籠の中
「そして街中に転がる白骨を踏みしめて進んだ我々が見つけたものとは!」
「展開早いな」
「うん。もうね。僕スゴイ眠いの。実際は三時間くらいかかったのよ?」
「早いとこ寝ちゃってよかった」
「中央にそびえ立つ城の奥深く! 我らが見つけたのは一つの棺であった!」
「辛気臭いものばっかね。あの子の頭のなか一体どうなってるのかしら」
「開けたのか?」
「もちろん」
「悪の大魔王でも出てきたか」
「よくわかりませんでした」
「あんた本当に役に立たないわね」
「だって棺から煙がモワモワ吹き出し始めるわ、誰もいなかったはずなのに足音がドタバタ近づいてくるわ、紳士は紳士で出口が開いたので帰りましょう言うわで気がついたらこの部屋ってわけさ」
「それなりにスリリングだったんだろうけど、お前が語ると本当につまらなく聞こえるな」
「詳しくはこれから吉崎さんが書いてくるシナリオを参照してくれ!」
* *
「というわけで気球を手に入れた王様一行は」
「君も展開早いな」
「も?」
「いやなんでも。じゃあ俺の考えたあの名作ミニゲームをここで使うわけだ」
「ええ」
「よし、この王様ちょっと強いからって調子にのってやがるからな……新しく絶対勝てないような思考ルーチンを組んでやろう」
「他の人達もみんな気球で城を目指すんでしょ?」
「うん。でもこの世界ではまだ城まで到達できるほどの技術はないのよ。だからみんな届かないわけ」
「じゃあ王様もだめじゃない。やっぱり巫女を……」
「他の冒険野郎達が到達できない原因は燃料なの。しかし王様一行には召喚士がいた! 彼がサラマンダーを何匹か召喚して口からボーボー火を吐かせることで王たちだけは燃料切れの心配ナッシングというわけなのです」
「なるほどねー。……あれ? そもそも召喚士がワイバーンなんかを召喚してそれに乗っていくというのはできないの?」
「……できません。三人が乗れるほど大きなものはまだ彼には召喚できないのです。出来たとしても制御不能でしょう」
「今考えた?」
「フフフ」
「まあそれでいいよ。前作でもポテンシャルだけはスゴイという設定のキャラだったし、どこかにそういう会話を入れておけば」
「そうします」
「とにかくようやく天空の城に到達というわけだ。さあ! そこで彼らを待ち構えていたものとは!!」
「ところがそう簡単にはいかないのです」
「あらー?」
「次のページを御覧ください」
* *
「海に出てしまったぞ! 一旦戻れないのか?」
「無理ですよ! 気球っていうのは基本的に風まかせなんですから!」
トシデスから三日ほどの山間の町の側からは多くの気球が飛び立ち、始めから半ば分かっていたことながら、山や森のなかに消えていった。浮力を得るための熱気を召喚獣から得ていた王たちの船だけがその様子を遥か下に見ながら順調に高度を上げ続けた。
しかしあと少しというところから気球は吸い込まれるように城に近づいた後、横殴りの風によって流され始めた。
「城と同じ気流に乗ってしまったようだな」
さっきからずっと、まるで城を先導するような形で進んでいることに気付いた王が言った。
「こちらの方が軽い分離れるばかりだな……。おい! もっと上昇できないか?」
「ごめんなさい。僕、もう、ゲンカイデス」
きゅうという音がしそうな勢いでホープは籠の中に倒れた。彼が抱えていたサラマンダー達もそれと同時に消えた。王とディーは彼を抱えてなるべく楽な体制を取らせようとしたが狭い籠の中では胎児のように足を折り曲げて寝かせるのが精一杯だった。
「無理もない。半日近くも召喚し通しだったものな」
「鍛え方が足りんのだ」
「お主はこの者に随分厳しい気がするのだが」
「最初に会ったとき召喚主だかしらないが命令口調でとにかくうるさくてね」
二人はホープを跨ぐようにほとんど爪先立ちのようになって会話した。下を見れば海がどこまでも広がっている。雲さえ遥か下だった。
「森で”はぐれ”や亡霊に出会ったときでも、お主等がいたから恐怖は感じても絶望というのは感じなかったが……今は少しそれを感じている。地に足をつけていないというのがこれほど不安なものとはな」
アマト外輪山を越えて彷徨う魔物は”はぐれ”と呼ばれ恐れられている。巫女や外輪山のいくつかの拠点に構える兵士達の働きによって、その数は多くはない。しかしそれを見たもの達に多く共通する感想は感じたことのない恐怖である。
魔物の形状は一様でない。大きいものから小さいものまで様々だ。だが他の動物と比べて明らかに異質という点で一致していた。異なるもの、在るべきのないもの。それは見れば分かった。それでも魔物でさえもこの世界の一部であることに違いなかった。逆らいようのない力、常に全てを包んでいるもの。それが己を流すとき人が感じるのは無力感であった。
「諦めたらそこで冒険終了。冒険者ならだれでも知っている言葉さ」
「そうだな。王が諦めたら国が終わる」
「まだ高さは十分にある。少し休めばこいつも復活するだろう。どこまで続くのかは知らないがこの気流に乗っていればいつか陸地に着くかもしれない。絶望には程遠い」
「ああ」
そうは言ってもできることはなく、座ることもできず向かい合ったままの二人はしばらくただ周囲を見回して過ごした。再び言葉を発したのはディーの方だった。
「そういえば妹さんがどうとか言ってたけど、何かまずいことになってるのか?」
「妹はアマトで戦う巫女なのだ」
「何でまたお姫様がそんなことを」
「これまで何代にも渡る政治的しがらみ、というやつよ。もっと簡単に申せば、戦い続ける彼女らを見捨てはしないという証。つまり人質というわけだ」
「ふうん」
その相槌には否定的な響きがあった。
「戦うものには、生きている可能性がある限り必ず助けに来てくれる、そういう存在が必要なのだ。それが形だけのものであっても」
王は言い訳のようにそう言って籠の淵で頬杖をついた。風に舞う髪が目を覆っても構わず何かを考えているようであった。
「だが、」独り言のように言った。「戦いそのものがなくなってしまえば」
「いいお兄さんだな」
「そうだろう?」
「ただ無鉄砲なだけの王様だと思っていたよ」
「それでも姫である以上、籠の鳥であることに代わりはないのかもしれないが」
話は途切れ二人はまたくり返し模様のように続く海と、後をついてくる鳥籠にも見える城を眺めた。




