始まりのポテトチップス
始まりのポテトチップス
1
僕が学校から家に帰ってきた時、リビングのテーブルの上にポテトチップスが置いてあった。Lサイズの大きいやつだ。
(コンソメ…。コンソメって飽きるんだよな…。でもどうしてコンソメがあるんだろう)
ポテトチップスを見るなりそう思った。
どうせならうす塩の方が一般的で馴染み深いはずだ。例えば、ただ『ポテトチップス』と言われて大半の人が思い浮かぶのはうす塩ではないだろうか。
正直僕はポテトチップスのうす塩が世界で一番美味しいお菓子だと思っている。
そのせいか、リビングに入ってテーブルの上においてあったポテトチップスがコンソメだったことに雪の結晶くらいの小さなショックを受けた。僕はうす塩がよかったんだ…。
「まぁ、食べるけどね」
僕はおもむろにそのポテトチップスの袋を開け、食べ始めた。
近くにスーパーの広告を見つけた。どうやら今日はポテトチップスのLサイズが安かったらしい。
だったらなおのことうす塩を買ってきてほしかったと思ってしまう。
「まぁ、食べるけどね」
僕はテレビをつけて、ポテトチップスを食べながら、撮りためていた番組をあさった。
途中、喉が渇いたので何か冷たい飲み物をと思い冷蔵庫を開けた。
そこでまず目に入ったのは、500ミリリットルのペットボトルに入った茶色い液体。それはコーラ。
(ゼロ…)
何故ゼロなんだ。ゼロである必要があったのか?もしや、糖分がゼロというだけあって実際に手を洗ってもベタベタしないという利点を生かして…
「…手を洗うのか?」
我ながら自分の馬鹿さにあっぱれだ…。そんなわけないだろう。普通に飲むために買ってきたものだ。
「…まぁ、いいか」
プシュッ!と二酸化炭素の抜ける音を聞いた後にガラスのコップにコーラ0を注ぐ。
そして、学校から帰ってポテトチップスをむさぼりながらコーラを飲み、ソファーに横になりながらテレビをみるという、なんとも嘆かわしい姿の学生の出来上がり。
(…なにもないなぁ。なにかないかな…。例えば、このポテトチップスが始まりで、お菓子の国に連れていかれる、とか…)
残念だがこの現実世界にそんなことはあり得ない。そんなまるで何かの物語のような、そんな非現実的なことが起こり得ることなどない。
そう、思っていた…。
2
目が覚めたらそこは、真っ白な柔らかいマシュマロの上だった。
「な、なんだ・・・?ここは・・・?」
困惑を隠しきれない。そんなの当然だ。周りを見ると、真っ白なマシュマロと、そのマシュマロの上にある、キレイな宝石みたいに光って流れている赤い川と紫の川。
「…甘い、匂い?」
近づいてよく見ると、それは川じゃない。大量すぎて流れ出ているイチゴジャムとブルーベリージャム。
「マシュマロの上に、イチゴジャムとブルーベリージャム?…なんか、美味そうだ…。少しくらいなら食べても大丈夫かな…」
自分の今いる場所のマシュマロを引っ張ってみると、ちぎれて一口サイズの美味そうなマシュマロになった。
(まさか本当にちぎれるとは思っていなかった…)
僕はそのちぎったマシュマロにイチゴジャムを付けてた。よくわからないところの、よくわからないマシュマロにイチゴジャム。少しの抵抗があった。
「まぁ、食べるけどね」
気がする。
そのイチゴジャムの付いたマシュマロを口に含むと、凄く驚いた。
「う、美味い…甘い…!!」
本当に感じたリアルな触感と風味。僕はそれのおかげで確信した。
「これは…現実なんだな…」
そして絶望した。
それも当然ではないか。まったく、わけのわからにお菓子の世界、というよりマシュマロの世界に来てしまったのだ。
(どうやって帰れば…)
そんな時だった。後ろから声がした。
「いたマ!あいつだマ!あいつが逃げ出したやつの最後だマ!!」
振り返ると、目を疑う光景が飛び込んできた。
「な、な、ま、マシュマロ…」
それは、手足を生やし、その手に可愛らしいキャンディーの槍を持った僕と同じくらいの大きさのマシュマロ。言うなれば、マシュマロ兵。
「ま、マシュマロが…動いて喋ってる…」
マシュマロ兵は3人(?)ほど僕のところまできて、まるで警察が犯人を捕らえるかのように僕を拘束した。
「暴れるなマ!このジャガイモ野郎!お前たちジャガイモは、このマシュマロ国ではマー達の奴隷だマ!」
「じゃ、ジャガイモ野郎…?お前たちジャガイモ??」
「そうだマ。おとなしくするマ」
「隊長!このジャガイモ野郎はどうするでありまシュ?見たところあまり使いものにならなさそうではないでシュ?」
使いもにならなさそうなジャガイモ野郎?それは僕のことなのか?
