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もし私が神なら  作者: 福竹
月光のかわりに
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不完全な月

 王様たちと冒険する夢を見ていた。

 それを認識するのは辛いことだった。だってネコマ王国にサイレンの音がするはずがないのだから。今まで側にいて笑い合っていたと思っていた彼らは急に古い映像の記憶のようにぼんやりとして消えていった。


 そうだ。私達の王様の冒険は終わったのだ。寝不足で頭が痛い。夢の続きが見たい。でも今日はやたらサイレンが鳴る。誰かが誰かを傷つけたのだろうか。この世界はそんなことばっかりだ。そりゃあネコマだっていいことばかりじゃないだろうけど、たまには天空の城が現れたくらいのことでサイレンが鳴る世界なら……。いや、文句ばかり言ってはいけないな。私が夜中までゲームで遊んだ挙句、こうしてブツブツ言っている間にも、おまわりさんは市民の安全を守り続けているのだ。世界を変えようとするならまず鏡の中の自分から。マイケルもそう言っていた。さあ起きようじゃないか。悲しい事件で安眠が妨害されない世界を創るための第一歩ですよこれは…………………………。寝てた。あーっと立ち上がれないね子選手。彼女の野望はここで潰えてしまうのでしょうかー。よしまず目だ。目をあけよう。オープンマイアイズ。寝たら死ぬぞーー。…………はあ。くだらない、いやくだらなくはないかな。一部随分大それた野望があったけど……変なことを考えている内に、ネコマ王国は遠く遠く遥か遠く…………。


 私は主人公たちが夢見た現実に生きている。目を覚まさなければ損じゃないか。

 何度も打ち寄せる波のような感情と眠気が徐々に薄れてくると自然とそう思って目が開いた。横になったまま時計を見ると針はいつも通りの時間あたりを指していた。雨戸を閉めなかった窓から差す光は夕日のように黄色がかってまだ眩しいほどではない。風を入れようと窓まで行く途中で見た鏡の中の自分はぼやけていて眼鏡をかけていないことにようやく気付いた。机の上に置きっぱなしの眼鏡をかけると、もう自分の顔を見る気も失せていた。どうせひどい顔をしているに違いないのだ。

 こちらからあちらからサイレンはまだ鳴り続けている。何か大きな事件のようだ。家の外から近所の人達がそれについて話している雰囲気の声もする。口調からして煙でも見えるのかもしれない。パジャマだし目も開いてないし嫌だなあとは思ったがやはり気になって窓に顔を近づける。

 思った以上の人が道に出て何かを見ていた。頭の角度からして随分と上を見ている。しかしこの窓からは身を乗り出しでもしないと見えなさそうだ。母はもう何か情報を得ているだろうか、そう考えて階段を駆け下りて探すと、もう既に庭に立って空を見ていた。


「ね子ちゃんちょっと来てみ! 謎の物体よ。UFOよ!」


「ユーエフオー? ついに時代が私に追い付いてきたようだな!」


「そうよ。あんたの好きなファンタジーよ」


 母は世界の超常現象ファンを敵に回しそうな台詞をさらりと言ってのけると、ピンクレディーの振り付けをやり始めた。この人からはまともな情報は得られそうに無い。縁側の下の木底のつっかけを履いて庭に出る。母が指差す先に確かにそれはあった。

 だがそれは未確認飛行物体などではなかった。少なくとも私にとっては。


「時代、追いつきすぎ!」


「蜃気楼かしらねえ」


「あれいつ現れたの?」


「ついさっきらしいわよ。テレビでいきなり高崎にUFO出現って騒ぎ始めたのよ」


 居間に駆け戻って着いたままのテレビを見ると話題はもう別の物に移っていたが他局に変えてみると確かに中継で流している局がいくつかあった。まだ八時前だというのに気象の研究をしている准教授が電話でいろいろ聞かれて困っていた。番宣のために出演していた女優がコメントを求められて「ロマンですね~」と言っていた。最近あまり名前を聞かなくなったUFO研究家が活き活きと話している局もあった。

