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もし私が神なら  作者: 福竹
ゲームを作ることになって、そして
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銀河鉄道と紳士

 外見と裏腹に、通された部屋は多数の電子機器とそのコードで満ちていた。八畳ほどの部屋に先程も見た飛行機かロボットの操縦席のような芳生の机、部屋に対して少し大きめのテレビ、それに接続されているオーディオシステム、複数のゲーム機、さらに庭からは障子の影に隠れて見えなかったがPCデスクがもう一卓あった。それでも乱雑というほどではなく、到着したばかりで置かれたままの電子機器はあるものの、コードはきちんとまとめられて動線を横切ることはなく、縁側から入った風は風鈴をならしながら部屋を通り抜けていった。


「これブレーカー落ちないの?」


「落ちるよ。だから余程のことがないとクーラー入れないのよこの人達。おかしいでしょ? 群馬の夏をなめてるとしか思えない」


 ね子と春が中央に置かれた長方形のちゃぶ台に着くと、芳生が麦茶をお盆に載せて持ってきた。たくさんの氷が入ったグラスはもう汗をかきはじめていた。春にだけガムシロップが手渡され、彼女はそれをためらわず注いでかき回した。


「一応震災以降省エネにこころがけてはいる」


 PCデスクの椅子に座った大喜がそう言うと


「だから麦茶で汗をかいて失われたミネラルを補給というわけ」


と麦茶を配り終えた芳生が続けた。ね子はなるほどといったが、春は口にはださねどバカみたいという顔をした。


「さて、早速今回の挑戦内容だが……」


 大喜が椅子をちゃぶ台の方に回転させると、他の三人の視線は彼のもつ白い便箋に集まった。


「今回は短期決戦だぜ~? 八末までにアドベンチャーだ」


「無理じゃない!?」


「ツールの使用は自由なんだから、ストーリーさえなんとかなればどうにかなると俺は思う」


「もー本当に恥ずかしいからやめて!」


 何のことかわからずね子に見つめられた春はそう言って机に突っ伏した。


「ああそうか。吉崎さんもいるしな。別にどこかに冒険に行こうっていうんじゃないんだ。ゲームの話なんだよ。アドベンチャーゲーム」


「やったことない? 『何とか殺人事件』みたいなゲーム」


「ああ。うん。ゲームブックでなら」


 その答えに芳生は、いいねえ渋いねえと感心した。


「要はそれに絵とか音楽をつけたものを一ヶ月程度で作らなきゃいけないって話なんだ」


「なんで……ですかね」


「改めて訊かれると俺も一瞬なんでかわからなくなったけど……ネットで知り合ったゲームサークル同士のただの遊びさ」


「なるほど」


「ところが、今まではストーリー中心の課題じゃなかったから騙し騙しやって来たけど、実のところ俺も芳生も物語を考えるっていうのはあまり得意じゃないんだ。春はテスト要員だしさ」


「だから私は関係ないっつーの!」


「そういうわけで、君のそのねこの手を借りたいと言うわけ」


「でも私……そんなに長いの書いたことないんですけど」


「別に歴史に残る名作を作ろうっていうわけじゃないんだ。中学二年生の妄想を大いに羽ばたかせて君が楽しい話を書いてくれればいい。大筋さえ決まれば、細かいところはみんなで考えればいいし」


「絶対やめといたほうがいいよ」


「身内の遊びさ」


 ね子が頷こうとしたその時チャイムが鳴った。

 彼女の答えを待つ沈黙はそのまま四人が訪問者を予想するしじまになり、年長の大喜が対応に席を立つと、聴くための静けさに変わった。その間、恐らく春に黙らされた蝉が先ほどの仕返しのように鳴いていた。


「…………」


 それは半ば二十歳そこそこの大学生が、セールスマン相手にどう対応するのかを見てやろうという意地の悪いものであった。しかし彼が引き戸を開けるとともに出した声は彼らの予想にないものであった。


