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イージスクラス

あれから試合が終わったあと、レミアはみんなを納得させるために動き出した。一方俺は寮の部屋内でベッドに寝転がっていた。今日は、本当なら学園の説明やモラル、その他諸々のことが伝えられる学園初日の日のはずだったのだ。しかし、それは昨日の出来事で急遽、予定が変わった。それが、今日俺とレミアが行った試合。そのせいで午前で終わるはずだった学園は午後にそれを延ばし、レミアと俺の試合をいい機会だと思い学園側、と言ってもレミアが強引に許可したのだ。新入生はこれに感化されより一層ガーディアンとして励んでくれるだろうとの教員とレミアの思惑だったのだ。が、それはあらぬ方向で試合は終息した。今がその後になる。俺はあれから学園には登校せず、こうして寮に戻ってきている。右手にはエクセプションが握られている。

黒ずんでいたエクセプションは徐々に元の青色を取り戻し、今ではすっかり元通りになっている。

「はぁ…」

ため息しか出ない。ほんと、何がしたいんだか。ファグマを正当に殺すためとはいえ、こんなことをする必要があったのか。お陰で、殆どの生徒を敵に回してしまった。これで平穏な学園生活は無くなったも同然だ。まぁ、自業自得だ。別段、そこら辺どうでもいい。誰かと仲良くやるつもりなどはなから無いのだから。俺が気にしているのは上のヤツに目を付けられたことだ。あぁ、くそ。あの時に仁川の言葉を聞いておけばよかった。そしたら、上から目をつけられることもなく平穏な学園生活を送ることが出来ただろう。そしたら、誰にも気付かれずにファグマを殺せたかもしれないのに。こうなれば別だ。もうすでにレミアに目をつけられてるのだ、勝手な行動はあまり出来ないだろう。それでも単独行動を止めるつもりはないが。しかし、今後どうしようかと悩むのだった。

そんな時に、もう沈みかけた夕日を見ながら考えていたらドアをノックする音が聞こえた。どうせ、先輩達だろ。あれだけ敵視していたし。めんどくさいので居留守を決め込む。が、ノックの音は引き返すつもりはないのかずっとノックしている。というか、段々音が大きくなってきている。うるさかったのでドアを開けることにした。

「よっ!」

そこに立っていたのは仁川だった。気軽にそう挨拶してきて断りもなくずかずかと部屋に入ってくる。

「おい」

「まぁまぁ、みられてこまるもんなんてないだろ。あってもエロ本くらいだろ?なら大丈夫だ」

見られて困るものはそれではないがあるんだよ。しかし、それを気にせず仁川は部屋の中に入っていた。俺は「はぁ…」とため息ついてドアを閉めて自分も部屋に入っていくのだった。

「はー、なんもねぇな」

「一昨日引っ越したばかりだからな」

俺のすっからかんな部屋を見渡して遠慮なく感想を述べるのだった。仁川はアタッシュケースには触れず床にドカッと座るのだった。

「それで、何のようだ?」

今日の朝にあった時よりも冷たい目線で仁川を見る。仁川も日本人だ。今日の俺の行いを見ていい印象なんてこれポッチもないはずだ。そんな仁川がここに来るとは余程文句が言いたかったのだろう。俺にはそれを聞く必要がある。少しとはいえ、こいつとは見知った仲になったのだから。

「いやぁ、ここなかなかハードだよな」

仁川は文句を言うどころか唐突にそんな前ゼリフを言ってきた。なんだ?遠回しにお前のせいだ、とでも言いたいのか?