 君たちは一体何をやっているのか。まったく滑稽だ。そして申し訳ないが私は愉快だ。


* *


 王様たちと旅をする夢を見ていた。

 まだ見ぬ大陸を目指す船の上で僕たちはお互いだけが心の支えだった。でもUFOが、自分の想像力が可哀想になるくらい古典的なUFOが現れて全てをぶち壊した。


「おーきーろー! UFO! UFOが出た!!」


 そうだ。彼らはもう旅をする必要はないんだ。今頃は世界を救う旅なんてもうまっぴらだ、きっとそう思っているはず。僕らが続編でも作ろうとでもしない限り平穏の中でそれぞれの人生を送ることだろう。そうあることを願う。しかし……ベタな漫画とかアニメみたいにソフトに起こしてくれる従姉妹が欲しかったね。なんでこの女はいつも殴ったり蹴ったりして起こすんだ? 前に頭の上に一斗缶を落とされたことがあるけど、本当にこいつは人の痛みってものが分かってないよな。はー起きたくねー。こんな攻撃に意地でも負けたくない。しかもUFO。UFOってなんだ。アンアイデンティファイドフライングオブジェクトの略のことだよな。そういうのに興奮するのはどっちかっていうと俺っちの役目だというのに、春が興奮してる時点で大したもんじゃねーんだろーなーって、やきそばか何かだろって一気に興奮冷めやるね。そもそもUFOなんていうものは九十九パーセントは極初歩的な勘違いなんだからさ。だが痛みが俺を眠らせてくれない。物理的な痛みと、ワクワクする夢を終わらせられた精神的な痛みが。この痛みを忘れるには…………やはり眠るしかない。


「あと五分……いや二時間でいい。眠らせてくれ」


「あんた昨日フィオミアから落ちただけでしょ? 私徹夜で戦ってたんだからね!」


「えええ。お前もいたんだ? そうか……そいつは大変だったな。お前もちゃんと寝たほうがいいぞ。UFOだなどと……」


「テレビでも大騒ぎなんだってば! ほらサイレンもあちこちで鳴ってるでしょ?」


 確かにドップラー効果が同じ方向に向かって何度も繰り返されていた。念のため枕元の携帯で調べると確かにネット上でもUFOはいままさに拡散中のトレンドワード。写真付きのコメントが見る間に量産されていく。


「んんん!?」


 ひょっとしてこれはまだ夢なのか? サムネイルをクリックして表示された画像を見てまずそう思った。

 皆がせっせとアップロードしている画像に写っているのはどう見てもフィオミアの下部、月というより中華鍋のような破壊兵器部分、少なくともそれに酷似したものに見えた。


「分かった? 冗談でもなんでもないんだってば」


 テレビを点ける。やはり同じものが写っている。


「いいから庭に出て現実を見ろ!!」


 もう大抵のことでは驚かない。眠る前はそう思っていた。だがこれは夢ではない。裸足のまま縁側から庭に飛び降りるとチクチクと足裏を突付く芝生がそう言っていた。グライダーで間近まで近づき、ついさっきラスボスに突き落とされて落ちる途中で見たもの。それが確かに空にあった。

 すでに望遠鏡を覗いていた隊長は後ろで順番を待っていた父母にそれを明け渡すと、近寄ってきて小声で言った。


「よう。あっちの世界で大活躍だったんだって?」


「ああ……、うん」


「俺ももう一度くらい行きたいなあ。だがこっちの世界も中々熱いぜ。何だあれ?」


「フィオミアだと思うんだけど」


「…………」


「フィオミアで塞がれる前に、天国の門を通って帰ってきたんだよね。俺」


「じゃ門に突っ込んだ部分がこっちに……?」


「出ちゃった、カナーとか……思ってんだけど……」


「私もあの手抜きのフォルムは芳生臭がするなって思ってたわ」


「でもそんなのあの紳士が許すわけないだろ」


「消されるかもね。俺たち」


「案外これが狙いだったんじゃないの? 胡散臭すぎるもんアイツ。あれでこの世界吹っ飛ばすつもりなんだよ」


 僕たちは一体何をやって来たのか。勇者のつもりのただの道化だったのか?


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