『ジョン・カーター』(ラストまでのネタバレを含む)
あれ、いつの間にやら、日を跨いでいました。
予定では、昨日に投稿だったのですが……サクッと執筆するつもりが、意外とエッセイも難しいですね。
今回紹介する『ジョン・カーター』、公開当時(2012年)はディズニーが「ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作」と銘打ち、大々的に宣伝もしていたので記憶に残っている人もいるだろう。
私などは当時、「へ、110年?」と、なんと110とはまた中途半端な数字で記念と銘打ったと思ったものだ。
因みに、100周年記念の作品は長編アニメの「アトランティス失われた帝国」なのだが、「不思議の海のナディア」の丸パクリと、当時は話題になり、いつの間にやらうやむやになったいわくつきの作品だ。まぁ、このあたりの話を書くと長くなるし、なろう上で話すには何かと不都合な話も多々あるので、今回は関係もないので止めておこうか。
とにかく、この映画は記念作と言うだけあって、なんと2億5000万ドルもの巨額を投じて製作した超大作。
円ではなくドルだよ、日本の映画製作では考えられない金額だね。近頃、予算削減で何かと話題の小池さんも、あら、びっくりだよ。
まぁ、そんな訳で、鳴り物入りの公開された大作だったんだが、これがまた、北米では不評も不評で総スカンをくらったわけだな。その評判を受けてか、日本での公開でも人気が出ずままこけてしまったわけだ。
ただ、この映画は意外と、アメリカや日本以外の国際市場では評判良く健闘し、ロシアなどでは歴代の記録を塗り替えたとかの噂も聞く。が、いかんせん、本国のアメリカや日本での興行成績がたたり、4億ドルの興行収入を見込んでいたのに、蓋を開けてみれば、結局、1億ドルちょっとの大赤字を出してしまったのだ。
考えるに、コアなファン(私も含めて)が、そっぽを向いた為ではないかと思う。というのも、この映画の原作は、エドガー・ライス・バローズの代表作にして、今あるスペースオペラやヒロイックファンタジーの雛形となる古典的名作『火星シリーズ』(1912年)だからだ。
後のクリエイターたちに、多大な影響を与えた作品でもある。
それ以降には、『火星シリーズ』の派系ともいうべき作品が多数発表され、アメコミでは『フラッシュ・ゴードン』(地球人が惑星モンゴで冒険する話)などが大人気を博し、あのルーカスが『フラッシュ・ゴードン』のリメイクに乗り出すも果たせず、やむなく『スター・ウォーズ』を製作する運びとなったとの裏話もある。だからだろうか、『ジェダイの復讐』では、火星シリーズを念頭において撮影したとか。
有名なクリエイターたちと比べるのはおこがましいが、かくいう私も、今から半世紀近く前、実家の兄(六歳上)の本棚に見付けて、むさぼり読んで影響をうけた口だ。私が今、小説家もどきを気取って、なろうでファンタジーらしきものを執筆しているのも、この『火星シリーズ』に出会ったおかげかも知れない。私の原点とも言うべき作品かも知れないのだ。
だから、映画化の話を聞くと気になって、劇場に足を運ぶつもりだったが、当時の私は何かと忙しく、DVDを購入して後で視聴しようと思っていた。が、前述の評判の悪さと人気作品の映画化の劣悪さ(特に邦画など)に嫌気がさし、未視聴のまま押し入れの奥に死蔵していたのだ。それが今回、エッセイの執筆にあたって、ようやく見る気になった訳だな。
バローズの原作では、『ターザン』や『地底世界ペルシダー』などが早くから映画化されていたが、代表作の『火星シリーズ』だけは映画化されていなかった。いや、早くから映画化の話自体はあったのだ。実に、これまでも80年に渡って様々な有名な製作者や監督が挑戦して、途中で断念しているのだ。
80年代には、ディズニーも一度は映画化を試みていた。
監督はジョン・マクティアナン(ダイハード)で、主演はトム・クルーズと豪華なものだったが、やはり残念な結果に。それ以外にも、前回紹介した『マチェーテ』の監督ロバート・ロドリゲスやジョン・ファヴローなども挑戦しようとしたが、全てが途中で断念したのだ。
ロドリゲスの『火星シリーズ』とか、どのような映画になっていたのか、個人的には凄く気になるのだが……。
で、結局は監督したのが、アンドリュー・スタントン。
って、アニメの監督じゃなかったか?