「…」

「ま、そんな目で睨むなって。怖いぞ?」

「もう一度聞く、何のようだ?」

「別に用なんてねぇよ。お前が午後の学校をサボるから体調でも悪いのかと思って見に来たんだよ」

その割にはやけにドアを叩くヤツだな。

「…別に平気だ。文句がないなら帰ってくれ」

俺はそう仁川に冷たく突きつけた。そんな俺の言葉に仁川はさっきまでヘラヘラしてた態度を急に真剣なものに変えた。その目つきは鋭く、今までのお調子者が嘘みたいなものだった。

「文句がねぇなら帰れって言うならな、言ってやろうじゃないの。お前には言いてぇことが沢山あるんだ」

「…」

俺は殴られる覚悟でその場に立ち尽くす。そんな俺に仁川は立ち上がり近づいてくる。そのまま肩を掴まれ壁の端に追いやられる。そのままドンッと壁に背を打ち付けられる。

「なんで一人で戦ってんだよ!もっと早くに事情を教えてくれれば俺も助けに入れたのに!」

「…は?」

てっきり罵詈雑言を浴びせられるものかと思い腹を括っていたが、仁川から出た言葉はそんなものではなかった。

「は?ってお前あの超絶美少女を庇ったんだろ?それはまぁ、俺も見てたし何も出来なかったのは悪いと思ってるぜ?俺も加勢しようと思ったけどあの勢いにはさすがの俺も入れなかったし。でもよ!言ってくれれば助けたのによ!」

「何言ってるんだ、お前は…」

「だーかーらー!お前があの国波の生き残りっつーのも滅茶苦茶びっくりしたし!辛いことがあるなら頼れって言ってんの!そりゃあ、昨日今日あったような奴には言えないことは沢山あるかも知んねぇけど、今度から俺を頼れよ!俺は全力でお前の助けになるからよ!」

「いや、おまえ…」

「なんだよ」

「憎く、ないのか?俺は少なからずここの生徒を全員敵に回したようなもんなんだぞ」

「へ?」

こいつ馬鹿なのか?

「あー、今日のあれな。あれには俺もびっくりしたわ。もうちょっと抑えろよとも思ったけど…。ん?あぁ!なるほど、そういう事な」

「一人で勝手に納得しないでくれるか」

「わりぃわりぃ。文句ってそういう事だったんだなってな。馬鹿だなぁお前も」

たった今、馬鹿だと思ってたヤツに馬鹿にされた。

「あのなー、俺は義理人情を大事にしてんだ。あんな事あったからって、まぁやりすぎな部分はあるが、あんぐらいじゃお前を毛嫌いなんかしねぇよ」

そうはっきりと、仁川の口から敵じゃないと聞けてどこかほっとする自分がいた。なんだろ、期待をしてたわけじゃない。むしろ、俺は一人で生きてくつもりだった。それでも、敵じゃないとはっきり言われて安心する自分がいるのは否定できない。

「んで、それで学校が怖くなって来なかったのか?」

仁川はそこから察したのか俺が学園を休んだ理由を聞いてくる。

「いや、今俺が学園に行くのは得策じゃないと思っただけだ。混乱を招く種にしかならない」

「なるほどな。まぁしゃーないわな」

あんなことがあった後じゃな、と納得したように仁川はまた床に腰を下ろす。しかし、目線は俺から外すことはなく喋り出す。なんだろうな、こいつがいるだけで少し気が晴れた。口に出すことはないが、今のこいつには少し感謝している。

そうして、三十分ぐらい話して仁川は「そろそろ帰るわ」と言って立ち上がる。

「明日はこいよ?まってるからな」

ドアの前で一度振り返って、そう笑顔で言って仁川はその場を後にした。



次の日の朝。俺はいつものトレーニングをこなし、シャワーで汗を流して、学園の制服を着る。今日も休むつもりでいたが仁川に言われたからには行かないわけにもいかない。俺はそのまま朝食を食べに食堂に向かった。

「お、きたな!」

食堂に入って前と同じフレンチトーストを頼み、同じ席に向かったところにそいつはいた。俺を見つけるなり元気に手を振っている。他の周りの人達は俺を毛嫌いするか、もの不思議そうな顔でこちらを凝視するものばかりだというのに。そんな中、一人だけ笑顔でこっちに手を振っている奴がいるのだ。少しだけ足を止めて迷ったが、昨日言われたことを思い出し再度その脚をそいつの方へ動かす。

