画でした。
今の若いひとは、何この映画と途中でほっぽりだすかも知れませんが、私は昔を懐かしみそこそこは楽しみました。
という訳で、ソ連初のホラー映画。その記念すべき点を加味して、
今回の評価点は、60点(MAX100点)