この話の流れで僕以外考えられないよね。
「ほんとうですロ隊長。このジャガイモ野郎なんか異様に細いですロ」
「うむ…細いというか、どちらかといえば薄いマ」
え…?
僕はたまたまマシュマロ兵の持っていたキャンディーの槍に反射して映った自分の姿を見た。
その姿はもう…
「ポテトチップス…!!?」
そのものであった。
僕は今、ポテトチップスになって、マシュマロの国のマシュマロ兵に取り押さえられている。
「ま、待ってくれ!どうして僕はポテトチップスになって…いや、ジャガイモになっているんだ!?」
「は?そんなの知らないマ。運命だマ。ジャガイモに生まれたお前はマー達の奴隷になるという運命にあるんだマ」
「何故ジャガイモは奴隷になるんだ?!ジャガイモがなにかしたのか?ジャガイモは偉大なお菓子になれるんだぞ?!」
「黙るマ!」
「ジャガイモはシュー達の大事なアレを奪ったのでシュ!」
「そうだロ!ロー達はジャガイモに大事なアレを奪われてから、ジャガイモに復讐すると国レベルで誓ったのですロ!」
大事なアレってなんだろう。ジャガイモがマシュマロから奪ったものとは?そもそも奪えるものなんてあるのか?!
「そ、そんなの知らないよ!少なくとも僕はそれを奪っていない!僕は無関係だ!」
「黙るマ!ジャガイモ!!」
「ギャーーーーーーーーーーーー?!」
マシュマロ兵は僕を蹴った。そして僕の一部はもろく粉砕する。
「これは個々の問題ではないロ!ジャガイモ全体としての問題ロ!」
「そうだシュ!そもそも他から大事なものを奪うなんて最低だシュ!お前もそのジャガイモ達と同じシュ!」
マシュマロ兵達は容赦なく僕を蹴る。
「や、やめて!本当に死んじゃうよ!」
「じゃあとどめを刺すマ!」
「なんで!?じゃあってなに?!」
マシュマロ兵はタッと軽く下のマシュマロを蹴って高く跳ね上がった。そして、僕めがけて落ちてきた。
「ぷるるるるるるるるおぉぉっふぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!」
変な奇声を上げながら。
「ヘブルチィィ??!!!」
他の兵も同じようにして落ちてきた。
「ああうあうあううわわわああああぁぁぁああううううあぁぁあああ!!!!!」
「へぇぇぇへぇぇぇふぇぇぇぇぇえぇぇぇええええええええ!!!!!!」
違ったのは、奇声だけだった。
僕は本当にもう粉々になっていた。死にかけた声で僕は最後に問うた。
「…君たちの…大事な…アレ…って…?」
マシュマロ兵は真顔で即答したんだ。
「「「人気」」」
ただの逆恨みじゃねぇか…。
僕は息絶えた。
3
目が覚めた時、つけていたテレビはすでにクライマックスを迎えていた。
(…ここは?)
自分の家のソファーの上で寝転がっていた。体を起こしてみると、クッキリとソファーに自分のよだれのあとがついていた。
その時僕は確信した。
「ただの…夢か……」
ガチャ
ドアの開く音がした。振り返ってみると僕の姉さんが入ってきた。
「あれ?あんた帰ってたの?」
「え、う、うん…」
「………あ」
姉さんの目が怖くなった。まるで何かに気が付いたように。一目でわかるよ。姉さんはキレている。
キレた姉さんは持っていた袋から白いものを取り出してむさぼり食った。
「姉さん?なに、食べてるの…?」
「マシュマロ。…てかさ、あんたこそなに食べてるの?」
「え?えっと…ポテトチップス?」
「それの裏見た?」
裏?裏にいったい何が…?
マジックで大きく『真白』と書かれていた。真白は、僕の姉さんの名前だ。
僕は姉さんのポテトチップスを、奪った。
僕は人のものを奪った時どうなるか知っている。
「ね、姉さん…ご、ご…」
姉さんはタッと床を蹴って高く跳ね上がり、そして、僕めがけて落ちてきた。
まるで夢に出てきたマシュマロ兵と同じように。
「キョキョキョキャキュキュキョキャキャキャキュキョキョキュキョキャキャキュゥゥゥウウウキャキャァァアアキョキョキョキョキャキャァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!」
違ったのは、奇声だけ…。
僕は誓う。もう…人のポテトチップスを…楽しみに買ってきたポテトチップスを…125円のポテトチップスを……僕はもう、奪わない。
初めての投稿です。いろいろわからないことだらけですが、頑張っていこうと思います。ちなみに自分は『のり塩』が好きです。