「ちゃんと来たな、彩牙」

「昨日は悪かったな、真」

そう昨日のことを謝り席につく。当然、昨日の今日なので俺への敵対心やその他諸々の目線がこちらに来るし、俺と一緒に食べてる真も同じように見られる。俺はそれが嫌だったが、今ここで無視しようものならきっとまたうるさいだろう。こいつはそういうやつだと昨日でわかった。それと名前で呼んでいるのは昨日そう言うようにと言われたからだ。

「にしても、ここの飯は上手いよな。世界のグルメが集まってるんだってよ」

「そうなのか」

そんなどうでもいい話をしながら朝食を食べ、そのまま学園へと一緒に登校するのだった。


「彩牙は俺と同じクラスだったぜ」

「そうか」

登校中、真は昨日の学院で何を受けたのか雑ではあるが教えてくれる。まず、クラスの事だが大体同じ同郷のものが集まって構成されてるらしい。つまり、今日から行くクラスはほとんどが日本人という事だ。真然り、俺を敵視してるような奴は数人程度らしい。クラス全員が敵視してるのでは?とも思ったが案外そんなことは無かった。そうしてる間にクラスに辿り着いた。

「ま、そう気張んなって」

そう軽く俺の肩を叩いて真は教室へ入っていく。俺もそれに続いて入っていく。最初はクラスのみんなはざわついたが何事も無かった様に取り繕う。

「な?いきなり襲いかかるような奴はいなかったろ?」

「…そうだな」

俺はそのまま真に教えてもらった自分の席、一番後ろの窓側の席につく。真は一番真ん中の席らしくその周りの生徒と少し挨拶をしてこちらに来る。

「なにかあったらいえよ?」

それだけ言って真は戻っていった。もちろん、みんなはそんな真にあれやこれやと聞いている。そんなクラスメイトたちをよそに俺は窓の外を見上げるのだった。今日も昨日と変わらない綺麗な空があった。こんな空を見るとあの頃が嘘だったのでは?といつも思う。そうであって欲しいと何度も願ったことだってある。でも、結果これが現実なんだ。時を止めて戻すことは神紋と神鉱石という不思議な力が出た今でもできないのだ。

そんな空をずっと見上げていると後ろに誰かが立っている気配がした。気になって振り向くとそこにはあの女の子がいた。

「あ、えと、お久しぶりです!」

そうペコリと頭を下げる。綺麗な深紅色の髪がふわりとバラつく。そんな俺たちに全員の視線が注目する。

「あの、おぼえてます、よね?」

「橘恋音、だったな」

「はい!」

名前を覚えててくれたことが嬉しいのか元気よく返事してきた。そんな彼女に少し戸惑いながら話す。

「なんのようだ?」

「あ!その、ありがとうございます!ほんとは、昨日言いたかったのですがいなかったので…」

「なにがだ?」

「それは、あの、あなたのおかげで無事に私はこの学園に入ることが出来ました。これも、あなたのおかげです」

「前にも言ったが礼を言われる筋合いはないと言ったはずだ」

「私も言いました、それでもあなたにはお礼がしたいんです」

そんなちょっとした睨み合いをしていると見計らったようにチャイムがなり先生が入ってきた。

「時間だ、全員席につけ」

そう言われて橘はお辞儀して自分の席へと戻っていった。

教卓に立ったのは俺がこの学園に来て最初に出会った人物だ。

「今日は全員来ているな」

そう辺り見回し確認する西條先生。特に俺の方を睨んできたが特に何事もなく俺は朝の連絡を聞く。

「まぁ、今日からは君たちも本格的な授業に入る。いいか、ここは学園という機関ではあるがあくまでも表向きだ。この学園は君たちを戦場へと送り出す言わば訓練場でもある。それをしかと胸に刻んでおいてくれ」

そう言って朝の連絡を終えると同時に俺の方に向き少しきつめの声で指示してきた。

「伊佐樹彩牙。君はこの後、至急職員室まで来るように。以上だ」

そうして朝のホームルームは終わった。


ホームルームが終わって俺は指示通り、そのまま職員室へと向かう。その職員室の扉の前には西條先生がいた。

「来たな」

「そう指示したのはあんただろ」

西條先生は俺を見るなり、来たことにだろうかほっとしている。

「昨日はなぜ報告もなしにサボった」

「そっちか」

「他になんの呼び出しだと思ったのだ?」

「思い当たる点がもうひとつあるんだが?」

「それについては、もう私たちは触れることは出来ない」

西條先生はそう苦虫をかみ潰したような表情でいう。つまり、レミアの納得させるという行動は本当だったということだ。もう、という事だ、最初はみんな抗議していたのだろう。それをレミアが無理矢理にねじ伏せた感じだな。まぁ、納得させると言っていたから当然ではあるが。