そう、スタントンは『ファインディング・ニモ』などのアニメ監督。今回、初となる実写映画への挑戦だったのだ。そして主演は当時はまだまだ無名の俳優だったテイラー・キッチュ。今はちょこちょこと他作品に主演してるようだが、私はどの作品もまだ未見。
DVDを鑑賞する前に、「大丈夫かあ、やはり駄作では」と、不安を覚えてしまう。私はこれまでB級から名作まで、色々な映画を見てきた。そこで言える事は、有名俳優が主演してる映画は、今一つかなと思うことはあってもそこそこは見れる、大外れはないということだ。反対に、無名俳優の主演では、たまに大当りしてその俳優をスターダムに押し上げる事はあっても、大方は見る価値もない大外れも多い。
で、初めて見た訳だが、これがまた、最初に悪い評判でハードルが下がっていた為か、案外に面白く感じられた。
最新の特撮技術で撮影された映像は、確かに金が掛かってるなあと思わせる程には迫力もあり、物語も王道のヒロイックファンタジー。
まぁ、『火星シリーズ』がこの手の物語の原典なのだから、王道なのは当たり前か。
他の国で人気だったのも頷けるし、最初に悪いイメージがつきすぎたのではと思ってしまう。
で、あらすじ自体は単純なものだ。
映画の冒頭、バルスーム(火星)の略奪国家ゾダンガと大国ヘリウムの飛空挺の空中戦から始まる。そこで、ゾダンガの皇帝サブ・サンは、宇宙の支配者女神イサスの僕と名乗る人物から神秘の力を授かる。そこから場面は、1881年代のアメリカに変わる。大富豪のカーターが謎の死を迎え、甥のエドガー・ライス・バロウズに遺産を残していた。その中には、一冊の日記も含まれていたのだ。そして、そこに記されているのは、想像を絶する内容だった。
愛する家族を失い自暴自棄になっていたいたカーターは、不思議な現象に導かれバルスームへと転移したのである。が、高度な文明を持つバルスームは、女神の僕を名乗るマタイ・シャンの陰謀によって滅亡の危機に瀕していた。
元々、南軍の有名な将校だったカーターはバルスームに到着すると、重力の違いから超人的なパワーを発揮する。
最初に遭遇したのは、個人の武を信望する亜人、緑色人種のサーク族。そこで、捕虜?となったカーターは、ゾガンダの魔の手から逃亡中に同じくサークの捕虜となったヘリウム王国の王女デジャー・ソリスや、後に盟友となるサーク族のタルス・タルカスと出会うのだ。
カーターがバルスームの人々と心を通わせてゆくその一方で、ゾガンダのサブ・サンを操るマタイ・シャンは、ヘリウム王国の軍勢を打ち破り、バルスームそのものを滅ぼそうとしていたのだ。
カーターは、自分の使命がバルスームを救うことだと途中で気づくのだが、未だ地球で家族をなくした無力感に支配されていた。それが、彼を戦いに向かわせるのを忌避させていたのだ。
だがその間も、マタイ・シャンの無慈悲な攻撃にさらされるバルスーム。ヘリウムはゾガンダの軍門に下り、デジャー・ソリスとサブ・サンは結婚する事になってしまう。そこには、ヘリウムを滅亡させるための裏があったのだ。
そこで、遂にカーターが決断するのです。愛する者を、もう二度と失わないためサーク族を率いて、その結婚式に乱入するのだ。
最後は大乱戦の末、サーク率いるカーターとヘリウム王国の大勝利で大団円……かと思われたが、逃げ出したマタイ・シャンによって、カーターは地球に戻されてしまう。
そこで、冒頭のアメリカに場面は戻るのです。失意の内に死んだと思われていたカーター。しかしそれは、狡猾なマタイ・シャンをおびき寄せるための、カーターが仕掛けた遠大な罠。カーターは死んだふりをしていただけで、甥のバロウズの前に姿を現したマタイ・シャンを倒し、カーターは愛する人が待つバルスームに戻るのだった。
2時間半近くある映画でしたが、皆が言うほど途中でだれる事もなかった。さすがに『火星シリーズ』の一巻、『火星のプリンセス』を映像化するには2時間半でも足りず、大きなあらすじは殆ど同じですが、細部には違いが結構ありました。
まあ、仕方のない事ですね。
気になったのは、ひょろりとした長身の4本腕の緑色人サーク族。なんか、昆虫ぽい。私の想像では、もっとごつい人種だったんですけどね。
後は、火星の軍用犬ウーラ。原作では、後にカーターの愛犬となるのですが、これも私の想像ではもっと狼ぽい姿を想像していました。映像では、カバをひしゃげたような奇妙な生き物。でも、最初はがっかりしましたが、最後には妙な愛着がわき可愛らしくさえ見えました。まるで、瞬間移動するかのように、一瞬で素早く動く姿が微笑ましく心に残ってしまいます。
あぁ、それとバルスームの怪物、大白猿は想像以上でした。私の好きなシーン、カーターがサーク族に認められ率いる事となる、闘技場でのシーンは迫力満点で圧巻でした。
ですが、私がどうしても許せない事もひとつ有ります。
それが、ヘリウムの王女デジャー・ソリス。
もっと、可憐でたおやかな美女を想像していました。しかし、登場したのは活動的で雌ゴリラ(あくまで私の主観)みたいな女戦士。
あぁ、これはないわぁ…………。
よくよく考えてみると、これらはバロウズの影響というより、日本版の書籍の挿絵の影響が大のような気がする。
『火星のプリンセス』の表紙絵。多くの人が見掛けた事が有るかと思いますが――岩に腰掛ける清楚な美女。
日本初のカラー挿絵。イラスト入りで反響を呼んだとか。今ではカラー表紙も、イラスト入りの書籍も、当たり前のように沢山有りますが、当時は「おやっ」と足を止め、購入する人は大勢いたでしょうね。
私の好きなイラストレーターさんは二人いるのですが、ひとりは生頼 範義さんと、もうひとりが、『火星シリーズ』を手掛けた武部 本一郎さん。
もし、私の小説が書籍化されたなら(有り得ない事ですが)、是非とも挿絵を頼みたかったのですが、お二人とも残念な事に既に鬼籍に入られているとか。
武部 本一郎さんは、日本でもっとも古いSF賞、星雲賞でイラストレーターでは唯一特別賞受賞された方でもありました。
おっと、また話が逸れて行きそうなので映画の方に戻しますが、とにかく、名作とまでは言いませんが、SF映画やファンタジー系の映画が好きな方には、それなりには楽しめる映画だったような気がします。
あくまで、私の個人的な見解ですけどね。
続きが有るなら、見てみたいと思う程度には面白かったのですけど……予定では3部作の1作目らしいです。が、この大赤字では駄目でしょうね。
さて、今回の評価点は、70点(MAX100点)