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もし私が神なら  作者: 福竹
月光のかわりに
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王都直上会談

 小さな花びらが一枚だけどこからか風に乗ってきて地面に落ちた。通り過ぎて行く人も、王たちも、彼らを見つめる者も誰もそれを見なかった。勢い失せた炎がそれでもまだ木を爆ぜさせるその音だけだけった。怖れと興味の入り混じったいままでのどの沈黙とも違う静けさだった。

 彼らの前に現れたのは車椅子の老女だった。髪は染めたかのように白く、それを後ろで一つに束ねていた。服は今の王たちと同じく、一枚布を巻き付ける形の質素なものだった。

 半円形に座っている四人を見回す青い目は、ゆっくりと左右に揺れそれに合わせて顔も微かに傾いた。


「封印を解いたのはあなた達?」


 予想外の言葉に一同は顔を見合わせた。


「私を目覚めさせたのはあなた達ではないの?」


「あなたは――?」


「女王ニコラコプルールー」 


* *


『祝福された王女ニコラコプルール-。空間を操る能力を持った王一族が長い時の間にその能力を徐々に弱めていく中で生まれた奇跡の子。あらゆる災厄から身を守る結界を常に身に纏い、誰も、父である王でさえ触れることの出来なかった聖女。

 その能力は王が南の島から持ち帰った疫病の嵐からも彼女を守ったが、このままでは王女だけを残して全ての者が死に絶えると悟った宮廷付き魔術師達により仮死状態での眠りにつくことになる。せめて彼女だけでも再び神が戻るその時まで。それだけがフィオミアの最後の希望だった。

 だが不完全な術により封印は意図せずに解けてしまう。目覚めた彼女が目にしたのは、老いさらばえた自分の姿と、王女が目覚めた時のために魔術師達が遺した人形達しかいないフィオミアだった――』


 ね子の書いた設定資料を読みながら芳生は唸った。


「ねえこのルール―さんは若いままじゃダメなの? 若いネーチャンの方が描くの楽なんだけど」


「ダメダメ! 彼女はゼツボーしてるのよ? 一人ぼっちでも若いままならまだ望みがあるじゃない」


「えー。だってこのおばあさんを仲間にするために恋愛シミュレーションみたいな展開になるんでしょ? ユーザー萎えるよ」


「ちゃんとシナリオ読んでないでしょ」


「だってやること多すぎて」


「これはですね。女の子の夢なんですよ」


「ドリーム」


「そう。彼女こそがディーを呼んだ張本人。『夢で呼ばれたのだ』あの台詞はようやくこの場面で収束するのです」


「えええー!」


「えらい驚くね」


「だって……ほらエンディング見たでしょ? 天使よ天使。扉をくぐって彼が出会ったのは。夢で見たのだってきっと若い女じゃないカナー」


「彼女の精神は若いときのままなんだから、夢で助けを呼んだならきっと若い姿だったでしょう」


「そういうスピリチュアルなことでは男はなかなか……納得しないんでは」


「いいえ。相手がおばあさんだろうがエリマキトカゲだろうが自分に助けを求めた者を見つけられたなら絶対に喜ぶはず。だって彼は勇者だもの」


「はあ……マジ勇者だねえ。心底リスペクト」


* *


 互いの事情が分かった後でも、女王は城から降りることを拒否した。


「あなた達が心配しているような、ネコマへの攻撃など始めからするつもりはありません。私はただ、人が大勢いる場所をもう一度見てみたかっただけ。でもここを大穴の中に沈めるなどということは絶対に出来ません。ここにはここで生まれて死んでいった全ての人の骨が埋まっているのですよ。私はここで静かに死を待つつもりです」


 それでも四人は客人として城に入る事を許され沢山の話をした。他愛のない話からかつてのフィオミアの思い出や今のアマトについて。朝夕には交代で彼女の車椅子をおしながら城の庭を散歩までした。

 ホープは持ち前の無邪気さで彼女を笑わせ、ナデシコは同じ王女として正反対となった運命について語り合い、王は互いの身分に関係しない個人的な趣向について意見を交わした。

 そして分かったことは、最後に残った女王としての責務以上に、誰とも触れ合えぬまま遠くないうちに生涯を終えねばならないという絶望は深いということ。

 散った花が彼女の上に落ちてもそれは不自然に曲がって地に落ちる。咳き込む背中をさすろうとしてもそこには見えない壁があって届かない。そういう事がある度に女王はとても寂しそうな顔をした。「一番守る必要のないものを魔術師達は守ろうとしたのです」そう言った。

 ディーが彼女を押した時、フィオミアは既に王都ネコマの上空にあった。遥か上空にまで届く国民の歓声を訝しんだ王はナデシコに抱えられて一旦自分の城に戻っていて、ホープは女王の城で彼の故郷の料理を作っていた。

 高台にある城からは夕暮れの街に明かりが灯り始めるのがよく見える。上から見た彼女が寂しい思いをしないよう生活をしている振りをする人々の明かりはタネが分かれば結局意味も無いとわかっていながら、それでも真っ暗であるよりはずっとましだろうと過去の人々が遺した優しさに違いなかった。


「信じて貰えないだろうけど、俺はこことは違う世界から来たのです」


「それを否定することはフィオミアの祖であるディニクティスを否定することになりますから、信じましょう」


「そうか。確かディニクティスさんはミアキスから来たとか」


「ええ」


「偶然だろうけど、俺のいた世界にもミアキスと呼ばれた土地がありましたよ。かつて、だけど」


「本当ですか。ではひょっとしたらこの世界にとってあなたは神の使いかもしれませんね」


 ディーはそれを自嘲気味に笑うと、綺麗に刈り込まれた植木の間をしばらく何も言わず車椅子を進めた。


「ひょんなことからあのホープとかいうちんちくりんに召喚されて今はなぜか王様と旅をしてるけど、前はずっと一人で旅をしていました」


「旅! 素敵な響きだわ。私も夢の中で随分あちこちを見た覚えがあるのだけど目覚めてしまうと何も覚えてないものなのよね。そもそもが見たこともない空想の場所なのだからしょうがないことなのかもしれないけれど」


「山の夢は見ませんでしたか」


「山……」


「とても高い山です。この城だってぶつかってしまうかもしれない。そんな山の頂上で私を見つけて欲しいと祈る夢を」


 何を言い出すのかと女王は振り返って彼を見た。ディーも彼女を見ていた。


「俺は見ました。髪は王よりも薄い金色だった。頬は今ほどこけていなかったしもちろん皺もなかった。でもあれはあなただった」


 そして手を女王の方へ伸ばして言った。


「俺はあなたを助けに来た」


 恐る恐る伸ばした女王の手は彼の手に直接触れた。 


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