「わかった、サボった理由をいう」

「あぁ、返答次第によっては君の処罰が変わる。慎重に言葉を選ぶことだな」

「単純に行きたくなかったからだ」

「…言葉を選べと言っただろう」

西條先生は手を額に当ててがっくしとする。その上、深い溜息を吐いて俺を睨む。

「君は素直なんだか反抗期なんだか、よく分からないな私には」

「わかってもらわなくて結構」

「そういうわけにはいかない、君は私の生徒だ。生徒のことをよく知るのも私の勤めだ」

「仕事熱心だな」

「ありがとう」

ちょっと皮肉っぽく西條先生は返す。

「サボリは感心しませんわね」

そんな、唐突に響いた凛とした声に振り向く。そこにはレミア・ラジェルローナが立っていた。当然だが前のように、一番最初にあの司令官ドームみたいな所にいた時と同じ、ほかの生徒の学生服とは違う装飾が施された軍服に近いもの。西條先生はレミアに気づいて敬礼をする。

「その者の無断欠席の件に関しては私が処罰をします。宜しいですわね?」

「はい!」

レミアはたった今、西條先生が考えていた俺への処罰をレミアに委ねた。強引なやつだなこいつ。納得させるというのも同様のやり方なんだろう。そうでもしなくては逆に納得させられないか。

「伊佐樹彩牙、処罰を伝えます。これから私の行く所に付き合いなさい」

「…いいだろう」

少し迷った上、一応は最高司令官なため言う事を聞くことにした。そんな俺の態度にレミアはほっとする。なんなの?みんなして俺の素直さにほっとするって。一応は弁えてるつもりなんだがな。


そうして、連れてこられたのは第七研究室。そう、今俺が首にかけているエクセプションを受け取った研究室、あの無駄に乳がでかいサリアがいる場所だ。

「やぁ、待っていたよ」

案の定、研究室の入口にはサリアが俺達のことを待っていたのか気づくなり近づいてくる。

「さすがはレミア氏、予定通りだね」

「あなたこそ、予測でもしてたんですの?」

レミアとサリアは顔見知りなのかそう挨拶を交わす。

一方俺はそんな二人から視線を外しそっぽを向いていた。

「やぁ、伊佐樹くん。一昨日ぶりだね、会えて嬉しいよ」

「お前の格好はどうにかならないのか?」

そう、俺が視線を外しているのはサリアがあられもない格好をしていたからだ。上から白衣を着て大体は誤魔化しているのだろうが正面から見ると胸の谷間がバッチシと見えてしまう。挙句、スカートの裾が短くずり上がっていてピンク色の何かがチラチラしてしまっているのだ。ほんと、目のやり場に困る奴だ。

「その格好をどうにかしたらどうですの?」

「ん?あぁ、これはすまない」

サリアはレミアに指摘され格好を正す。スカートを直し、ボタンもちゃんと止める。それでも胸の主張は激しかったがこの際仕方ないだろう。俺はようやく視線を元に戻し本題に入る。

「それで、俺をここに連れてきた理由はなんだ?」

「僕が頼んだのさ、君を一度ここに連れてきてほしいと。そうしたらレミア氏が快く引き受けてくれたのさ」

「あなたには色々と教えてもらいたいことがありますからね」

レミアは警戒するような目で、サリアは興味津々な目で俺を見る。なるほど、モルモットという訳か。いや、少し違うか?

