挑戦状が届く
知らしめるために春はね子に「離れ」と呼ばれる勇者製作所を外から覗かせた。
「到着二十分でこれよ?」
そこでは、挨拶を済ませた芳生が既に通常体制に移行しつつあった。彼は半分寝るようにシステムチェアを深くリクライニングし、机の前面と左右に配置されたデバイスをもって眼前に広がる三面のディスプレイに様々な情報の花を咲かせ始めていた。春は心底うんざりした様子で「超うんざり」と実際声に出して言った。
「一日の半分くらいあの体制のまま夏を過ごすのよ」
「床ずれとかできないのかしら」
「学校が長い休みになるとやってきて、ああやってただ怠惰に時を過ごす生き物なのよあれは。石をどかすと何か生き物がいるでしょう? あれと同じと考えればいいわ。虫なら夏休みの自由研究になるかもしれないけどあれの観察は時間のムダよ」
ね子は茂みに身を隠すためにしゃがんでいた手元にちょうどあった石を両手で持ち上げ、現れた湿った土の上をしばらく眺めると満足気に石を戻した。
「いた」
「ひとんちの庭ほじくり返さないでくれる?」
「ほじってはいない」
「いいから早く帰れ」
ね子が何か言いかけると玄関から大喜が出てきた。彼は妹を見つけると嬉しそうに
「おーい春! 挑戦状が来たぞ~」
と言った。彼とは対照的に妹は、まるでダンゴムシを噛み潰してしまったような顔をした。
「もおー友達いるんだからやめてってば! 第一それ私関係ないし!!」
大喜はお構いなしに離れに続く石の道をこちらに向かって来た。手には表に赤字で『挑戦状在中』とかかれた郵便封筒をひらひらと掲げていた。
「……よくくるの?」
「何が」
「挑戦状」
「………………………………年に三回は来る」
「豪気だねえ」
「一応ことわっておくけど私にじゃないよ」
「え、じゃあ…………お母さんに?」
「あんた人の母親なんだと思ってんの?」
「なんか面白そうな人だった」
「はぁー?? 面白い人の家には挑戦状がくるんですかぁー? じゃあなんであんたの家には来ないんですかああー??」
「……うちはあんまり面白くないから……」
「面白いとか面白くないとか、そういう問題じゃないんだよ! コレだよコレ! 変な兄がいると家に挑戦状が来るの!」
「ところで春。友達に小説とか書いてる奴いないか」
二人の前まで来た大喜は春の言葉は全く聞こえなかったように穏やかに聞いた。春はそれには答えず、側で鳴き始めた蝉に向かって「うるさい!」と言った。蝉は鳴き止んだ。
「実は私 「いない! そんな暗いやつが友達にいるわけないでしょ?」
「いるいる。これが実はいるんだなー」
「お前は友達ではない!」
「さっき友達って」
「あれは嘘」
三人の話を聞きつけて、芳生も縁側まで出てきた。
「挑戦状来た?」
「おう。しかもストーリー担当候補もたった今見つかった」
やったね。と芳生が言い、もう最悪と春が言った。ね子はその間三人の顔を交互に眺めていた。




