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チェンジ

作者: やらしみず

「こんなこといいたくないけど……最後かもしれないから、キスして」

 これから戦いに行く僕に対して優子はそんなことを言った

 服の袖を強くつかんで、こぼれそうな涙を必死で抑え真っ赤になった顔で僕の目を見つめてきた


 今の正直な気持ちとしては――すごくうれしい

 いままでお互いに直接気持ちを伝えることはなかった

 それなのに今お前は僕への好意を伝えてくれた

 こんなにうれしいことはない

 

 ――でもだめなんだよ優子


「帰ってきたらさせてよ、キス」

 僕は君とキスをするわけにはいかない 

「……」

 ここでキスをしたら、君とキスをしてしまったらきっと君は不幸になってしまうだろう

 

 君が思っているとおりたぶん僕は帰ってこれない

 十中八九、いや九割九分九厘ぐらいの確立で


 でも君には幸せになってほしいんだ

 僕の残響なんて見ないでほしい

 僕が死んでも、別の人と幸せになってほしい

 だから――これでいいんだ

「……帰ってこれなかったら」

 床を見ながら優子はそういった


 それに対して僕は

 『僕のことは忘れてくれ』というつもりだった

 もしくはそのまま去ってしまうのも良いだろう

 しかし優子の涙が重力によってこぼれ落ちたとき

「帰ってくるさ」

 ――反射的にいってしまった

 思ってもいないことだが言わずにはいられなかった

 

 優子のないている顔を――これ以上見たくなかった



 お前には笑っていてほしい

 くだらないことで笑ってくれるお前でいてほしい

 お前のその笑顔が、大好きだから

 

 だから最後に笑顔を見せてくれ

「それに帰ってこれなかったら、俺は一度もキスしたことないで死ぬってことだろ?そりゃかんべん」

「ふふっ、じゃあなおさらしたほうがいいんじゃないの?キス。少なくともしてから死ねるよ?」

 笑った

 優子は笑った

 涙の中に笑顔を作った

 僕のまったく面白くない、馬鹿みたいな発言に対して

 ――いつもどおりに


「――はっ、つーかお前とキスなんかしたくねーよ」

 

 ごめん優子

 君の笑顔を最後に見たくて笑わせたけど、それは失敗だったみたいだ

 僕の気持ちが変わってしまった


 ――もっと見ていたいと思ってしまった

 一緒にいたいと思ってしまった

 いや、思ってはいたが思ってはいけないとしまっていたのだ

 でも、人間の欲はそんな簡単に抑えられるものじゃないみたいだ


 だからほかの人と幸せになってほしい――なんてこと僕は一ミリも思えない

 だから僕のことを忘れてほしい――なんて少しも思わない

 だから――


「そんなことしたら戦うに行く前に昇天しちゃうだろ、バカ」


 ――だから伝えよう、気持ちを

 今までいえなかった僕の気持ちを

 いつの間にか僕の心にあった気持ちを

 まっすぐに――



「お前のこと死ぬほど好きなんだから」

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