「どちらにせよ、お前達に教えるようなものはない」

「まぁ、そう言わずにちょっと付き合ってくれないかな?」

「私からもお願い致しますわ」

俺はそんなレミアとサリアに、いや、主にレミアを睨む。

「あの条件を忘れた訳ではありませんわ。ただし今はあなたの処罰中です。それにこれは司令官としての権力に関わるものなのであなたの言うことは聞けませんわ」

どうやら引くに引けないみたいだ。俺は深くため息をついて渋々その件を承諾するのだった。

「わかった、ただし変なことしたらこの件はなしだ。お前の元にも来ないからな」

「わかっているよ、あくまでも協力してほしいのさ」

俺はそうサリアに釘を刺してこいつらに付き合うのだった。

そのまま、俺達は第七研究室の中、その極秘室と言われる場所に行くのだった。



着いた場所は薄暗く、淡い光があちこちに灯っている。夏にさしかかるこの時期にしては薄ら寒くあちこちから異様な気配を感じる。それも、普通じゃないものの。

「ここはトップシークレット、超超超秘密の特別な部屋だよ」

「ファグマに関する研究をここで行ってますの」

「それで、そんなトップシークレットな場所になぜ俺を入れた?」

「それは…」

「それは誰にも聞かれたくないことを今から話すからね」

レミアが少し迷って言葉にしようとしたが、横からサリアが迷いなく話す。

「君には研究者として色々と聞きたいことがあるんだ。答えられる範囲でいいから教えてくれないかな?」

「教えられる範囲、でならな」

「うん、それじゃあ一つ目」

サリアは一度、間を置いて俺に質問する。

「君は過去にエクセプションを扱ったことがあるかい?」

「…あぁ」

「それは、いつのことだい?」

「五年前だ」

「ふむふむ、なら君がエクセプションを使える理由はこれで解決だ。実に単純な答えで助かるよ」

「そうか」

「なら二つ目だ。君はどうやってそのエクセプションを使役した?」

サリアは首にかけている俺のエクセプションを指差しそう質問した。

「普通にだ」

「普通?普通ときたか。ならこれを見てほしい」

サリアは一緒に持ってきていたカバンからノートパソコンを取り出しある動画を俺に見せる。

「これは昨日、君とレミア氏が戦った際にデータとして撮らせてもらった映像だ。ここに注目してほしい」

そう言ってサリアその細くて綺麗な指を画面の左下、ゼロと書かれている数値に円を書くようにして主張する。

「この数値、なんだか分かる?」

「しらん」

「この数値はね、簡単に言うとエクセプションとの相性数値なんだよ。僕の言いたい意味は理解出来た?」

「なっ」

俺の数値にレミアは少なからず絶句している。サリア曰く、そのエクセプションとの相性度が俺はゼロ、絶望的にエクセプションとの相性があってないと言いたいのだろう。

「なにがいいたい」

「なぜ君は、神鎧が使えたんだい?」

「神鎧?」

「昨日君が具現化して装着した鎧のようなものの事だよ」

「あぁ、あれか…」

「君の相性数値はゼロ、つまり神鎧を具現化するどころかエクセプションが君に反応を示さない状態のはずなんだ。なのに君はエクセプションを使役するどころか神鎧までも顕現した。これは明らかに異常だ」

「こんな世界だ、異常イレギュラーなことなんていくらでもあるだろ」

俺のそんな問いにサリアは苦い顔をしたが、少し溜息を吐くだけだった。

「君はこれを見たことがあるかい?」

サリアはノートパソコンを近くの台に置き、とある場所に移動する。そして、何やら装置をカチカチといじり始めた。すると周りの、黒塗りで中身が見えなくされてあるカプセルのうちの一つがカシュッと音と煙をあげてその黒色を落としていく。そうして姿を現したそれは何かの臓器だった。

