泉と斧
とある森の中に、木こりの青年が住んでいた。
ある日青年が愛用の斧を使って木を切っていると、つい手を滑らせて斧を手放してしまった。
「あ、しまった!」
斧は勢いをつけて飛んでいき、近くにあった泉の中に落ちてしまった。青年は慌てて泉に駆け寄ったが、そこには清らかな水がたたえられているばかりで、既に斧は水底に沈んでしまっていた。
「ああ、この泉は深くてとても潜れない。しかし、あの斧がなくてはこれからの生活が。もしこの泉に精霊でも住んでいれば斧を取ってもらえたかもしれないが、現実はそう都合よくいかないだろ……う?」
これがイソップ童話の世界であれば、今頃自分は金の斧だとか銀の斧だとかをもらえる境遇にでもあるのだろうなあ。
そうのんきな考えを頭に浮かべたのも束の間、今まで清らかだった泉の水がみるみるうちに赤く染まっていくのを見るなり、青年は一目散にこの場から逃げ出してしまった。