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秋の鬱金香  作者: ながみ
1/1

episode1:フミカ

短編をいくつかの視点で書こうと思っておりますので、寛大な心でご閲覧いただけると嬉しいですますです。

 今日も少女が来た。


 * * * *


 夕焼けの名所として名の知れた神社が日本にはたくさんあるが、この森の神社ほど景観がよく儚い場所は唯一無二であろう。轟々と鳴る秋風に揺られる茂みに囲まれ、ひとりただそこにたたずむかのよう山頂手前に建てられた鬱金香(うこんこう)神社。人気(ひとけ)のないこの森の奥深くに、ひっそりと建つこの建物に主がいるわけもなく、今ではただのボロ屋だ。神主も巫女もいないので、元神社というほうが正しいかもしれない。

 しかしながら、こんな荒れ果てた鬱金香の元神社にも客は来るのだ。毎日お天道様がどっぷりと海のお風呂に浸かり始めたころ、少女はやってくる。

 学生ながらの濃紺のセーラー服に身を包み、黒のおさげを二つ、肩から胸にかけて垂らしとぼとぼと俯き歩いてきた。元気がなさそうだと思うかもしれない。彼女はいつもこうなのだ。半年ごろ前から、ずっとこうなのだ。制服の真紅のリボンが夕日で橙に染まる。


「…っ!!! っぐぅっ…!!!!」


 少女は嗚咽をあげていつものように泣き出した。何か悩みがあるのである。


 * * * *


 引っ込み事案な私は高校に入っても友達なんてまったくできなかった。おさげだし、地味だし、暗いし、運動もできないし、いっつも自分の席で本ばかり読んでいた。

 でも、そんなとき私に声をかけてくれたのが、りさちゃんだった。おさげかわいいねって、一緒に移動教室行こうって、こんな私にでもいつもそばにいて、隣にいて、おしゃべりしてくれる存在がうれしかった。大好きだった。ずっと一緒にいたいって、思うようになった。

 りさちゃんと帰り道で別れたあとは寂しくって、いつも近所の鬱金香神社に来た。殺風景だけど、きれいな夕焼けと吹き抜ける風が私の心に染みた。

 そして、この思いは「友達」でいたいんじゃない、キスをしたいの「好き」なんだって気づいた。気づいたときはモヤモヤした心が霧みたく晴れていったことに快感を覚えたけれど、女の子同士なのに恋人になんかなれやしないってそんなの自分が一番わかってる。わかってるのに…なんで……


「…なんで、りさちゃん……、私にこんなに、優しくするのよぅ……っ!」


 * * * *


 悩みがあるのなら、この神社に願ってしまえばいい。しかし、地主も神主もわからぬこの神社に願っても望みが叶うわけもなく。

 それでも少女は、少しでも希望があるならと今にもはち切れそうな綱に手を伸ばし、神社に鐘の音を響かせた。

 

「明日…! 明日こそ、りさちゃんに、私の気持ちを伝えれますように…!」


 鬱金香(うこんこう)とはチューリップ。

 今日もチューリップが少女の恋路の背中をおす。

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