「これがなにか、君にわかるかい?」

「ファグマだな」

「そう、なら君はこのことも知ってるというわけだね」

「なっ!これは第一級の特務事項ですのよ!?世界各国の有数機関しか知りえない情報ですわ。なのに何故それを…」

そう二人して俺を睨んでくる。サリアは秘密を暴くように、レミアは警戒するように。

「答えは一つだよレミア氏。伊佐樹くん、君はこの研究と関わりが深い所にいたね?」

「さぁ、それ自体は俺には知りえない情報だ」

「どういうことだい?」

「あいつがどういう存在なのかは知らないということだ」

「あいつ、とは誰ですの?」

「言ったろ、知らないって」

「伊佐樹彩牙、これは最高司令官の命令です。あなたがこれについて知っていることを教えなさい」

「それも最初に言ったはずだ、俺には黙秘権がある。日本語が上手ならこの言葉の意味ぐらいわかるよな?」

「ここは日本ではありません」

「ここはアメリカでもないだろ」

「あくまでも、喋らないと?」

「最初からそう言っている。第一、俺の知ってる情報なんてそいつの正体ぐらいだ」

「ほぉ〜」

俺がそう指さした、カプセルの中身を見てサリアを興味深げな息を漏らす。

「じゃあ、君にはわかるんだね?これがファグマにとっての何なのか」

「心臓、だろ」

「大当たりだよ、伊佐樹くん」

その答えとともにサリアが指を鳴らす、と同時に入口がしまる。

「なんのつもりだ?」

「ここはね、最初に言ったとおりトップシークレットであり僕の秘密の研究室でもあるんだ。でもね、ここの事は上の偉い人から関係者以外を絶対に入れるなっていう条件付きで使わせてもらってるんだ」

「嵌めたな」

「別に嵌めてなんていませんわ、ただご協力願っただけですわ」

レミアは涼しい顔でそう言い切る。つまり、これで立場が一気に逆転したわけだ。

「理不尽な奴らだな、お前達は」

「理不尽なんて、君がそのことをよく理解してると僕は思うけどな〜」

サリアの眼鏡が怪しく光り、不敵な笑みを携えている。まるで悪の研究者だな。レミアは大方その協力者と言ったところか。見る人が見たら燃える展開なんだろうか?

「そうだな。この世界は理不尽と不条理ばかりで吐き気がする」

「それは君がこの世界の美しさを知らないからだよ」

「その美しさもいずれは汚れる」

「そしたらまた磨いて綺麗にしてあげればいい。人間はそうやってしてきたのを知らないわけじゃないだろ?」

レミアは俺達が急にずれた話をしはじめて少し困惑しているがサリアはわかってやっている。伊達に研究者やってないと言うことなのだろうか?それにサリアはどうも情に熱いみたいだが。