「んんん!?」


 声を聞いて芳生と春は開いたままの襖までドタバタと行って頭だけ出して覗いた。ね子は他所の家でもあるしそれでもじっと座っているつもりであったが春が手招きして呼ぶと好奇心には勝てず、結局柱の影から半分だけ出した三つの顔が並んだ。

 開けた引き戸の先はぼわりとした明かりの灯る暗い空間になっていた。世界が闇に包まれたわけではなかった。重なった曇りガラスの向こうからはビリビリと蝉の声が聞こえてきたし強い日差しも影を作っていた。しかし大喜が戸を開けた庭に通じているはずの空間は暗くしんとしていた。

 柱に隠れていた三人も裸足で玄関に降りてその不可思議な闇の前に立ち尽くした。目が慣れると、それは古い鉄道車両であるように見えた。空間に伸ばした手は何も触れず、ただ身体を包む湿気を含むものに比べるとひどく無機質な空気があった。映像などではなく確かに存在しているように思えた。

 三人を制してまず大喜が慎重に足を踏み入れた。数歩進んだ彼は車窓の外に何かを見つけたらしく、目を見開いて立ち止まった。それを見た同い年の三人も足を踏み入れて同じ方向を見た。

 窓の外に広がっていたのは銀河だった。完全な闇の中に砂のように散りばめられた見たこともないくらいたくさんの星の集まりを背景に、二つの輪をもつ惑星や、瑠璃色のガス星雲、白い尾を引く彗星が目の前を流れていった。

 例えCGでも――と大喜は言った。


「これはすげー!」


「まるで億万のほたるいかの火を一ぺんに化石させて、そら中に沈しずめたというぐあい……」


「値段がが安くならないために、わざと穫とれないふりをして、隠しておいた金剛石きを誰かがいきなりひっくりかえしてばら撒まいたという風!」


 ね子が呆けたように言うと、芳生も続けてそう言った。


「ちょっとあんた達、言語がいつになく変だよ。気が狂った?? ……でもその気持ち、今はけっこうわかるかも…………」


「銀河鉄道の夜からの引用だよ」


「ああ、スリーナイン」


「そっちじゃねえ」


「小さな黄いろの電燈がならんでいて……青いびろうどを張った腰掛けがまるでがら明きで」


 言いながらね子は車室を一つ一つ確認した。


「向うの鼠色のワニスを塗った壁には、真鍮の大きなぼたんが二つ光って…………いる」


 四人は顔を見合わせた。そして申し合わせたように半袖からでている腕を手でゴシゴシとこすって温めた。


「聴かれてはならぬ話ゆえ空間を銀河鉄道につなげました」


 突然声がして、奥の席で誰かが立った。四人はそれぞれおもいおもいの悲鳴をあげた。

 それは外国人の紳士だった。彼はステッキをついてゆっくりと通路を車両の真ん中あたりまで進んで止まった。ピカピカの靴に懐中時計の鎖。髭はないが鷲のような大きく筋の通った鼻が威厳的な男は、先程よりは穏やかな声で「どうか逃げないでいただきたい」と言った。色素の薄い青い目に似つかわしくない上手な日本語だった。いずれにしてもセールスマンにしては度が過ぎていた。


「これは世界の存亡に関わることなのだ」


あまりの状況にあまりの台詞だった。芳生は年長者の判断を仰いだ。


「隊長、どうしましょう」


「……逃げろ!」


 大喜が叫ぶと、四人は開いたままになっていた扉に突っ込んで大きな音を立ててそれを閉めた。


「なんだ今の……………………世界は崩壊しかけているのか?」


「見なかったことにしたいんだケド……」


「…………よくあるの? こういうこと」


「あるわけないでしょ!」


 バカじゃないのと春は言ったが、それはいつもよりちょっとだけ勢いが無かった。閉じた引き戸の向こうのアブラゼミの声はツクツクボウシに変わっていた。


挿絵(By みてみん)

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