「それで俺の復讐心が流されるとでも?」

その言葉にレミアがハッとする。ようやく言葉の意味が分かったのだろう。最高司令官だから理知的なのかとも思っていたが予想通りだな。

「流せるとまでは言わないさ。けど、その気持ちを変える事ぐらいは出来るさ」

「先に言っておく、お前が何をしようと俺の気持ちは変わらない。俺の気持ちが変わるとしたらそれはファグマが完全にこの世から消え去った時だけだ」

「強情な人だね、君は」

「なんとでも言えばいい。それで、これからどうするつもりだ」

「さぁ、どうしようかな。ね?レミア氏」

「少なからず、このままなにもなしに帰すわけには行きませんわね」

レミアはなんとか話についてきて慌てて取り繕う。やはり、司令官とだけあってそこらへんの切り替えは早いな。

「伊佐樹彩牙、貴方を副司令官に昇格します」

「どういうつもりだ」

「これからは貴方には私の補佐をしていただきます」

「断る、と言ったら?」

「第一級特務事項の秘密保守のため、二度と地上には出られなくなりますわ」

「…」

彩牙は無言でエクセプションを握る。その行為の意味を瞬時に理解してレミアが戦闘態勢に入る。

「ここで暴れられるのは困るな」

そんな二人を見てサリアがそう困ったようにいう。それでも警戒を解かないレミアは彩牙に忠告する。

「今ここで戦ったら本当に出れなくなりますわよ」

そんなレミアの忠告に彩牙は。

「はぁ、いいだろう」

そう言ってエクセプションを握る手を降ろす。その言葉にサリアは安堵しレミアは警戒を解く。

「懸命な判断ですわ」

「あまり冷や冷やさせないでくれよ、レミア氏。伊佐樹くん」

「最初に仕掛けてきたのはお前らだ」

「悪いと思っているがこちらも君を放って置けなくてね」

サリアは少し乱れた白衣を正しまた機械をいじる。カチカチとサリアが弄っていると閉ざされた入口が開いた。

「さて、ここを出る前に君に一つ言いたいことがある」

「なんだ?」

「ここで見たこと聞いたことは勿論だけど他言無用だよ」

「…わかっている」

「では、行きましょうか」

レミアはいつの間にか出口にたっており俺についてくるように促す。

「処罰は以上で終わりです、早く教室に戻って授業を受けてきてくださいな」

それだけ言ってレミアはそそくさとどこかへ消えた。

「勝手な奴らだ」

俺は大人しくそのままイージスクラスへと戻るのだった。



クラスに戻った途端、俺は壁に打ち付けられ見知らぬ女生徒に胸ぐらを掴まれるのだった。

「なんだ?」

「なんだ、ではない。よくあれだけの恥を晒して堂々とこの学院に残ってられるな!」

「無理矢理残された側なんだが」

長い髪を後ろでまとめて縛った、ポニーテールというやつか、その艶のある黒髪の尻尾をなびかせる。凛とした、大和撫子みたいに可愛い顔に少しばかし動揺する。身長は俺とあまり大差ない。そんな子に俺は追い詰められていた。後ろでは真が苦い顔して立っている。どうやら止めようとしてはいたみたいだな。

「そんなことはどうでもいい!この恥さらしが!貴様のせいで、貴様のせいで日本の印象が下がったらどうするつもりだ!」

「どうもしない」

「なっ!」

「俺には関係ないことだ」

「関係ない、だと」

こめかみをピクピクさせながら、その綺麗な顔を鬼みたいに変えて俺の胸ぐらを掴み激しく後ろの壁に打ち付ける。

「お、おい…」

慌てて真が止めに入ろうとするがそれを無視してそいつは俺を怒鳴り散らす。

「お前のような人間などこのクラスには必要ない!さっさとこのクラスから消えろ!」

「おいおい、流石にそれは言いすぎだ」

流石に真も看過できなくなったのか横から入ってくる。そんな真にその子は少したじろぐ。まぁ、昨日自己紹介をみんな済ませてるわけだし知らないわけではないらしいな。

「しかしこいつは!」

それでもなお食い下がろうとするその子に真は手で制する。

「まぁ待てって、こいつは本当に心の底からお前らのことをどうでもいいなんて思っちゃいない、それは俺が保証する」

こいつもこいつで言いたい放題だな。よくそんなことを根拠もなしに保証できるな。俺はそんな真の説得を棒立ちで見てるのだった。ここで俺が口を開くと真の説得がパーになりそうだからな。

「ただちーとやり方がわからないだけなんだよ。だからさ、みんなも彩牙と仲良くしてやってくれよ。そしたらこいつがどういう奴なのかマジでわかるからよ」

「勝手な…」

「まぁまぁ彩牙も少し落ち着け。お前の気持ちはわかるがこれじゃあお前が昨日休んだ理由がおじゃんだぞ」

「…」

「よし、それじゃあみんな席につかねーとな。そろそろ次の授業が始まるからな。寝て怒られんなよ?」

そう真は茶化して自分の席に戻っていくのだった。目の前のポニーテールの大和撫子も舌打ちして自分の席に、って俺の隣か。やりづらいな。俺も真の言う通り怒られる前に席につくが、横からの視線が非常に痛かった。まぁ、どうでもいい事なのだがこいつはこれで勉強できてるのか?ちなみに俺は全くしてない。あまり必要の無いことばかり教えてくるからな。俺は視線を無視するように窓の外の空を眺めながら授業を終わらせていくのだった。



お昼休み。隣の大和撫子はこのクラスの女子に人気なのかお団子みたいに囲まれていた、すごくテンパっていたな。俺は昼休みのチャイムがなると同時に教室から消えるように屋上へ向かった。ただ、そんなやつの後ろを追いかけてくるやつが二人いた。

「よっ、さっきはすまなかったな」

屋上で地べたに座り一人でコーヒー牛乳を飲んでいると扉を開けて真がやってきた。手にはビニール袋を掲げて。

「これ、さっきのお詫びな」

そう言って手に持っていたビニール袋を俺に差し出す。中身はちょっと豪華なコンビニ弁当だった。

「お前のぶんじゃないよな?」

「安心しろ俺は別に弁当を作ってるからな」

そうニコッと、太陽みたいな笑顔を浮かべて無理矢理俺に弁当の入ったビニール袋を渡す。

「それで、あの子はなんだ?」

「あいつは香月鏡華かづききょうか。日本でも有数の武闘家の家系だったらしい」

「らしい?」

「一年前にファグマに家族を殺されたんだと」

「…そうか」

寂しく語る真には申し訳ないが同情はしない。別段、嘲るわけでもないがなんと思うこともないだろ。

「それでまぁ、お前の態度を見て気に入らなかったんだろ。同じファグマからこの世界を守るものとして」

まぁ、そうだろうな。俺はこの世界を守るためにここに来たわけじゃない。ファグマを殺すために来たのだから。

「だけどまぁ、悪いやつじゃないんだ。それだけは分かってくれ」

「あいつ次第だ」

「まぁまぁ、なんかあれば俺もサポートするからさ。俺はこの後ちょっとお呼ばれしてるんでじゃあな。また後で」

「あぁ」

そう言って真は屋上を後にした。そうして少し時間が経って、俺は虚空に話しかける。

「なんのようだ?」

その声に屋上の扉が開く。そこには橘恋音が立っていた。

「気づいてたんですね」

「まぁな」

恋音は手に弁当が入っているであろう手提げ袋を持って俺の方へ寄ってくる。

「えと、隣いいですか?」

そんな恋音に本来なら迷うことなく拒絶するのだが真のせいかすこし考えが変わった。

「好きにしろ」

「ありがとう」

俺の許可が取れるなり迷いなく恋音は彩牙の隣に座った。なぜ俺の隣に座る?と疑問に思ったが口には出さないでおく。

「大丈夫?」

「何がだ」

「さっき、香月さんに責められてたから」

「そんなことか」

「うん、結構強く当たってたから。ちょっと心配になって」

「なんでお前が心配する?」

「えと、それはほら、クラスメイトですし!そ、それに私には貴方に恩がありますから!」

橘は慌ててそう言い返す。しかも、ちょっと近すぎないか?こいつ。

「わかったから隣で暴れるな」

「ご、ごめんなさい」

俺にちょっと叱られただけでしゅんとなった。子犬かこいつは。

「で、それだけか?」

「それだけとは?」

「俺に対する心配だけでここに来たのか?」

「そう、ですけど。余計なお節介でしたか?」

そんな悲しそうな目でこっちを見つめるな。対応に困る。

「別に…」

「なら、よかったです」

橘は俺の返答に胸をなで下ろす。そんな橘に俺は聞いてみることにした。俺のことをどう思っているのか。香月みたいな意見を持ってるやつは少なからずいるのだ。それなりに俺への不平不満はあるはずだ。

「お前は俺のことをどう思ってるんだ?」

「え?」

「簡単な質問だ、お前自身が俺のことをどう思っているのかと聞いている。俺はここのヤツらに好かれるどころか全く真反対のことをした。それに、俺ら日本人のイメージダウンに繋がるようなこともな」

「もしかしてですけど、私があなたの事を嫌ってる。あなたに恩があるから、貸しを作らないためにこうしてると思ってます?」

「少なからずそう思っている」

そんな俺の答えに橘はニコッと微笑むのだった。真とは違い向日葵のような柔らかい笑顔だった。

「私が伊佐樹君を嫌ってることは絶対にないので安心してください」

「なぜそう言いきれる」

「私は言いました。貴方には助けられたと。あなたはその事を助けてないと言いましたがそんな事ありません。たとえついでだとしても」

ほんと、しつこい女だなこいつも。

「かってにしろ」

「ありがとうございます」

そうして、その後何一つ喋ることは無かったが悪くない空のもと、真から貰った弁当を食べるのだった。

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